第13話 護衛任務
北門前でセイオスの到着を待っていると、冒険者と護衛部隊に守られた馬車が到着した。
冒険者8名と護衛騎士30名、以前より大分人数が増えてませんか。
全員騎馬なので、俺は馬車の御者席にでも乗せてもらうつもりだったが、御者が降りてきて馬車のドアを恭しく開く。
「アラド殿、乗って下さい」
馬車の中から声を掛けられて戸惑う、以前は緊急事態だったから仕方なく乗ったけど、貴族の子弟と言えども同席はしたくない。
「セイオス様、私は御者席で結構です」
「命の恩人にその様な扱いは出来ません。それに父からも同格として応対せよと命じられていますので、遠慮は無用です」
北門出入り口で順番待ちの人々も多く、此処で押し問答も出来ないので仕方なく馬車の客となる。
気不味い沈黙の中馬車が動き始めると、セイオスから改めて礼を言われた。
「命の恩人に対し、お礼の言葉が遅くなってしまい、誠に申し訳在りません」
非常に気不味い、こういうのは苦手なので話をそらす。
「セイオス様、私は護衛と言っても、お側に付き従う者では在りません。適当に周辺を見て回ったり、姿を消す事も在りますのでご理解下さい」
そう伝え気不味い会話の中で、今回の訓練場所は前回オークに襲われた場所より、もう少し森の奥に入ると判った。
カリンガル家の男児は、七歳の誕生日を迎えた日から武術の訓練を受け、授けの儀で魔法を授かれば魔法の訓練も平行して始める
16才になれば実戦訓練の為に、度々森でキャンプしながら野獣討伐と魔法攻撃の練習をするそうだ。
以前馬車を停めていた場所に来ると、馬と馬車を6人の騎士に預けて森に向かう。
護衛の騎士24名と冒険者8名、以前より護衛の騎士と冒険者が増えているのに、俺って必要なのかねぇ。
目的のキャンプ地は少し開けた場所で、周囲を茨の木がびっしりと生えている。
ちょっとこの植生はあり得ないと思い尋ねると、カリンガル家警備部隊の野外訓練場所の一つだと聞いた。
一カ所だけの訓練場だとマンネリ化するので、目先を変えて緊張感を維持する為のようだ。
マジックポーチからテントなど野営道具を取り出して居るので、俺は周辺を回って地理を覚える事にして冒険者達のリーダーの所に行き話を聞く。
「お前は伯爵様直属で俺達に命令権はないんだ、いったいどんな伝を持っているんだ」
〈ようエラー、この前は助かったぜ〉
〈セイオス様の馬車に乗っているのなら、お前のテントを張る場所はこっちじゃねえぞ〉
「えー、面倒くさいねー。俺って冒険者になって半年も経ってないんだ、後で護衛の事とか周辺の情報を教えてよ」
「今夜飯の後で来な」
何事も経験しなきゃ判らない、取り敢えず今夜の寝場所を決めてからだ。
護衛隊長は今回もカリアドさんが努めているので、カリアドさんの所に行く。
俺のドームを作る場所を聞きに行ったのに、帰って来た返事は予想外のものだった。
「アラドはセイオス様と同じテントだぞ」
「勘弁してよぉ、俺はテントより頑丈で安全な結界を張って寝るんだから、場所だけ指定してよ」
「お前が結界を張れるのは知っているが、そんなに長時間張れるのか?」
「場所さえ指定してくれたら見せるよ」
示された場所はセイオスのテントの隣、(結界!)と直径4メートル程で少し天井を高くした半球状のドームを作ると即座に(隠蔽!)を重ね掛けする。
「ほう、見事なものだが見えなくなると、出入り口も判らないけど大丈夫なのか」
言われて気づいたが、転移魔法は見せられないとなると出入り口が必要なので、ドームの一部に穴を開けられるか試してみる。
幸いドームを壊す事もなく出入り口を作れたが、カリアドさんが感心している。
結界のドームを作るところを見ていた、護衛や冒険者が騒ぎだしてセイオス様も何事かと出て来る。
カリアドさんがドームに入り、姿が消えたのでセイオスが慌てて寄って来て何事かと尋ねてくる。
入り口を指し示すと、吃驚してカリアドさんを見つめていたがカリアドさんが移動すると半身が消える。
「此れは?」
「結界です、私は森でこの結界の中で寝ています。どうぞ中へ入ってみて下さい」
セイオスを連れてドームの中に入ると、又吃驚している。
「なんと・・・外からは何も見えなかったのに中からは外が見えるのですね」
そりゃね、外には隠蔽魔法を掛けているけどと思っていると、カリアドさんがとんでもない事を言い出した。
「アラド、少し此の結界を試してみても良いか」
そう言いながらカリアドさんが指差す方を見ると、ドームの外では護衛や冒険者達が結界に手を触れて騒いでいる。
〈おい、本当に有るぞ!〉
〈凄ぇなあ、結界魔法なんて初めてみたわ〉
〈エラーって結構凄い奴なんだな〉
〈ランドは、逃げ出して正解だな〉
〈おお、こんなのを作る相手じゃ勝ち目がないわ〉
〈ちょっと、試してみたいなぁ〉
俺も結界の強度試験に丁度良いと思ったので了解する。
自信は有るが、試す機会がなかったので願ったり叶ったりだ。
「皆聞け! 今から此の結界を自由に攻撃しても良いぞ。破れた奴には銀貨5枚をやる!」
その声を聞き、冒険者も護衛の騎士達も思い思いに攻撃を加えて居るが、結界のドームはびくともしない。
10分程自由に攻撃させたが何の変化もない、痺れを切らしたカリアド隊長が〈フレイムとアイスを呼べ!〉と声を上げた。
フレイムとアイスと呼ばれた二人が進み出たが、二人の得意魔法の呼び名だろう。
何やら呪文を唱えているが、よく聞こえないので見物に徹する。
しかし、此の世界の魔法って、詠唱してから魔法の発現になるのが常識のようだ。
周囲の者が、詠唱する二人を当たり前のように見ているので間違い在るまい。
とすると、ほぼ無詠唱の俺って不味いのかもしれない。
聞かれたら、口内で短縮詠唱を唱えていると惚けよう。
ファイヤーボールは何度も結界に当たって破裂するだけ、アイスランスも五回ほど撃ち込まれたが文字通り当たって砕けただけだった。
「あー止めやめー、もう良いぞ。アラド殿、此れは何時間ぐらい持ちますか?」
「24時間程で消えますが、必要なら幾らでも延長出来ますが、どうかしましたか」
「セイオス様用の結界を作って欲しいんだ。この強固な結界が有れば、以前の様な奇襲にも十分耐えられるだろう」
魔力的には何の問題もないので、俺のドームの前に一回り大きな結界のドームを作り、即座に隠蔽魔法を掛ける。
隠蔽魔法を掛ける僅かな間に、淡く光るドームを見て響めきが起こる。
人ひとり通るのに十分な穴を開けると、カリアド隊長が従者にテント内の物を運び込ませている。
何時の間に従者なんて連れてきたのかと思ったら、御者をしていた男だった。
夕食はセイオスのドームに招かれ、てか朝夕はセイオスと二人で食事を取り従者が給仕してくれる貴族の生活に巻き込まれた。
堅苦しい食事だが、味は良いので何とか耐えられる。
少しずつ話すようになって判ったが、セイオスって俺より半年早い産まれだった。
授かった魔法は、風魔法と氷結魔法で魔力は80有るのがだが、風魔法の扱いに手子摺っているらしい。
氷結魔法のアイスアローとアイスランスはそこそこ撃てるが、アイスジャベリンは未だ無理だと言っていた。
俺は攻撃魔法を授かっていないのでよく判らないが、結界や転移等を使っても距離や大きさに関係なく、一度に1/100しか魔力を使わないのでその話は不思議だった。
まっ、俺は隠蔽魔法と転移魔法を悟られないように、気を付けて行動する事にする。
鑑定魔法はそのうちバレるだろうが、鑑定持ちはそこそこ居るようなので大事にはなるまい。
問題は治癒魔法だな、1/100の魔力で重傷者が完治するのは未だ良い、軽傷者まで1/100の魔力を使うのは問題だ。
せめて1の半分か、もう少し少ない魔力に減らせないかが今後の課題だ。
出来れば風邪や腹痛、軽度の切り傷と骨折や刀創の治療から瀕死の者まで、治療内容に依って使用する魔力量をコントロールしたい。
翌朝から冒険者達の先導で周辺を探索し、野獣の討伐が始まった。
俺は姿を消したまま、セイオスの周辺を散策、ゴブリンは全てセイオスの担当で、ホーンボアやエルク等はアイスランスを使って倒しているが、命中率が悪い。
それに詠唱に時間が掛かり過ぎて、攻撃のタイミングを逃している。
その夜夕食後のお茶の時間に、今日の討伐についての感想を聞かれた。
「感想と言われても、私はゴブリン程度としか闘ってませんし、攻撃魔法も授かってないので・・・」
「でもアラド殿は、オーク7頭を殆ど一人で無力化したと聞いてます」
「セイオス様、見えない敵から攻撃されたら如何なる強者も無力ですよ。私の結界魔法は他者には見えない様です。だからオークの背後に回り、足の腱を切断して動けなくしただけです。闘いじゃ在りません、手槍を持っていますが突きの練習すらした事が無いのです」
「では何故手槍を?」
「ホーンラビットやヘッジホッグ、チキチキバードやカラーバードを殴り殺す為ですよ。傷が少ないと、喜んで買ってくれますからね。それとオークやゴブリンから、少しでも離れて斬り付ける為ですね」
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