第10話 漆黒
オラルスさんに説明を求められて、俺は蜂に刺される事はないと説明したが信じて貰えなかった。
結界魔法が使えて、防御障壁を皮膚の下や表面にに纏わせているとは教えられないので無理もなかったが、俺が西の森で何とも無い事は判った様だ。
頭を抱えながら犬を追うように、手でシッシとおい払われて食堂に行く。
掻っ払ったエールが無くなり、久し振りのエールに舌鼓を打つ、お代わりのエールを受け取り席に戻ると後ろから声を掛けられた。
「あんた、ホルムのサラザンホテルの末っ子だよな。確か授けの儀では神様のエラーって言われていた」
振り向くと俺と同年代の少年を含む6人組が立っていた。
好奇心・無関心・小狡い目付きと様々だが、好意的な目は無い。
「エラー・・・か」
一人がぼそりと呟きニヤリと笑うと、他の者が追随して笑い出す。
「お前、家から大金を盗み出したんだろ、ホテルのマスターが大騒ぎをしていたぞ」
糞ガキが情報通の顔でペラペラと喋ると、仲間達や周囲で聞き耳を立てている者達の気配が変わる。
無視しようかと思ったが、誤解を解く為に少し声を大きくして返答する。
「あんたもホルムの人間らしいが、俺は巣立ちの日、冒険者登録したその日に街を出ているんだ。それ以後一切街に戻っていない、親爺達に何が起ころうと俺の知ったことか! お前の話が本当だとしても、俺がホルムに居た時にそんな話は聞いた事が無い、余計な妄想を垂れ流すな!」
「どうした」
「どこのどいつか知らないが、与太話を振ってくるから答えてやったのさ。幾らになったのかな」
ホーンラビット、48,000ダーラ
ヘッジホッグ、24,500ダーラ
チキチキバード、64,000ダーラ
カラーバード、324,000ダーラ
合計、460,500ダーラ
差し出された紙を見て満足して頷くと、レインボービーには気を付けろよと言って戻って行った。
二十日間の稼ぎとしては上々だろう、此れでまた暫くは魔力増強に励める。 査定用紙を見ながらそう考えていると、手から査定用紙が消えた。
顔を上げると『エラーか』と言った男が査定用紙を見ながら笑っている。
「エラーの割には稼いでいるじゃねえか、顔見知りも居るんだ一杯奢れよ」
「お前、人の査定用紙を取って寝言を抜かすな! 数が多いと思って喧嘩を売っているのか」
〈生意気な餓鬼だな〉
〈俺達〔漆黒〕相手に良い度胸だな〉
〈ちと痛めつけて、掠めたお宝を吐き出させるか〉
「ばーか、もしもお宝を手に入れたのが俺なら、とうに手配されて今頃は捕まっているさ、それも判らない盆暗頭が寝言を言うな! 査定用紙を返せ!」
「何を騒いでいる!」
怒声に振り向くと、ギルマスが頭から湯気が出そうな顔で睨んでいる。
「何の騒ぎだ、アラド話せ!」
一連の出来事を話すと、俺の査定用紙を手にする男を殴り倒して蹴り上げている。
乱暴だねぇ。
「査定用紙を出せ!」
ギルマスにドスの利いた声で言われた男が渋々といった様子で用紙を差し出す。
チラリと用紙を見て笑い、静まりかえって様子を窺っている冒険者達に、聞こえるように話し出した。
「どんな噂か知らないが、こいつに手配は掛かっていないぞ。それと漆黒とか言ったな、ホルムの冒険者ギルドから評判の悪い奴が行ったと連絡が来ている、お前達こそ手配されないように気を付けろ」
手でシッシと追い払われて、漆黒の連中が不機嫌な顔で食堂から出て行く。
査定用紙を返してもらい、ギルマスに礼を言って精算カウンターに向かう。
気分が悪いので、市場で食料の買い出しが終わったら何時ものナルーンホテルに行き飲み直しだ。
* * * * * * *
食糧確保が終わり再び森に行くことにしたが、レッドビーの事が頭から離れない。
蜜が手に入ればトーストしたパンも美味かろうし、お茶に入れても良いと思うと欲しくなる。
俺なら蜂が全身に纏わり付いても問題ない、大金を出してまで欲しがるのならさぞかし美味い蜜なんだろうと思う。
しかし、蜜を採取しても遠心分離機が欲しいが、無ければ原始的に布に包んで絞る必要が在る。
幾ら考えても良い案が浮かばないので出たとこ任せで行く事にしたが、切り取った巣を入れる容器だけは持っていく事にした。
蜂もでかけりゃ巣もでかいと思うので、寸胴の大きい物を買いにいく。
エールの樽ほどではないが、高さ60cm直径40cm程の寸胴が有ったので蓋と共に購入して、いざ西の森へと赴かん。
北門は今日も混雑しているが、衛兵に言われた通り貴族用通路を通るが、一人で貴族用通路を歩くと一般用通路からの視線が痛い。
身分証を見せると何も言わず敬礼して通してくれるので、軽く頭を下げ足早に逃げ出す事にした。
一般の列の方から何か騒めきが起きているが、気にせず西の森に向かって歩く。
草原に入り森に向かっていると、後方から良からぬ気配が近づいて来るが、振り向きもせずに目的地を目指す。
俺は全ての荷物をお財布ポーチと空間収納に仕舞っているが、追いかけてくる奴等は冒険者用の荷物を背負い、腰に剣を下げてそれぞれ得意の得物を手にしているのだろう。
さぞや大汗を掻いている事だろうと、ニヤニヤが止まらない。
〈待て! 待てって、このエラー野郎!〉
酷い言われようだが、折角のお声がけを頂きにっこり笑って振り返る。
あららー、大汗掻いてふうふう言っているよ、可哀想にね。
〈こっ、こ、この野郎、ふざけやがって〉
〈てめえー、なに貴族用の通路を通っていやがる!〉
〈逃げ足だけは速いな〉
「はあはあ言いながら文句を言われてもなぁ。呼び止めたのなら、何か用事が有るんだろう、早く言えよ」
〈ギルドの食堂でも生意気だと思ったが、俺達漆黒を舐めきっているな〉
〈兄貴、こいつの身ぐるみ剥いで、命乞いするまで痛めつけてやりましょうや〉
物騒な事をさらっと言うね。
「呼び止めて用件はそれか」
「ギルドでは世話になったな、落とし前を付けにきた」
「えーと、世話をしたってかギルマスに殴られたのはあんたで、俺はただの傍観者なんだけど判ってる? お礼参りならギルマスの所に行きなよ」
「エラーの癖に、口が減らねえ奴だな」
仲間に目配せして腰の剣に手を掛けたよ、二人ばかり弓に矢をつがえて引き絞る。
殺る気満々ね、なら遠慮はいらないって事でお相手しますか。
魔法攻撃防御・防刃打撃防御・体温調節機能・・・体温調節機能はこの際関係ないか。
防刃打撃防御の性能確認と防御障壁の耐久テストだね。
お財布ポーチから短槍を取り出し、講釈を垂れ流す馬鹿に突き入れる。
練習不足のひょろい突きを余裕で躱して、剣を振りかぶってくるのを躱しもせずに受けてみる。
見ていたので剣が当たったのが判るけど、衝撃が無い。
お返しに真面目に魔力を纏った突きを入れると、棒立ちのまま腹に短槍の先が突き立った。
〈ウッ〉と言い、腹に突き立つ槍を信じられないといった風情で見ている。 〈パスン〉〈パスン〉と情けない音がして、見ると足下に矢が落ちている。
性能テスト終わり、即行で弓持ち二人の腹にも槍を突き入れると、残り三人が逃げ出した。
即追いかけて、脹ら脛をちょんと斬るともんどり打って転倒する。
残り二人は(ジャンプ!)で追いつき様にアキレス腱を切断、もう一人は足が縺れて盛大に大地に五体投地と信仰心の篤さをみせる。
ショートソードの峰で後頭部を殴りつけて、襟首を掴んで三人の所にジャンプする。
驚愕する三人を放置し、残り二人を連れて来て尋問開始。
〈まさか・・・転移魔法〉
〈うっ、嘘だ! エラーの癖に魔法を使える筈が無い!〉
大声で喚くそいつの頭を、ゴブリン用の棍棒で殴りつけて黙らせる。
「何の用か聞こうか? と言うよりサラザンホテルの金が目当てだろう」
「やっぱり、あれはお前が盗んだんだろう」
「言ったよな、俺は冒険者登録をしたその日に街を出ているんだ」
〈誰が信じるか! 転移魔法が使えるのなら何処にでも忍び込めて、盗み放題じゃねえか〉
〈俺達にも分け前を寄越せ!〉
大怪我をしているのに欲の皮が突っ張っていなぁ。
「頭大丈夫か? と言うか馬鹿だから俺を襲ったんだよな。分け前を寄越せって、此れから死ぬのに金なんか必要無いだろう」
そう言われて、初めて命の危険を思い出したように震えだした。
やっぱり馬鹿の群れだ。
〈たっ、頼む、命だけは助けてくれ〉
〈勘弁してくれ! 悪かった〉
〈すまねえ、許してくれ!〉
「で、お前、ギルドで俺の事をベラベラ喋ってくれたよな。特に金の事を」
「悪かった、もう言わない喋りません!」
「手遅れだよ。お前が喋ったから、お仲間がその気になったんだろう。ギルドの食堂でペラペラ喋ったら、翌日にはアスフォールの冒険者全てが知っているよ。面倒事の種を振りまきやがって」
土下座並みに頭を下げて謝る、男の背中に短槍を突き立てる。
〈ヒッ、人殺しー〉騒ぐ男の胸に突きを入れ、隣の男の首を斬り付ける。
地面を引っ掻いて逃げる男の後ろから心臓を一突き。
〈やっ、止めてお願い、痛くしないで〉ってお前は処女か! 馬鹿な事を考えながら残り二人を始末する。
転移魔法を見て、生き残れると思う馬鹿には疲れる。
6人をお財布ポーチに入れて蜂の巣の近くへ運び、獣の死骸の周辺にばら撒いておく、殺人犯はレッドビーに決定。
見つけた欲の皮の突っ張った奴が、死骸からお宝を剥ぎ取りに来るだろうが、その頃には腐乱死体か白骨化しているだろう。
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