第17話 煩い奴等

 蜜は桶一杯と寸胴に7分目採れたので大満足、ニコニコでアスフォールの街に帰り、冒険者ギルドに直行して獲物を売る。


 ホーンラビット,ヘッジホッグ,チキチキバード,カラーバードと、何時もの獲物を並べて行くが、レッドビーの蜜は出さない。

 オラルスさんが差し出した査定用紙の合計は、前回より獲物が少なかったので394,600ダーラ。


 礼を言って精算カウンターで金を受け取ったら、レッドビーの蜜のオークション代金が入金されているか確認する。

 レッドビーの蜜、オークション代金から前払い分と手数料を差し引いた、63万ダーラ。

 オークション価格と手数料に残金を記した用紙を渡された。


 レッドビーの蜜、落札価格、210万ダーラ

 手数料20%、42万ダーラ

 前払い金、105万ダーラ

 残金、63万ダーラ支払い


 伯爵様よりの入金、5,040万ダーラ+70万ダーラ、計5,110万ダーラ。


 何とまあ、高が蜂蜜のお値段としては、桁が一つ二つ間違ってやしませんかってと思うほどの大金だ。

 まっ、これで魔法付与されたフード付きローブと、魔鋼鉄の長剣が買えると思う。

 長剣はすぐに必要ではないが、備えあれば憂い無しだ。

 取り敢えず1,000万ダーラ、金貨の袋一つもらい残りはギルドに預けておく。


 商業ギルドでは何時もの受付が快く出迎えてくれ、今回はフード付きローブが欲しいと伝える。

 直ぐにカウンター奥の商談スペースに案内され、以前のお姉さんが見本帳を抱えてやって来た。

 今回はフード付きローブなので生地代が以前の倍800万ダーラに、魔法攻撃防御と防刃打撃防御に体温調節機能の魔法付与代金300万ダーラ、合計1,100万ダーラだ。


 手持ちが1,100万少々、魔鋼鉄の長剣も作りたいので此れは痛い。


 「手持ちがギリギリなので、冒険者ギルドに4,000万程預けているから卸してくる。取り敢えず生地代だけ手付けで払うから、それで良いかな」


 「其れでしたら、冒険者カードで商業ギルドからも卸せますよ」


 へっ、と思ったが、魔法ってハイテクだねぇ。

 冒険者カードを預けて支払いを済ませ、五日後の受け取りを約して商業ギルドを出る。

 次はブラーツ通りに在るウランゴ鍛冶店だ。


 商業ギルドを出てブラーツ通りに向かっていて気づいた、又金魚の糞がついて来ているようだ。

 長剣を注文したら、受け取りまでの間に金魚の糞の背景を調べておく事にする。

 今回の注文は簡単だ、片刃の槍を剣にするだけなので話が早い。

 刀身100センチ、柄が40センチで身幅も厚みも一回り小さくとだけ告げる。

 魔鋼鉄製にしてもらう、後学の為にミスリル製にするとどれ位掛かるのか聞いてみたが、お前には無理だと鼻で笑われたので諦める。


 俺も苦笑いで60万ダーラを支払い、10日後の受け取りを約して店を出た。

 ブラーツ通りをぶらぶら歩き、見知らぬ道を建物沿いに左に折れると素早く次の角まで走り、路地を左に曲がる。


 防御障壁に(隠蔽!)を施し、直ぐに引き返して金魚の糞を探す。

 建物を回り駆け込んで来た男がキョロキョロしていると、続いてもう一人男が現れた。

 

 〈気づかれたか?〉

 〈そんな気配は無かった〉

 〈糞っ、取り敢えず周辺を探せ!〉


 言葉少なに話すと、周囲の路地を確認している。

 姿を消して傍で見物していると、男達が焦っている様子はないが尾行に馴れた者のようだ。


 ひとしきり周囲を探し、見つからないと判ると黙って引き返して行く。

 その20メートル程後ろをのんびりと歩くが、視線は前を歩く男達には向けず、常に周辺を見たり視界の片隅に入れるだけにする。

 男達が行き着いた先は、街の警備隊本部の建物だった、誰とどんな話をするのか興味が有ったが余り近づくのは憚られる。

 隠蔽魔法を使い、人の居る狭い部屋の中に入ったのは両親の部屋に入った一度きりで、見つからないって自信が無い。


 今日は此処までとし、隠蔽魔法を掛けたまま市場に行き人に当たらぬ様気を付けて歩く。

 誰も俺の存在に気づかないのは当然として、正面から繁々と顔を眺めたり、店主の傍らに置かれた釣り銭入れの容器を覗き込んでも気づかない。

 街を巡回している一組の警備隊に付いて歩き、時に横に並んで顔をジロジロ見るが視線を感じていないようだ。


 次の日からは食料や香辛料などの買い溜めを始める。

 エールの樽も二つ買い入れ、茶葉や茶菓子もたっぷりと空間収納に保存する。

 五日後にローブを受け取り、後は長剣を受け取ったらお仕置きだ。


 ウランゴ鍛冶店で長剣を受け取り、試しに店内で振り回し鞘の出来も確かめる。

 日本刀のように反りが無いので抜き差しはスムーズだ、反りが有ると鞘の出来具合によっては抜き差しに抵抗が出て、所謂反りが合わない状態になる。

 全長1.4メートルちょい、腰に下げる物ではないのでお財布ポーチに放り込んで店を出る。

 今日も元気に尾行付きだが、尾行を撒かれる事を注意し遠巻きに数名がいる。


 ナルーンホテルに戻り部屋に入ると鍵を掛け、隠蔽を駆けて窓の外に(ジャンプ!)尾行者の一人に近づく。

 何度か顔を見た覚えの有る男の背後に回り、ナイフを突き付け襟首を掴む。


 「よーし声を出さずにじっとしていろ」


 「どうして・・・」


 「理由を教えてやるよ」


 ナイフで頬をピタピタと叩いてから長剣に持ち変える。

 長剣の峰を首の横に当てて滑らせると、ビクッとして何か呟いてる。


 「どうだ、お前の首に当てた剣を滑らせたが、目の前に見える筈の剣が見えないだろう。大声を上げたり逃げ出したら死ぬ事になる。判ったか!」


 「判った」


 掴んだ襟を離し、正面に回り込んで剣先で男の胸を押す。


 「正面にいるが、お前には見えてないだろう。だから此処でお前を殺しても、誰も俺が殺したとは気づかない」


 「おっ、お前は誰だ!」


 「声が大きいよ。お前達が付け回している男だよ。誰の命令で付け回しているのか、教えて貰おうか。喋らなければ此処で死ぬ事になるぞ」


 「知らない、俺は隊長に言われて、何をしているのか見張っていただけだ」


 「残念だね、お前は以前北門から森の方へ歩く俺の後をつけていたよな。その時に俺を見失い、仲間と話していたのを俺は傍で聞いていたんだよ。オルザに何を命じられている?」


 男は冷や汗を流しながらも、口を噤む。


 「喋る気が無い様だね、残念だ」


 男の口内に水球を作り窒息させると、口を押さえたり指を突っ込んで藻掻くが直ぐに動かなくなった。

 水球の魔力を抜くと、口から水が溢れ出たがそれだけで傷はなし。

 変死体の一丁上がりである。


 男の様子を見た仲間達が駆け寄ってくるのを、少し離れて様子を見る。


 〈おい! しっかりしろ!〉

 〈どうしてこうなった? 誰も見ていなかったのか〉

 〈いや、突然口の辺りに手を当てて藻掻きだしたら、倒れたんだ〉


 残り4人、どう動くか見ていると、一人の男が『オルザ様に報告しなくてもいいのか』と問いかけている。

 問われた男が暫し考えていたが、誰かに襲われた訳でも無いので必要無いと言い、やって来た警備隊の者に死んだ男を預けて配置に戻らせた。

 ふうーん、次の標的はあんたね。


 皆を配置に戻し、自分も元の位置に歩いている男の後ろを歩き、ホテルを見張る位置に付いた時に剣を突き付け襟首を掴んだ。


 「動くなよ、さっきの奴は質問に答えるのを拒否したから死んだ。何故見張る? どんな命令を受けているんだ」


 「アラドか! まさかホテルに入った筈じゃ・・・」


 「質問が聞こえなかったのか?」


 襟から手を離し正面に回り込んで剣を突き付ける。

 胸の違和感に手を出そうとするので、強めに剣を押しつけて警告する。


 「動くなと言っただろう。聞き分けが無いと死体の数が増えるぞ」


 「何故殺した!」


 「聞いているのは俺だ、質問に答えろ!」


 「糞ッ、犯罪奴隷になりたいらしいな」


 「此処に居ない俺を犯罪者に仕立て上げるのか」


 「冒険者の一人や二人、どうとでもなるさ」


 「そうだな、御領主様に掛かればどうとでもなるか。じゃ、帰ってご主人様にそう報告しろ!」


 どうも衛兵や警備の者に対する態度と、正規の部隊ではない何となく崩れた感じからオルザの私兵かな。


 男の両腕を峰打ちで砕き、足の向こう脛も一発入れて砕く。

 男が倒れたのを見て、配置についていた男達が駆け寄ってくる。


 〈ボルゾン、どうした?〉

 〈おい、腕が折れているぞ〉

 〈誰にやられた〉


 口々に叫ぶ男達の口内を水球で塞ぎ、窒息させる。

 脂汗を流して仲間達に話そうとしていた男が、仲間達が次々に倒れるのを見て目を見張る。


 「ご主人様に伝えろ、改めて挨拶に伺うから待っていろと」


 男にそれだけ告げて離れ、一度ホテルに戻ると精算して外に出る。

 転移魔法でうろちょろしていると疑われないように、偽装工作は万全にしなきゃね、ちょっと疑われる要素は出来たけど。


 その足で商業ギルドに行き、3,010万ダーラの内3,000万ダーラを引き出し、お財布ポーチに入れる。

 逃亡資金は確保した、後はオルザに何の用で付け回したのか聞いてみるだけだ。

 路地に入り隠蔽魔法で姿を隠すと、カリンガル伯爵邸に向けて歩く。


 30分もせずに、カリンガル伯爵邸に向けて早馬が駆けていく。

 二度早馬に追い越されたが、街からの連絡はそれっきり途絶えたようだった。

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