第20話 俺って強えぇぇぇ

 エールを受け取り空きテーブルを探したがない、最初に俺に声を掛けて来た四人組のテーブルに座らせて貰う事にした。


 「良いかな」


 「ああ良いぜ、然し滅法強いな。一人で適当にやるってのも頷けるよ」


 〈然し、奴等もう冒険者は無理だな〉

 〈偉そうに喧嘩を売り歩いていたけど、今回は相手が悪かったな〉

 〈と言うか、普通はあんなに強くないぞ〉


 「で、どっちに賭けたんだ」


 「俺達は様子見だな。手ぶらのお財布ポーチ持ち。どう見てもアイアンランク一年目、とくれば、金持ちのボンボンか強いか」


 〈オーク7頭の話から強いと思ったが〉

 〈7人纏めて相手するって聞いて、見物に回ったのさ〉


 頭も良さそうだし、面白そうな4人組だ。


 「俺はアラドだ、3~4日街の案内を頼みたい。勿論手当は出す」


 顔を見合わせていたが、直ぐに頷く。


 「良いぜ、幾ら払ってくれる」


 「一人一日銀貨1枚でどうだ」


 「〔ウインザの風〕だ、宜しくな」


 握手を交わし、無頼の剣から巻き上げた雑多な物の中から革袋を取り出す。

 テーブルの上に中身をぶち撒けるが、金貨は無し。

 銀貨に銅貨と鉄貨だけの時化た中身で、7人分を合わせても銀貨が40枚も無い。


 銀貨16枚をウインザの風に渡し、残りを革袋に詰めて食堂のカウンターに行き、振り向いて食堂で飲んでいる奴等に声を掛ける。


 「聞いてくれ、無頼の剣の引退祝いだ。奴等から巻き上げた金だがその金で奴等の引退を祝って飲んでくれ!」


 〈ウオー、太っ腹〉

 〈流石はエラー、遣る事が人並み外れてるわ〉

 〈奴等の引退なら、幾らでも祝ってやるぞ!〉


 食堂に大爆笑が起きる。

 厨房のマスターに革袋を渡し、有るだけ飲み食いさせてやれと言っておく。


 「初めて見る顔だが、太っ腹だな。無頼の剣の金なら、すっからかんにしてやるよ」


 彼奴ら相当嫌われてたのね。

 エールを受け取りテーブルに戻ると、ウインザの風から自己紹介を受ける。

 リーダーがカイラ、そのほかにレヴィ,オスト,アビスの四人組。

 改めて飲み直しているとギルマスがやって来た。


 「アラドと言ったな、どうするんだあの7人」


 「どうするって?」


 「ただの怪我ならギルドから放り出して終わりだが、瀕死の奴らを放り出す訳にもいかん。やり過ぎだ!」


 「冒険者登録の時に、そんな説明は受けなかったぞ。瀕死なら訓練場に放置して、くたばったら捨てれば良いんじゃね。それか、ギルドが金を出すのなら、多少は治してやるよ」


 奴等の持ち物の中からポーションを取りだしてギルマスの前に差し出す。


 「こんな物は擦り傷程度しか治らねえぞ」


 「俺って治癒魔法が使えるんだけど、ただであんな奴等を治す気は無い。けど、ギルドが代金を肩代わりしてくれるのなら治してやるよ」


 ギルマスが呆気にとられた顔でマジマジと俺を見ていたが、何かを思い出したようだ。


 「思い出した。アラド、アスフォールに居たアラドだよな。確かに、お前が治癒魔法を使えると報告が来ているな」


 〈おい聞いたか、治癒魔法だってよ〉

 〈何で冒険者なんかやってんだ〉


 ギルド間の報連相は抜かりなしってところか、これじゃ王国内の何処のギルドも知っているって事だろうな。

 遅かれ早かれ知れ渡ると思っていたが、早すぎだが都合が良い。


 「なら話が早い。俺が奴等を格安で治してやる、治療費はギルドが肩代わりして奴等の借金にするでどうかな。お片付けの手間が省けるし、ギルドも利子で稼げる」


 「報告に寄れば瀕死の者も助かるとなっていた筈だが・・・ギルドが貸し出せるのは50万ダーラ迄だ。貸し倒れは避けたい」


 「じゃ、訓練場に放置で。俺のお財布ポーチを狙ってきた奴等を助ける義理は無いし、格安でもギルドは金を貸さない。後の運命は創造神様の御心のままに、だね」


 「ええい、金貨5枚で治せるのか?」


 「完璧に治せるよ。治して金を払わないと言ったら、両腕を砕いて街から放り出すってのを条件にするけど」


 「無頼の剣は、つくづく嫌な奴に絡んだな」


 「嫌な奴って、人のお財布ポーチをタダで手に入れようって奴の方が、もっと嫌な奴だろう」


 「あんな生ゴミが、訓練場に転がっていても邪魔なので頼むわ」


 酷い言われようだが、確かに生ゴミなのは認める。

 ギルマスの後に続いて訓練場に行き、転がっている無頼の剣の面々を見回す。

 生命力が強いのか、未だ誰も死んでいなかったので順番に(ヒール!)と回復魔法を施していく。


 〈凄ぇ・・・〉

 〈俺、初めて見る〉

 〈あんな奴等、死んでも誰も困らないのになぁ〉


 重傷者と瀕死の無頼の剣メンバー7人の治療を済ますが、重傷で意識があった者はともかく、瀕死の者は回復しても事情が判らずきょとんとしている。

 ギルマスが彼等を一カ所に集めて説明しているが、瀕死だった者は納得しない。

 重傷だが意識のあった4人が、渋々ギルドから借金しての支払いに応じたが、瀕死だった3人がごねて支払いを拒否した。

 ギルマスが嫌な笑いを浮かべると、一人の襟首を掴んで立たせたと思ったら〈ボキン〉って音がした。


 〈ギャー〉って可愛い悲鳴を上げるが、ギルマスは気にした様子も見せず反対の腕を掴むと膝に当てる。


 「まっ、待ってくれ。何をするんだ!」


 「お前は負けて死ぬ寸前だったんだ、金貨5枚で治癒魔法で治療してもらったが、支払いを拒否したら両腕を砕いて街から放り出す約束だ」


 ギルマスの話を聞いた二人が逃げ出したが、金蔓は逃がさないよ。

 即座に追いかけて突き飛ばし、もう一人を蹴り飛ばすと棍棒を取り出し無言で腕を殴りつける。

 残った一人が命乞いならぬ、必死の詫びを入れるが聞き入れず両肩を砕いてやる。


 「情け容赦も無いな」


 「良く言うよ。逃げるって事は、金を貸しても踏み倒して逃げるって事だろう。約束通り、此奴等は街から追放で宜しく」


 〈待ってくれ! 待って下さい払います! 払いますから治して下さい〉

 〈俺も払います。すいませんでした! もう二度と絡みません、許して下さい〉


 〈おのれ等は腰抜けか! 小僧、殺せ!!!〉


 ギルマスに腕を折られた男が喚くので、折れた場所を棍棒で殴って砕いてやる。


 「ゴブリンに喰われる時も、そうやって意気がってろ」


 そう言ってやると、残りの二人が其れを想像したのか震えながらギルマスに頼み込む。


 〈ギルマス、払います、金は必ず払いますから貸して下さい〉

 〈頼みます、真面目に働いて返しますのでお願いします〉


 必死の頼みも、ギルマスの無情な一言で望みを絶たれる。


 「お前達も知ってるだろう。ギルドが貸せる金は50万ダーラまでだ、瀕死のお前達には既に50万ダーラ使っている。助けてもそのまま借金奴隷確実だぞ。100万ダーラの借金を返すまでに、何年掛かると思ってるんだ」


 〈死にたくない、借金奴隷でも良いですから助けて下さい〉


 おいおい泣き出したよ、もう一人もがっくりと肩を落として啜り泣いている。

 ギルマスの頼みで、再び治癒魔法を使い二人の怪我を治す。

 50万ダーラ×4=200万ダーラ

 100万ダーラ×2=200万ダーラ

 計400万ダーラの稼ぎになった、毎度ありーって所かな。


 〈おいおい泣いてるよ〉

 〈絡んだ相手が悪かったよな〉

 〈ズタボロにされた挙げ句、きっちり金を巻き上げられるんだからな〉

 〈ちょっと待て! 彼奴らが狙ったお財布ポーチって・・・確か金貨30枚だよな〉

 〈あー・・・借金して手に入れた方が安上がりかぁ〉

 〈此れが本当の、骨折り損ってことか〉

 〈然も金貨10枚余計に支払って怪我しただけって〉

 〈借金奴隷に落ちた奴もいるしな〉


 両腕を砕いた奴は、ギルド職員に引きづられてギルドから出て行ったから、街から追放されて野獣の餌食だな。


 まぁ、色々イベントはあったが、今日一日で460万ダーラも稼いだ事になる。

 ウインザの風、カイラ達にホテルに案内してもらい、翌朝ホテルの食堂で落ち合う事を約して別れた。


 ・・・・・・


 トローザク通りのトローザクホテル、一泊銅貨5枚だけあって快適な目覚め、食堂に降りていくとカイラ達が居ない。

 早すぎたかなとテーブルに着き、ふと窓を見るとカイラ達四人が、ホテルに入ろうかどうしようかと迷っている様子が見える。


 冒険者になってから金回りが良いので忘れていた、普通の冒険者は稼ぎの良い者でも、銅貨2枚程度のホテルにしか泊まらないんだった。

 カイラ達を呼び寄せて一緒に朝食を取る事にした。


 「アラドさん程強けりゃ、獲物も狩り放題ですよね」


 「ん、俺はホーンラビット程度しか狩ってないよ。薬草専門でいくつもりだったけど、チキチキバードやカラーバードでしっかり稼げるから、今はそちらがメインかな。それと俺って未だ16だからさん付けは止めてよ」


 「でもあれ程の強さを見せつけられたらなー」

 「もう誰もアラドさ・・・に絡もうと思わないだろうね」

 「7対1であれだもんな、差しの勝負じゃゴールドかプラチナランクでないと無理だよ」

 「ゴールドもプラチナも勝てないよ。無頼の剣ってシルバー以上でゴールドも二人居たはずだよ」


 「えっ、そうなの」


 思わず聞き返して仕舞ったが、シルバーとゴールド7人相手に勝っちゃったのか。

 防御障壁で守られ、魔力を纏って人より運動能力あげあげって・・・俺って強えぇぇぇっ、てのか。

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