第27話 訓練の日々

 カリアドから話を聞いたブルームスは驚いた。

 アラドなる冒険者は、治癒魔法のみならず結界魔法を良くし、多少の空間収納も使えると判明した。


 ブルームスは知らなかったが、アスフォールやウインザの冒険者ギルドでは、アラドの治癒魔法は有名だったが、王都にまでは噂が届いていなかったのだ。 これはグルマン宰相が、〈如何なる手段をもってしても王都に招け〉と厳命する訳だと頷くが、そのアラドの行方が判らない。


 大々的に捜索するには、問題が大きすぎてそれも出来ない。

 彼の能力を知れば、支配下に置こうとする貴族や豪商達が動き出し、収集がつかなくなる。

 噂のままにしてその間に静かに探すしか方法がなく、グルマン宰相にその旨を記した書簡を送った。


 * * * * * * *


 ブルームスから送られてきた書簡を読み、グルマン宰相は驚いた。

 グランデス領アスフォールの街の冒険者ギルドでは、既にアラドの治癒魔法は知られており、領主のカリンガル伯爵とも面識が在ること。

 突如アスフォールの街から姿を消し、ウインザに現れて事件の発端となる騒ぎでも治癒魔法を披露している。その結果が今回の騒動の原因だとは・・・各地に忍ばせている耳達は何をしているのかと嘆いた。


 アラドを良く知ると思われる、カリンガル伯爵から詳しく話を聞きたいが、宰相と謂えども軽々に領主を呼び出せない。

 国王陛下の裁可を仰がねばと、王城の奥深く陛下の執務室に向かった。


 * * * * * * *


 十日も経ずカリンガル伯爵の元に、国王陛下からの呼出状が届いた。

 アラドなる冒険者について詳しく聞きたいので、彼に関する全ての情報を集めてグルマン宰相の下に出頭せよ、と。

 既にカリアドからの知らせを受けて、王家がアラド獲得に向けて動き出した事を知っていた伯爵は、手遅れにならない事を祈りながら即座に王都に向けて旅立った。


 * * * * * * *


 アラドはサランと共に、エコライ伯爵邸にブルームス率いる一団が雪崩れ込んだ時、彼等と入れ替わりに伯爵邸を出てウインザ近くの草原に向かった。

 約三ヶ月、サランがたっぷり食べた食事の同量以上の食事を作らせて、せっせと空間収納に備蓄していた。


 伯爵邸に逗留して、魔力操作と魔法の訓練に励んだサランは、現在水魔法・結界魔法・隠蔽魔法・空間収納を取り敢えず習得している。

 魔力も67に上がり、空間収納を習得してからは食料保管はサランの仕事になっていた。

 サランと自分の空間収納の最大容量がどの程度なのか、一度確かめておく必要が有るのだが、マジックポーチが有るので急ぐ事は無い。


 冒険者達が近寄らない荒れた草原の一角に拠点を作り、一日二回の魔力放出とサランの魔法訓練を本格化させる事にした。

 ドーム内にエコライ伯爵邸に逗留している間に買いそろえた、キャンプ用ベッドやテーブルに椅子などをセットすると、転移魔法の訓練からだ。

 ドームの出入り口を作って開けておくには草原は物騒だし、かと言って一々俺が出入させてやるのも面倒なので転移魔法を教える。


 サランに転移魔法を使っての壁抜けの要領を教えるが、判りやすくする為に結界に手を当てさせ、向こう側へと念じろと言い聞かせ、壁抜けをしてみせる。

 サランが俺を真似、壁の向こうにと呟き目を閉じると、一発で壁の向こう側に消えた。

 此奴って俺の言った事を疑いもせず実行するので、魔法の初歩を簡単にクリアするんだよな。


 「目を開けて見ろ」


 俺に声を掛けられて目を開け、キョロキョロと周辺を確認している。


 「あー、後ろだ。結界を通り抜けたんだから、元いた場所は後ろだよ。今度は目を開けたまま、手を触れずにやってみろ」


 何だかんだで、2週間も過ぎると結界と隠蔽は自在に扱えるようになった。

 転移魔法も一瞬のタイムラグはあるが、目視範囲なら自由にジャンプできる。

 水魔法・結界魔法・隠蔽魔法・空間収納・に転移魔法を教えたので本格的な攻撃魔法を教えたいが、その前に治癒魔法だろうと思い、練習の為にゴブリン狩りに向かう。


 今なら野獣と遭遇しても危険は無いし、魔鋼鉄製の長剣を持たせているので多少の野獣なら楽に相手出来るのも判っている。

 何せエコライ伯爵邸での魔力操作や魔法訓練の合間に、身体が鈍るのを防ぐ為に短槍や長剣を振り回していた。

 其れを見たサランが、私も剣の稽古をしていたと言い出したので持たせてみた。


 サランの剣の持ち方はロングソードの両手持ち、両手を前後に揃えて持つ持ち方なので、日本刀の様な片刃で両手の間隔を開けて持つ方法を教えると、自在に振り回して俺より数段実力が上だった。

 もっとも俺は、学生の頃に竹刀の持ち方を教えて貰った程度の素人剣法だから、比べるのも烏滸がましい。


 サランは元々同年代と比べて力が強かったのが、2年間の基礎教育が終わる頃からめきめきと身長が伸び、それと共に大量に食べるようになったらしい。

 それ迄は力が強いので、魔法を授からなくても冒険者で稼げるだろうと親も期待していたそうだ。


 9才過ぎた辺りからめっきり食事量が多くなり、授けの儀では神様のエラート言われて愛想を尽かされたんだと悲しそうに話してくれた。

 子供の大食と、成人前後の大食では量が全然違ったろうし、貧しい家庭には大打撃だったのは想像に難くない。

 文字通り食い潰される恐怖から、サランを放逐する為に奴隷商に売ったのだろう。


 4ヶ月以上好きなだけ食べてきたので、骨皮筋右衛門からガリ痩せ位には肉が付いてきたが、細い身体で魔鋼鉄の長剣をヒュンヒュン音を立てて振り回すのを見ると、基本的に身体の作りが違うと思う。

 俺も同年代と比べて力は強いと思うし、その上魔力を纏って筋力瞬発力ともに上昇しているのに勝てる気がしない。


 防御障壁が有るので怪我をしないから良いさと、負け惜しみ気味に考えなずらゴブリンを探して草原を彷徨う。

 見つけたゴブリンを手負いにするのだが、傷が浅いと逃げられる(逃がす気は無いけど)、されどサランが本気で長剣を振り回すと、手足がスッパリ切り落とされて瀕死の状態になり、治癒魔法の練習と言うよりただ治すだけになる。


 魔力を絞り、擦り傷切り傷から骨折等段階的に魔力量を調節しての、治療を施す練習が出来ない。

 仕方がないので、隠蔽魔法を利用して近づき棍棒で殴りつけて蹴リ倒してから、治癒魔法の練習をゴブリンに協力して貰った。


 キャンプを始めて一月、一日二回の魔力切れのお陰で俺の魔力は142、サランも魔力79になった。

 攻撃魔法が無いので実感が湧かないが、転移魔法や鑑定魔法が強力になった・・・と、思いたい。


 それから二ヶ月、八月も半ば過ぎになって食糧が乏しくなってきたので街に戻る事にした。

 この間、一日二回の魔力切れを続け、二ヶ月で魔力が24アップした。

 結果俺の魔力は166になり、サランも103と魔力が倍増したお陰で、攻撃魔法に選んだ土魔法の能力も満足できるものになった。

 ストーンアローで3連射を103回、ストーンランスで103発、ストーンジャベリンで51発を射てる様になった。


 但し20発程射った後、鑑定魔法で残魔力を確認しての推定値だ。

 魔力切れまで射つ訳にもいかないので、一割減程度が限界だろう。

 然し、命中率は今一で今後も命中率向上を目指して扱くつもりだ。


 * * * * * * *


 ウインザの街に戻るのは気が進まなかったが、周辺に大きな街は無いし、あれから三月も過ぎているので少しは落ち着いていると思って帰った。

 金は腐るほど有るので食糧買い出しの序でに、サランの服とローブを新調する事にした。

 街の出入り口では隠蔽魔法で姿を隠して通り、市場の物陰で解除してから買い出しに励む。


 金は有るのだが金貨が多く銀貨が少なくて困り、商業ギルドで両替を頼む。

 金貨10枚100万ダーラを両替して、手数料2%引かれて98万ダーラを受け取り、半分をサランに持たせる。

 序でに機織り蜘蛛の生地で魔法付与の服を作りたいので紹介を頼む、金貨10枚を両替したばかりで、革袋に詰まった金貨を見ているので即座に奥に案内された。


 サランのズボンとフード付きチェニックにワンピースとフード付きローブにブーツを注文する。

 途中で金貨400枚を超えると心配されたが、革袋5個をテーブルにのせると一礼して注文を受けてくれた。


 全て魔法攻撃防御と防刃打撃防御に体温調節機能の魔法付与とした。

 フード付きチェニック、450万+300万+100万=850万ダーラ

 ズボン、400万+300万+100万=800万ダーラ

 ワンピース、700万+300万+100万=1,100万ダーラ

 フード付きローブ、1,050万+300万+100万=1,450万ダーラ

 ブーツ、100万+300万=400万ダーラ

 全て生地代+魔法付与代金+仕立代込みだが結構なお値段だ。

 合計4,600万ダーラ、金貨460枚。

 アスフォールの街で作ったときよりも少々お高めで、仕立代も全てに100万ダーラ掛かり、ちょっとぼったくられた気分。


 五袋の金貨の袋から残金の金貨40枚を、全て銀貨に両替して貰いサランと革袋を二つずつ分ける。

 注文した服はワンピース以外は冒険者仕様でワンピースもチェニックも両ポケットはお財布ポーチとマジックポーチが取り外し出来る様に特注した。

 俺もサランも空間収納が有るので必要無いが、他人の目が有るところでは容量が小さい事にしてあるので、お財布ポーチやマジックポーチは必須だ。


 数が多いので、7日後の受け取りを約して商業ギルドを後にする。

 街のホテルに泊まろうかと思ったが、イヴァンロの残党がいないとも限らないので、万が一騒ぎになるのを恐れて街の外に出る。

 翌日から1週間せっせと市場を巡り食糧と香辛料やお茶にエールと買い出しを続けた。

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