第29話 貴族って性格悪い

 「私は、グランデスの領主フォルタ・カリンガル伯爵が四男、セイオス・カリンガルと申します。父カリンガル伯爵が国王陛下の命を受け、お訪ねのアラド殿と、父を通じて陛下との繋ぎを付ける為に会見致しておりましたが・・・」


 セイオスの言葉を聞き、ジュアンデがギョッとした顔になるが、室内に誰もいないので元気を取り戻した。


 「ほほう、しかし・・・誰も居ないようだが」


 室内を見回し嘯くジュアンデの襟首を掴み、ドアの外で待機している奴の部下に向かって叩き付けた。

 部下共々、通路の向かいに転がり呻くジュアンデを尻目に、別れの挨拶をする。


 「セイオス様、邪魔が入りました、何れご連絡を入れる事もあるかと」


 そう告げると、セイオスは誰もいない開け放たれたドアに向かって「お待ち致しております、アラド殿」そう答えて深々と頭を下げた。


 誰もいない筈の場所から声がして、セイオスがそれに応えて頭を下げるのを、 ジュアンデがマジマジと見ている。

 セイオスも大概に人が悪いね、これで俺に逃げられたのはジュアンデのせいに出来る。

 止めに、ジュアンデの顔を一発蹴り上げて俺が居た証拠とし、ホテルを後にした。


 さて、俺がこの街に居るのが知られてしまった。

 フードを被っていては買い物もし辛いし、サランと二人連れだとも知れ渡っていると思われる。

 ウインザの街を去るときだろうが、何処に行くかが問題だ。

 サランに行きたい所はあるかと問えば、大きな街が良いと即答する。

 理由は食事だ、店舗にせよ市場にせよ品物が豊富で美味いと嬉しそうに言う。

 アスフォールに向かうのは面倒なので、必然的に王都の方向に向かう事になった。


 * * * * * * *


 セイオスからの報告を受けた、カリンガル伯爵もほくそ笑む。

 王国騎士団のジュアンデ殿には深く感謝したいが、礼をするのも憚られるので感謝だけにとどめた。

 しかし、事の一部始終をグルマン宰相に伝える事は怠らなかった。

 アラドとの接触が断たれた責任は、ひとえに王国側の通達が徹底しなかったせいにしてしまった。


 カリンガル伯爵はグルマン宰相に、「私は以前『立場を笠に着ての物言いや、行動は厳に慎むべきです』とお伝えしましたが、配下の方々に徹底しましたか?」

 そう言われて、グルマン宰相は返す言葉が無かった。


 「もう一つ、彼の言葉ですが『用件も判らない相手と会う気はないと。例え国王陛下だろうと、それは同じだと』 彼自身も言ってますが、『一介の冒険者であり流民で在る自分は、他者に跪く気が無いので、それを強要するのなら如何なる依頼も受けない』だそうです」


 カリンガル伯爵との会談を終えたグルマン宰相は、即座に王国騎士団の騎士団長を呼び付け、アラド捜索の者達に私の言葉を伝えたのかと詰問した。

 命令の徹底が為されなかった事に対して、グルマン宰相も騎士団長もアラド捜索失敗の全責任をジュアンデに負わせて、生け贄として命令の徹底を図った。


 後に此の事を知ったセイオスは、彼も又貴族の子弟である。

 お可哀想にと思ったが、不快な対応をした彼の事は直ぐに忘れてしまった。


 ウインザでの失敗を教訓に、問題の人物らしき者を見つけても接触は禁止されたので、極偶に市場で食料を大量に買っていたとか、それらしき者を見掛けたとの情報がグルマン宰相の元にもたらされた。

 その情報はカリンガル伯爵と共有されて、彼が落ち着いた時に某かの依頼をする事になっていた。


 * * * * * * *


 ウインザを出て、カルガリ街道をたどって王都方向に向かう。

 ウインザ・キンサ・アンシェ・ルビック・バンゲン・クリスチ・ランゲルへと街と街の間を2~3週間の感覚で移動して、その間は買い溜めした食糧が無くなるまでサランの魔法訓練に励む。


 ウインザを出たのが八月の半ば過ぎで、ランゲルに着いた時には十一月も終わろうとしていた。

 その間に俺の魔力は15増えて魔力 181に、サランは魔力118になった。

 サランは魔力が上がると共に、火魔法と氷結魔法を習得したので、残るのは風魔法と雷撃魔法のみとなる。

 風・水・火・土・氷・雷・に、転移・鑑定・結界・治癒・収納・隠蔽ときた。

 多分今でもホーランド王国最強の魔法使いだろう。

 サランの親が此の事を知れば、金の卵を二束三文で売り飛ばした事を泣いて悔しがる筈だ。


 面白いのは魔力が上がり、現在魔力は118、1/118の魔力を使って射つと1/100の威力と同じ。

 118の魔力を調整せず1/100で射つと、1.18の魔力を使用して攻撃する事になり、僅かだが威力が増している。

 他の魔法使いの攻撃を鑑定した事が無いので確信は持てないが、魔法攻撃ならサランの方が威力が有ると思う。


 試しに1/100の魔力でドームを作り攻撃させてみたが、十分に耐えるし内部を凍らせたり燃やしたりさせたが出来なかった。

 やはり円筒状の結界だと、完全に封鎖していないせいで魔法攻撃が有効になるようだ。

 実験序でに嫌がるサランを説得して、防御障壁を纏った俺を攻撃させたが、魔法攻撃防御の服が全て防いでくれた。

 腕まくりをした片腕は防御障壁が防いだが、衝撃で振り回される事になった。

 足が地について・・・防御障壁が地に固定されてないのが原因だろうと思う。


 攻撃魔法がちょっと羨ましくて、俺の魔法で攻撃可能なものを選択、転移魔法で空中に放り投げるのは極めて有効だが、落ちてきたものは見たくない。

 俺の周囲の者を確実に倒せる攻撃方法はと考えた結果、結界魔法を利用する事にした。

 防御障壁として身に纏ったりドームに板状と円筒形、自在に形を変えられるのなら剣に纏わせ刀身の延長として使えると思いついて練習をした。


 これは案外早く習得できた、防御障壁の延長と考え、手に持つ長剣も防御障壁で包み剣先を伸ばしてみた。

 隠蔽を掛けてない、全長2mの光の剣。

 中二病全開の剣を手にしたときには、思わず赤面してしまった。

 サランが〈ふぁーぁぁ〉なんて声を上げたので恥ずかしくて直ぐに消滅させたが、サランの琴線に触れたようで、キラキラお目々で見つめられた。


 お前も中二病患者か! とは言わなかったが、此れを応用して手槍を利用した光の槍も自在に作れる様に練習をかさねた。

 サランは風と雷撃以外の攻撃魔法は一応習得しているが、習熟して自由自在に使える様にと練習中なのに、光の剣と槍を教えて下さいと目をウルウルして頼み込んできて、熱心に練習している。


 そりゃー、ライトサーベルって格好いいもんな。

 それも隠蔽魔法を掛ければ見えなくなるんだけど、それは危険極まりないので俺の周囲では練習禁止にした。

 俺は、ライトサーベルの長さが最大20mまで維持できるようになり、強力な武器を手に入れて満足だ。

 切れ味はイメージに左右されるので、サランのライトサーベルは棍棒と似たり寄ったりの性能だった。

 まっ、これも練習次第イメージ力を上げなければ使いこなせないだろう。


 ブレスト領ランゲル、ウインザと似たり寄ったりの大きさの街に見えるが、商業ギルドに直行して腕の良い鍛冶屋と木材加工所を紹介して貰う。

 鍛冶屋はサランの長剣と短槍にショートソードを注文する為で、木工所はキャンプ用の小屋を作って貰う為だ。

 特に雨の日の野営は、ドーム内の地面も濡れていて湿度100%で不快極まりない。

 体温調節機能が付与された、服やローブを着ていても嫌になる。


 小さくても木の香りのする部屋が欲しくなったし、ランク10や12のマジックバッグも有る。

 それに空間収納も大きいと確認出来たので、何処にでも収容できるかので無問題。


 ハーメン通りの〔テボリエ鍛冶店〕に向かう、サランの指差す先にくすんだ煙突の家が見える。

 店内は薄暗く人気も無いが、店の奥から槌音が聞こえるので奥に向かう。

 金床に置いた金属棒を叩いているのが親方か、大ハンマーを振っている男は息子の様に見受けられるよく似た顔。

 鍛えていた金属棒の色が暗くなり、火床に差し入れたのを見て声を掛ける。


 「剣を一本頼みたいのだが」


 「なんだぁ、客か?」


 客以外に誰がこんな所まで来るんだよ、と思いながら頷く。


 「どんなやつが欲しいんだ、つまらん仕事なら他を当たりな」


 商業ギルドで聞いたとおりの偏屈親爺のようだ。

 黙ってお財布ポーチから長剣を取り出して見せる。

 受け取った剣を抜くと、舐めるように刃先から鍔元までを何度も見直しバランスを確かめている。


 「何処で作った?」


 「アスフォールのウランゴ鍛冶店」


 「奴の店か、良い腕だな」


 「知ってるの?」


 「兄弟弟子だ、此れに負けない奴を打ってやるよ。物は魔鋼鉄で良いんだな」


 「彼女に合わせて欲しいんだ、それと短槍とショートソードも」


 長剣と手槍は各45万ダーラ、ショートソードが35万ダーラの125万ダーラ。

 ウランゴ親方と同じ値段で打ってやる、奴より良い物にしてやると張り切っている。


 受け取りは2週間後と決まり、代金を支払って店を出る。

 次はウプサラ通りの〔バルナク木工所〕に向かうが、胡散臭そうなのが横一杯に広がって歩いて来る。


 「サラン、絡んで来たら蹴り飛ばせ。殺さない程度にな」


 正面に立ち塞がった男が、フードを被っているのに態々覗き込んでくる。


 「おんやぁー、可愛いお坊ちゃまと骸骨見てえな野郎だぜ」


 チンピラが、絵に描いたような絡み方をしてくるので、思わずクスリと笑ってしまった。

 この10ヶ月近く、しっかり食べて結構お肉が付き、少しは女に見える様になったのに酷い言い草だ。

 お前が揶揄った女は、そこいらの力自慢より危険な奴だぞと、腹の中でせせら笑っておく。


 〈オイ、笑っていやがるぜ〉

 〈舐められたもんだな〉

 〈俺達を虚仮にしたんだ、相応の謝罪と詫びの金を貰おうか〉


 「端金を集って命を危険に晒すなよ。馬鹿にしたそいつは強いぞ」

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