第22話 治療代金回収

 〈グキッ〉と変な音がして拳が変形し手首が変な方向に曲がっている。

 嬉しそうに殴りかかってきたのに〈ウッ〉と小さく呻き、痛そうに殴った手を庇っている。


 「あーぁ、それも治したいのなら、金貨5枚追加ね♪」


 「とことん舐めた餓鬼だな」


 〈おい! 殺すなよ〉と言って周囲を囲む男達に、俺を顎で指し示す。


 変な悲鳴だったけど、戦闘開始のコングは鳴らされた。

 棍棒で殴りかかってきた男に体当たりを食らわせて、棍棒を取り上げるとドアの両脇に控える男達を棍棒で殴り倒す。

 その二人をドアの前に積み上げて、退路の遮断と外部からの侵入者を防ぐ重りにする。

 頭を強く殴ったから死んだかな、と思ったが、下っ端が何人死のうと関係ない。


 イヴァンロの確保が最優先なので、即行でソファーにふんぞり返る男に襲い掛かる。

 エッ、と言った顔つきで固まっている男の肩に一撃、次いで向こう脛を思いっきり蹴り上げる。

 ボスは確保した、残りの奴等も片腕と片足を砕いて逃げられないようにして一休み。


 ちょっと悲鳴が煩かったのか、外からドアをノックして様子を聞いてくるので、イヴァンロを脅し〈静かにしろ! 誰も近寄らせるな!〉と怒鳴らせる。

 痛みで脂汗を流すイヴァンロに、棍棒を掌に打ち付けながら頼むと素直に指示に従ってくれる。


 此の世界ってか、未開地は暴力こそ力であり正義だよな。

 話せば判るなんて寝言は、話の通じる相手で双方が合意に至る場合にのみ、通用する台詞だからな。

 相手にその気が無ければ、話し合いは小鳥の囀りと変わらないからな。


 制圧完了がしたらカイラ達の状況確認だ。

 カイラ、状態〔カイラ・重傷〕

 レヴィ、状態〔レヴィ・重傷・危篤状態〕

 オスト、状態〔オスト・骨折多数〕

 アビス、状態〔アビス・重傷・内臓破裂〕


 先ずレヴィから(ヒール!)を掛け、続けてアビスにも(ヒール!)と治癒魔法を続ける。

 様子を見ると血を流した訳では無いので、意識が戻り目をパチクリしている。

 カイラとオストにも(ヒール!)の一言で治すとイヴァンロがじっと見ている。


 意識が戻った四人に話を聞くと、それぞれ家に帰る途中で拉致されたそうだ。

 殴る蹴るで俺の居場所を聞き出した後は、俺に遣られた腹いせに散々に殴られ蹴られたそうだ。


 「さーてと、イヴァンロさん治療代を貰おうか。自分で手を骨折した奴の治療代が金貨50枚、お前が痛めつけた四人の治療代が一人金貨100枚ね。お前も治して欲しければ治すけど・・・金貨200枚位貰おうかな」


 「無茶苦茶だ! ぼりすぎだろうが!」


 「あーん、人を無理矢理連れて来て、しかも袋だたきにする気だったのに治してやろうってんだ、格安だと思わないのか?」


 テーブルの上のボロ布を口に突っ込み、動く方の腕をへし折ってやる。

 〈ウゴッゥゥゥ〉何か言ってるが知った事か。

 そこ此処で呻いている奴等を一カ所に集めた、見張っているようにカイラ達に頼む。

 気に入らなければ幾らでも殴って良し、死んでも全て俺が遣った事にするから気にせずやってくれと言うと、四人とも嬉しそうに頷き行動に移す。


 俺はイヴァンロから治療費回収に務める。

 棍棒で膝の皿を砕いてやると必死で頭を下げてくる。


 「おっ、治療費を払う気になってくれたのね。じゃー金貨450枚とあんたの分が金貨500枚ね」


 〈何て酷ぇんだ、悪徳商人真っ青だな〉

 〈さっきの倍以上に値上がりしてるぜ〉


 「なに言ってんの、さっきは肩と足だけだっただろう。今は肩と腕に足と膝の皿2枚、五カ所で金貨500枚ならリーズナブルなお値段だろう」


 〈どんな計算方法なんだよ〉

 〈絶対に敵に回してはいけない相手だよな〉

 〈ウインザの裏社会ナンバーワンも形無しだな〉

 〈しかし、このまま無事に終わるとは思えないんだが〉


 「アラド、そいつを殺した方が後腐れが無くて良いんじゃないの。街の警備隊に渡しても、直ぐに解放されると思うよ」


 〈噂じゃ、警備隊と繋がっているとか、領主様にも顔が利くって言われているからな〉

 〈死人に口なし、そいつ等が死ねば俺達を捕縛できないよ。捕まえれば余計な腹を探られるからな〉


 「だってよ、評判悪いねー。金払いも悪そうだから、殺してくれと懇願するまで痛めつけててから殺すか」


 イヴァンロが必死で首を振り頭を下げている。


 「ちゃんと金は払ってくれるの」


 ウンウンと頷くイヴァンロの口から、ボロ切れを取り出してやる。


 「金貨450枚と500枚に、俺を無理矢理連れて来た詫び料50枚の金貨1,000枚。払えるって証明してよ」


 〈また値上がりしてるぜ〉

 〈悪辣だねぇ♪〉


 イヴァンロが、情けない顔で動けないと涙を流す。

 仕方がないので治す事にしたが、以前から考えていた魔力使用を半減し、足だけを治せるか試してみた。

 現在魔力は130、一回の魔法使用に1.3の魔力を使用しているので、膝の皿に手を当て魔力操作で半分の半分を使い(ヒール!)

 治癒魔法を使い始めたときのように、傷に手を当てての治療は他に魔力が流れず、部分治療ができた。

 両膝と向こう脛を治して立ち上がらせると、腕が動かせないと泣き言を言う。

 まぁ、両手が動かせないのはちと不味いかなと思い、肩だけ治してやる。


 「片手が動けば十分だろう。さっさと金を払えよ!」


 〈なぁ、まるで物取りの台詞だよな〉

 〈治療費回収には見えないな〉

 〈しかも、自分が怪我をさせてから治して、治療代回収って〉


 「あーん、君達から治療代は取ってないよね」


 にっこり笑って言ってやると、四人とも存分に治療費を巻き上げて下さいと真顔で勧めてくれた。


 イヴァンロは、折れた腕を庇って動こうとしないので、再び棍棒を目の前に突きつけてやる。


 「金は何処にあるの? さっさと出さないなら金は諦めて、お前には死んで貰うがどうする」


 言い渋るので再度治した腕を叩き折り、カイラ達にイヴァンロの事を聞いてみる。


 「ねえ、この男の噂を教えてよ。ウインザの裏世界ナンバーワンってのしか知らないから」


 〈人身売買の噂があるな、それと警備隊とも繋がっていると〉

 〈幼女趣味だってのもな、拉致された幼女はイヴァンロが買い取るとか〉

 〈冒険者の中には、此奴と繋がっている奴も居るらしいぞ〉


 ギルマスに街から放り出された筈の奴が、此処に居るので間違いないな。

 街の衛兵と繋がりが無ければ、戻って来られない筈なのに居るもんな。


 〈御領主様とも仲が良いと自慢しているらしいよ〉

 〈地下室には金貨の袋が山積みって専らの噂だ〉


 「よし! 地下室から始めようか。イヴァンロ、案内しろ」


 動こうとしないので口の中に水球を作ってやる。

 口内一杯に詰まった水球は、喉を圧迫して窒息状態になるので息苦しさから白目を剥き失神寸前になる。

 殺す気は無いので、白目になり落ちる寸前で水球を解除してやる。

 口一杯の水を吐き出し、喉をヒュウヒュウ言わせて空気を貪っている。

 三度続けて水球を詰め込まれて、必死に空気を貪るイヴァンロ。


 「死ぬ寸前まで続けるからな。死ぬ寸前になったら治癒魔法で助けてやるからしっかり苦しめ!」


 それだけ告げて何度も水球を口に詰めてやると、土下座をし始めた。


 「地下室に案内する?」


 真っ赤な顔になり、肩で息をしながら頷くイヴァンロ。

 呼吸が安定するのを待ち、地下室の入り口に案内しろと言ったら、自分が座っていたソファーを足で示す。


 「此処だ、このソファーを持ち上げると、地下室に降りる階段がある」


 何か細工が有るのかソファーが持ち上がらない、イヴァンロの片腕を治して細工を外させると、簡単にソファーが床ごと斜めに持ち上がった。

 上手い細工だ、ソファーの足の下に床が見えているので隠し階段が有るとは思えなかった。


 レヴィとオストを残して、イヴァンロを先頭にカイルとアビス俺と続いて地下室に降りると、意外に広い通路と左右に鉄格子付きの部屋が並ぶ。

 成人女性から成人前と見られる男女に、男女の幼児・・・と異様に痩せた性別不明の人物に病人と思しき者まで多数。


 〈噂は本当だったんだな〉

 〈酷えなぁ〉

 〈どうするんだ、御領主様が此奴に肩入れしてるのなら、助けられないぞ〉


 「まぁそれは後だな、先ずお宝を頂いてからゆっくり考えるさ」


 一際頑丈な鉄格子の嵌まった部屋は細長く、扉を開けると両脇は棚になっている。

 イヴァンロを先に部屋に押し込み後に続いて入るが、革袋がたっぷり有る。

 その他にはお財布ポーチも十数個が無造作に置かれていて、少し違った意匠のマジックポーチと思われる物も数点有る。

 一つのお財布ポーチに革袋を20個とお財布ポーチも半分入れ、残りの革袋やお財布ポーチを、もう一つのお財布ポーチに詰める。


 「イヴァンロ、マジックポーチの容量はどうなっているんだ」


 「お前、俺の金貨を根こそぎ持って行く気か!」


 「心配するな。俺達の取り分以外は、御領主様に差し出すさ。お前が噂通りなら御領主様が解放してくれるし、このお財布ポーチに詰めた革袋も返してくれるだろう・・・多分な」


 ニヤリと笑って言うと、顔が引き攣っている。


 「御領主様がお前の考える性格なら、口封じの為に全額没収の上拷問死コースだな。俺達は此処を出ると冒険者ギルドに直行するんだ、カイラ達を拉致暴行した罪で捕縛したと大々的に街の者に知らせる。牢内に居る人々も連れて行くので罪状は明々白々、隠し様が無い」


 初めて俺の意図を理解したイヴァンロは震えだした、そうだろう破滅の未来しか無いんだからな。

 俺が言った事を実行すれば、自分の事が大々的に知れ渡り御領主様も隠しようが無い。

 隠しても領内に居る王家の手の者に知られるのは必至、自分との関わりを隠す為には証人を消すのが一番だ。

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