第11話 レッドビー

 ベースキャンプに戻る道すがら、飛んでいるレッドビーを棍棒でたたき落とし、潰れていない一匹を綺麗に包んでお財布ポーチに入れる。

 後は剣の訓練代わりに、飛んでいるレッドビーや他の虫を叩き落とし薙ぎ払う。


 毎日2回魔力切れの日々を送り十日で飽きてきた、前回と合わせて魔力は115になったが一割ずつ増えるのでは無く、魔力切れ5回で魔力が1増えることがほぼ確定。

 魔力切れからの回復も、6時間半位で目覚める様になったので順調だろう。

 魔力を15増やす為に魔力切れを75回こなして、回復時間が30分短縮とは先が長い。


 懸案のレッドビーの巣を探しに行くことにしたが、漆黒達を捨てた周辺は腐敗臭がきつくて近寄り難い。

 こんな時に限って野獣達が死骸を食べにこない、もっとも近づけば自分が死ぬと判れば野獣も近づきたくないのだろう。

 風上から回り込み、レッドビーの飛び交う藪の中をゆっくりと進む。


 魔法付与の掛かった服は意外に優秀、茨の木の棘を物ともしない。

 以前の服ならズタボロになるような状況でも何ともないので、気楽に藪に突っ込んで行ける。

 野獣でも侵入が難しい藪の中、一際大きい羽音の向こうにずんぐりとした巣が見える・・・見えるけど何だありゃー。

 数本の木を巻き込んで巨大な蟻塚に見える、30m以上離れていて此れなら寸胴の一つではとても足りない。


 意を決して巣に近づくが、10mと進まずに前進不可能になった。

 まるで巨大な蚊柱の中心にいるみたいだ、〈ブーン〉という重低音が周囲に響き渡り、蜂のせいで全然前が見えない。

 見えるのは蜂の腹や足ばかりで、防御障壁に蜂がへばりついている様な状態に、想定外と引き返す羽目になった。


 ベースキャンプの近くまで戻り、纏わり付くレッドビーを振り払うべく、防御障壁を風船のように膨らませるイメージで再度魔力を送る。

 縋り付く場所も無いのに、執拗に俺に向かってこようとするレッドビー。

 此処で攻撃手段が無いことに気づいた、広げた防御障壁を放棄してベースキャンプにジャンプしても明日のことがある。

 思いついて、ガーラ達に使ったように生活魔法のフレイムを使ってみる事にした。


 防御障壁の周辺にいるレッドビーの頭にフレイムを乗せる、蜂も一瞬何が起きているのか判らなかったのだろうが、熱くなったのか飛び去った。

 あの時はガーラとゴランの2人の鼻の頭にフレイムを乗せた、なら多数のレッドビーにもフレイムを乗せられるだろう。

 試してみたが、飛び回る為にフレイムを置き去りにされる。


 まぁそうだよな、生活魔法のフレイムは動かないので逃げられたら終わり。

 後攻撃に使えそうなのはウォーターだが、そのままでは水を掛けるだけになる。

 生活魔法も魔法なら、魔力を込めたらもう少しましな物になるかも知れない。 魔力操作で魔力の切れ端を使うつもりでウォーターを念じると。バケツをひっくり返したかと思うほど水がドンドン溢れ出る。

 やったね、俺って天才♪


 今度はもっと魔力を少なくして、20cm程の水球をイメージしてウォーターと念じる。

 ポン、といった感じで水球が目の前に浮かぶ、不思議な光景に驚いたが、お祭りのウォーターヨーヨーの巨大版のようなので指で突いてみる。

 ぷよぷよして不思議な感覚、此れならレッドビーを殺せるだろけど、ウォーターボールが静止したまま動かないので不気味。

 フレイムもライトも、出現した場所から動かないのでこんなものか。


 防御障壁に纏わり付くレッドビーに、(ウォーター!)(ウォーター!)(ウォーター!)(ウォーター!)と連続して念じレッドビーを水球で包み水死させる。

 然し(ウォーター!)って言い難いし念じ辛いので(水球!)に変える、日本語の方が断然楽。

 溺れ死んだものは(解除!)と念じて水球を破裂させて消滅させる。


 纏わり付いていたレッドビーを、全て水死させたが魔力は2しか減ってない。 元々生活魔法は、幾ら使っても魔力を消費しなかったので此れは嬉しい。

 フレイムとウォーターは、飛んだり爆発したりしないが、使い方次第では攻撃力として使えるので大収穫だ。

 後はどの程度の距離まで思い通りに作る事が出来るかだが、これは蜜を手に入れてからでも良いので後回し。


 * * * * * * *


 ウォーターとフレイムの練習で一日終わったが、今日は本格的に蜂蜜採取に向かう。

 我に勝算在り、見ていろ蜂公どもめ。


 今日の風向きを確認して、いざレッドビーの巣に突撃だ!

 蜂に取り囲まれて蜂団子になる前に(ジャンプ!)、目の前に蜂の巣♪ と思ったら、直ぐに蜂に纏わり付かれて蜂団子になってしまった。

 此処で秘策、防御障壁をゆっくりと広げていくと蜂が藻掻きだした。

 よしよし、防御障壁と巣に挟まれて潰れる寸前って所だな、此処で(水球!)

 巣と防御障壁に潰されて変形した水球が蜂を溺死させている、蜂が動かなくなったら前進して巣と防御障壁を密着させてっと、密着面の障壁をゆっくりと(解除!)していく。


 〈ふぅー〉冷や汗が出る、幾ら魔法を付与された服を着ているからって、手や顔は剥き出しなので、顔は防護していても安心は出来ない。

 ナイフを取り出して巣に穴を開けるが、結構頑丈でなかなか穴が開かないし、開いたら開いたで中から蜂がこんにちは、そりゃー中にも蜂は居るよな、巣だもの。

 中の蜂を(水球!)(水球!)(水球!)、一段落付いたら蜜の詰まった巣をせっせと切り取り寸胴に投げ込んでいく、成虫になる寸前とか蛆のような蜂の子を見た気がするがそれは要らない。


 頂く物を頂いたらもう用は無い。防御障壁を閉鎖して後方に(ジャンプ!)、ここからが必殺技の秘技もぬけの殻、防御障壁を残して俺だけ安全地帯に(ジャンプ!)する。

 安全地帯といっても周囲にはレッドビーが飛び交っているので即座に防御障壁を張り、抜け殻の防御障壁を(解除!)

 何も無くなった空間にレッドビーが突っ込み、蜂団子が出来て大騒ぎになるが、その隙におさらばさせていただく。


 ベースキャンプに戻って一息ついたが、次回はもっと楽な方法を模索しないとと反省!

 だが反省よりも先に遣ることが在る。

 魔道コンロを取り出して湯を沸かし、お茶の準備とパンを切り分けておく。

 切り取った巣は厚さ10cm近い物で蜜蝋も分厚い、六角形の隙間からスプーンで蜜を掬いだしてお茶に入れて見る、入れすぎたのか濃厚な甘さと爽やかな香りに満足。

 切り分けたパンを焼き、蜜をたっぷり塗ったハニートーストと共に楽しいティタイム。


 * * * * * * *


 蜜を採取してから二週間、魔力が120になり食糧も少なくなってきたので街に戻る事にした。

 相変わらず混んでいる出入り口を横目に、貴族用通路を通るが衛兵に止められた。

 直ぐに上司がやって来て綺麗な敬礼と共に〔御領主様が、一度お越し願いたいとの事です〕と伝言を伝えられた。


 礼を言って通過したが、伯爵様の伝言より大事な事がある。

 即行で寸胴を買った店に行き、目の細かい篩(ふるい)ともう一つ寸胴を買う。

 次は壺を売っている店に行き、大小幾つかの壺を購入して何時ものナルーンホテルに向かう。

 買ってきた寸胴の上に篩をセットして、小分けにした巣を置いて蜜が垂れてくるのを気長に待つ。

 養蜂家の蜜採取方法で見た、手回しの遠心分離機が欲しいが此の世界に有るかどうか。


 蜜を自然落下させて漉す為だけに、三日間もホテルに籠もることになってしまった。

 塩砂糖やピクルスを入れる小さな壺、それでもティーカップ15杯で7分目のところまで蜜を入れる。

 三つ程作った所で面倒になり、寸胴に1/3以上残しそのまま保管することにした。


 冒険者ギルドに出向いたが、蜜を売りたいって何処に行けば良いのか判らないので受付で聞いてみる。


 「蜜ですか・・・蜜って蜂のですよね?」


 「そそ、赤い蜂の蜜を壺一つ売りたいの」


 そう言って一つの壺をカウンターに乗せる。

 お姉さんが慌てて『鑑定が出来る者を呼びますので、待ってて下さい』と言って奥に駆け込む。


 〈レッドビーの蜜だって、本当かよぉ〉遠くからそんな声が聞こえてきて、おっさんが頭を掻きながらやって来る。


 「あーん、お前がレッドビーの蜜を持って来たって」


 カウンターに置いた、外形約15cm高さ20cm少々の壺を差し出す。

 〔待ってろ〕と言い、マジマジと壺を睨んで呪文を唱えている。


 へえー、鑑定魔法も呪文・・・詠唱するのかと感心する。


 〈ふむぅー、間違いない、レッドビーの蜜だ〉


 暫く壺を睨んでいた鑑定持ちのおっさんが、俺をマジマジと見つめてくる。 身体がぞわりとし、身体に何かが入って来ようとする感覚に思わずそれを拒む。


 〈痛ッ・・・〉そう言って頭を押さえて蹲るおっさんが〈信じられん〉と言いながら立ち上がる。


 「坊主、中にどれ位の量入っているか判るか?」


 何気ない様子で聞いてくるが、多分俺にも鑑定魔法を掛けたのだろう。

 ポケットに仕込んだお財布ポーチから、空の壺を取り出して並べ蓋を取り説明する。


 「うむ、此れなら内容量も分かり易くて助かるぜ、食堂で待ってな」


 エールに串焼き肉で一杯やっていると、鑑定のおっさんとギルマスがやって来た。


 嫌な予感がするが、嫌な予感ってよく当たるんだよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る