第23話 準備完了

 震えるイヴァンロに命が助かる方法は一つと告げると、何でもしますから助けて下さいと縋りついてきた。

 気は進まないが、地下牢に閉じ込められている人々解放の為に、此奴を利用するのが一番手っ取り早い。

 先ず女性の牢を開けさせて、奴隷の首輪を外させるが騒がない様にと言っておく。


 「イヴァンロ、奴隷の首輪解放の呪文は何だ?」


 「血を一滴落として『我イヴァンロが命じる、汝を解放する』です」


 「此処の奴隷の首輪は、全て其の呪文か?」


 頷くイヴァンロに、奴隷の首輪を嵌めるときの呪文を聞けば『我イヴァンロが命じる、以後我の命に従え』だそうで、血を垂らし呪文を唱えた者に従うとの事。

 呪文はそれぞれの装着者が自由に決めるそうだ。

 そして首輪の装着者が命令に背けば、首と頭に耐えられない痛みを与え続けるそうで、時には死に至らしめると言った。


 女性7人の首輪を外し終えるとイヴァンロを跪かせて奴隷の首輪を装着し(我アラドが命じる、以後我の命に従え)と口内で呟く。


 「以後俺の命令には絶対服従で逆らうな。俺から逃げる事、俺を害する行為を禁じる。全ては俺の利益の為に動け!」


 呆然としているイヴァンロに、お返事はと問いかけると情けない顔で「判りました」と返事をした。

 此れで此奴は俺から逃げられないし逆らえない、怪我を綺麗に治してから成人前後と思われる男女の首輪を外させる。

 病人から外した首輪を含め、13個の首輪は全て俺のお財布ポーチに入れて、この後の展開に備える。


 幼児三人を女性達に預けて病人を(鑑定!)〔女性、狼人族、病気衰弱〕んな事は判るんだよと毒づき乍ら(ヒール!)。

 異様に痩せた人物の鑑定は〔女性、ドワーフ1/2エルフ1/2、空腹衰弱、*****〕、空腹衰弱ってなによ?


 「イヴァンロ、飯を食わせて無かったのか!」


 「違います。その女にも普通に飯を食わせてます。でも直ぐに腹が減ったと言ってどんどん痩せてしまったんです。女だから娼婦にと思って買ったのに、こんなガリガリでは店にも出せないし・・・」


 ぼやき出したよ。


 しかし*****って、鑑定で読み取れないのか?

 再度集中し魔力を2に増やして(鑑定!)〔女性、ドワーフ1/2エルフ1/2、空腹衰弱、風魔法・水魔法・火魔法・土魔法・氷結魔法・雷撃魔法・鑑定魔法・転移魔法・結界魔法・治癒魔法・空間収納・隠蔽魔法・魔力50〕


 ・・・なに此れ・・・全属性持ちって、それに魔力50で隠蔽魔法の為に鑑定しても、魔法が読み取れなかったのか。

 俺の時もそうだったが、隠蔽魔法ってかくれんぼ機能でも付いているのか?


 「イヴァンロ、この女を何処から買って来た」


 「聞いた話では、田舎から奴隷商に売りに来たらしいです。とにかく力は有るらしいが、大飯喰らいで授けの儀では神様のエラーと言われたそうで、金が掛かって仕方がないって。娼婦なら客の食い残しを与えておけばと思ったが、こんなに痩せてしまっては店にも出せないので」


 神様のエラーか・・・俺と同じ隠蔽魔法持ちで聖刻盤では読みとれずに、大飯喰らいと邪険にされて放り出された口なのか、切ないね。


 「起きろ! 飯を食わせてやるぞ」


 そう言うと丸まって寝ていた女が起き上がったが、骨皮筋右衛門も真っ青な風体で女には見えない。


 「・・・ご飯頂戴」


 空間収納からスープとパンに串焼き肉をどっさりと出して遣る。

 女は無言でスープを飲み無心に食べ始めたので、カイルとアビスと共に上に戻る。


 転がっている男達は11人、全員に奴隷の首輪を嵌めて俺の支配下に置き怪我を治してやる。

 カイル達四人が呆気にとられているが無視して片隅に呼び寄せる。

 各自にお財布ポーチを渡して、使用者登録と解除の方法を教えて登録させた後で、四人に革袋を一つずつ渡す。


 「アラド・・・さん、此れって」


 「金貨100枚だよ、確認しろ」


 「こんな大金を貰っても良いのか」


 「イヴァンロからの謝罪金だ、俺が出す訳じゃ無いので気にせず受け取れ。イヴァンロから金貨を巻き上げたのは俺だけだから、誰も疑わないよ。お財布ポーチに入れておけば誰にも知られないので、親兄弟にも喋るなよ。それとお財布ポーチはズボンの裏か上着の裏にでも仕込み、荷物は何時もの様に持っておけよ。お財布ポーチ持ちと知られたら面倒だぞ」


 四人とも真剣な顔で頷いている。

 イヴァンロに命じて、娼館の中にいる用心棒を一人ずつ呼び寄せて縛り上げていく。

 交代に奴隷の首輪をした男達を配置につかせるが、首輪が見えない様に隠蔽魔法を掛けておく。

 欠食児童の事が気になり地下室に降りると、全て食い終わり物足りなさそうな顔で座って入る。


 「腹一杯になったか」の問いかけに、情けない顔で足りないと呟く。

 3人前は有った筈だが足りないとは、確かに大飯喰らいだと感心する。

 もう3人前を置いてやると、良いのと目で問いかけてくるので頷くと、無言で食べ始めた。

 他の者達にも食事を与えて、もう暫くは地下室に居て貰うが、落ち着いたら家に帰してやると話しておく。


 イヴァンロの執務室に行くと、金勘定をしている男が居て俺達を不思議そうに見ている。

 そいつの首にも奴隷の首輪をプレゼントして、イヴァンロと二人、街中にいる部下や、冒険者の中に居る協力者と手下の名前を書き出させる。

 勿論、衛兵や警備隊の中に潜ませた者達の名前もだ。


 売り上げの入った箱から、銀貨や銅貨を掴みだして四人に与える。


 〈今日は盗賊か野盗になった気分だよ〉

 〈死ぬかと思ったけど、此れだけ稼げるなら悪くないかな〉


 「金貨は使い難いし両替には手数料を取られるので、当分は此れでしのいでくれ」


 俺の懐が痛まないので、気前よく分け与える。

 イヴァンロや金庫番の男が、複雑な表情で見ているが気にしない。


各所に潜り込ませている手の者の名を書き出した最後は、貴族との繋がりを詳しく書き出せと命令する。


 レニンザ領ウインザの領主、モルザン・エコライ伯爵が幼児性愛者でした。

 イヴァンロが集めた幼児を伯爵に献上して、裏仕事の便宜を図って貰っていたようで、嫡男も性奴隷として成人前の少女の供給を受けていると書かれている。

 イヴァンロが書き出しながら冷や汗を流している。

 此の書面は伯爵に知られたら消されるのは確実、それを知る俺達も命を狙われるのは確実なので、保険を掛けておく事にした。

 書き出した書面を3通ずつ作らせて、署名血判を押させる。


 イヴァンロの裏仕事を手伝い、協力者や支配下に有る冒険者の名前一覧を3通。

 街の出入り口勤務の衛兵の協力者名前一覧3通。

 警備隊内の協力者名前一覧3通。

 街に潜ませている裏仕事専門の破落戸の名前と住所一覧3通。


 全てが出来上がり準備万端整ったので、カイル達四人を留守番に残して冒険者ギルドに出向く。

 受付のお姉さんに、娼館妖華の蜜の支配人、イヴァンロの事でギルマスに至急伝えたい事があり面会したいと伝える。

 お姉さんは、小僧が突然ギルマスに会いたいと言って来たので考え込んでいる。

 黙ってお姉さんの前に銀貨を滑らせ、急ぐから伝えるだけでもしろときつく言うと、素早く銀貨を掴んでギルマスの所に向かった。


 「またお前か、今度はどんな厄介事を持ち込んだ」


 「俺を呼び出す為に、ウインザの風パーティーの四人が拉致されて半殺しにされた。その場にはギルマスが街から追放した奴も居たんだ。それ以上は此処では話せないので別室で詳しく話したい」


 そう告げると暫く考えていたが、チラリと見せたモルザン・エコライ伯爵の悪行を記した紙を見て〈ついて来い〉と言ってギルマスの執務室に向かった。

 部屋に入るなりギルマスが〈何をやった〉と吠えるように訊ねてきた。


 黙って書面を差し出す。


 「一枚目がイヴァンロが記入した署名血判付きの領主の悪事の一覧だな。もう一枚は奴の裏仕事を請け負う冒険者の名前一覧で、残り2枚が衛兵と警備隊の協力者一覧だ」


 「その手に在る1枚は何だ?」


 「これねぇ、街に潜むイヴァンロの手の者の一覧だけど、一応渡しておくよ」


 ギルマスは、合計5枚の書面を見ながら唸っている。


 「とんでもない物を持ち込んで来たな。で、どうするつもりだ?」


 「先ず妖華の蜜の地下牢にいる拉致された人々の救出と、イヴァンロ以下の確保を頼みたい。もう一つは同じ書面用意しているので王国に届けて欲しいんだ」


 虎か狼の様な、獰猛な唸りを上げて俺を睨むギルマス。


 「冒険者になって一年もしない奴が、持ち込んでくる話にしてはでかすぎるぞ」


 「それは俺を呼び寄せる為に、ウインザの風パーティー四人を拉致した奴等に言ってよ。俺は自分の身を守る為に動いた結果、こうなっただけだよ。それより此れを無視したら、今度は伯爵様からの圧力が冒険者ギルドに掛かって、もっと面倒な事になると思うね」


 「あー、判った判った! 王都の冒険者ギルドにこの書面と共に内容を報告する手筈を整えたら、拉致監禁されていた者の救出に向かうぞ」


 「んじゃ、必要な冒険者の手配をお願い。費用は一人銀貨2枚支払うと言ってね」


 「判ったが、手先の冒険者リストに名の上がっている奴の拘束が先だから、用件は最後まで喋るなよ」


 「あっ、俺は一足先に妖華の蜜に戻って、皆が来た時の準備をしているからね」


 日暮れ頃には冒険者を集めて迎えに行くと言われて、妖華の蜜に向かう。

 忙しない一日ももうすぐ終わりそうで、俺も腹が減ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る