第8話 報酬

 瀕死の状態で治癒魔法により命を取り留めたが、意識がなければ食事も取れないし点滴なんてしゃれた物もない。

 なら体力の回復はどうするのか。

 周囲を見回しても強制的に食事を取らせる方法が見当たらない。

 仕方がないので、内緒で(鑑定!)を掛ける〔セイオス・男・衰弱〕・・・だろうと思った。

 吸い口付きの容器もないので、脱水症状も出ているだろう。


 「奥様、病人用の食事容器が見当たりませんが?」


 きょとんとしているので、そんな物の存在を知らないのだろうな、貴族なら具合が悪けりゃ治癒魔法師を呼び付けるだろうし。

 傍らに控えるメイドに尋ねたが、困った顔をするだけで答えられない。

 仕方がない、大きめのカップに白湯を一杯とスープ用のスプーンを用意させると、セイオスの身体を起こしてもらい、クッションで背もたれを作らせる。

 湯が冷めるのを待つ間に説明をして、湯冷ましの水をスプーンで少しずつ口に入れていく。

 まだ白湯を飲みこむ力は残っている様なので一安心。


 その間にメイドを厨房に行かせると、野菜をすり潰して漉したスープを作る様にお願いする。

 脈はまだあるので、水分補給と栄養補給のスープで持ち直せば良いが、バタバタしていると伯爵様とオルザ様がやって来て、何をしているんだと問われた。


 「伯爵様、瀕死の状態で水も飲めず食事を取れない状態で放置すれば、どうなるとお思いですか。セイオス様もそうですが、もう一人の騎士の方も心配なのでどうなっているのか確認して下さい!」


 「治癒魔法で治ったのじゃなかったのか」


 「傷は治っても流れた血は戻っていません。ましてや意識を失ったままだと何れ死にます。意識のある者なら喉が渇いた腹が減ったと言って水を飲み食事を取りますが、大量の血を流し衰弱しきっているセイオス様にそれは望めません。無理矢理にでも口に入れ飲ませなければなりません。意識が戻って自分で食事を取れるようになるまで、野菜や肉を煮込んで飲みやすくしたスープを与え続けて下さい」


 「わっ、判った、騎士の方もそのように手配しよう」


 その夜治癒魔法について考えたが、衰弱しきった身体を治癒魔法で何処まで回復できるのか、連続してヒールを掛けても大丈夫なのか結論がでない。

 伯爵様の御子息様で実験する訳にもいかないし、と思い考えを放棄する。


 セイオスは一週間目に目を覚ました、しかし殆ど目を覚ましただけで動けない。

 メイドが慌てて俺を呼びに来て駆けつけたが、俺もどうした者かと悩むが目が覚めたのなら重湯程度のスープを作らせて、無理にでも食べる様にさせた。 目覚める度にスープで喉を潤し、少しずつ少しずつ口に入れる物を粥状の物に変えていかせる。

 目覚めてから10日も過ぎると、寝ている時間よりも起きている時間が長くなってきたので、もう大丈夫だと思いお暇をする事にした。


 翌日、伯爵様にお暇したいと告げると、渡したい物が有るのでもう一日待ってくれと頼まれた。

 翌日の朝食後、執事のカルマルに案内されてカリンガル伯爵様の執務室に招き入れられた。


 「アラド、君のお陰でセイオスの命が助かった、本当に有り難う。少ないが謝礼だ受け取ってくれ」


 そう言ってカルマルに頷くと、カルマルが革袋の乗ったトレーを持って来た。


 「こんなに貰って良いのですか?」


 「君には二度セイオスの命を助けて貰った、それに君ほどの治癒魔法使いなら当然の報酬だ、受け取ってくれ」


 貴族相手に断れば、面子を潰すことになるので素直に一礼してお財布ポーチに入れるが、何やらカードが1枚有る。


 「冒険者カードと同じ様に、血を一滴落としてくれ」


 そう言われてカードに血を落とす。

 浮かび上がったのは此処に来て見慣れた、カリンガル伯爵家の紋章、二重の輪に交差する槍とウルフが描かれた丸い楯だ。


 「それは配下の者に持たせている身分証と同じで、執事と同等の資格を持つ者が持っている。この領内なら配下の者は君に無礼を働くまいし、私に用が有れば取り次いでくれる。それと君の能力について何か言ってきても、それを見せれば私の配下と思って手を引くだろう。しかし、上位貴族や豪商共には気を付けたまえ。他領に行ってもそれを使って貴族用通路を通れば良い。冒険者カードより役に立つので使ってくれ。最後に冒険者ギルドに行ってそれを見せて、ギルドマスターに会ってくれ。オークの代金が支払われるだろう」


 まっ、伯爵様の配下にはならず、多少なりとも権力のおこぼれに預かれるって事ね。

 有り難く礼を言って懐にしまうと、玄関ホールで伯爵様一家の見送りを受けて、馬車で冒険者ギルドまで送ってくれた。

しかし、これで半強制的にギルドマスターと会うことになってしまった。


 冒険者ギルドに横付けされた馬車から降りると、注目の的だ。

 受付で伯爵様の身分証を見せて、ギルマスとの面会を求めると即座に2階へ案内された。


 「おう、来たか。カリンガル伯爵殿が喜んでいたぞ、お前さんの討伐したオークの代金は、直ぐに持って来させる」


 受付の小母さん・・・こわっ、睨まれちゃったよ。

 お姉さんから革袋を渡された。


 「245,000ダーラ入っている、確認してくれ」


 そう言われて、袋の中を確認していると、カードを出せて言われて渡す。

 暫くすると、金を持ってきたお姉さんがカードを持って来てギルマスに手渡す。

 

 「お前が殆ど一人でオーク7頭を討伐した功績を認めて、今日からブロンズランクだ。それと伯爵殿から頼まれている、ギルド内や他の場所で冒険者と揉めたら俺の名を出せ! 出来る範囲でだが便宜を図ってやる。俺の名はオーランドだ、サブマスはマルザクな」


 言うだけ言うと、ギルマスの執務室を放り出された。

 冒険者になって三月もせずに、ブロンズランクに昇格したよ、それも意図しないオーク討伐でだよ。

 それと、今日だけで2024万ダーラを手に入れた、金貨にして202枚か・・・取り敢えず菊地槍でも注文するかな。


 * * * * * * *


 前回泊まったナルーンホテルに部屋を取り、武器屋の場所を尋ねて出掛ける。

 チタロア通りのブロング武器店、店内には様々な武器が陳列されていたが菊地槍は無い。

 当然だな、反りの無い日本刀の先を槍の穂にしたような物だから、注文生産は出来るのか問えば、無理の一言で終わらされた。


 その代わりコンロを見つけた。

 魔道コンロ、魔石を入れる所の蓋を開けて中にゴブリンかハイゴブリン又はオークの魔石を入れたらダイヤルを捻るだけ。

 0~10のメモリ付き、とろ火から強火まで思いのままだって、オークの魔石で約半年使えると聞いて即座に買ってしまった。

 魔道コンロ金貨2枚20万ダーラ、高いのか安いのか判らないがお茶を飲む為には必須なので異論は無い。

 魔道コンロを買ったので、鍛冶屋の場所と名前を愛想良く教えてくれた。


 鍛冶屋はブラーツ通りにあり〔ウランゴ鍛冶店〕店内には注文生産品だろう不思議な武器が並んでいる。

 鋤鍬の農具や鍋釜にフライパン等も有るので、何方が本業か判らない。

 誰もいないので音のする奥に声を掛けると、出てきたのは貫禄十分な女将さん。

 手槍を注文したいと言うと、武器屋に行きなさいと優しく言われる。


 「ちょっと変わった槍先なんで武器屋には無いんですよ」


 亭主を呼んで来ると言い、店の奥に引っ込んでしまった。

 暫く待つと、女将さんとは正反対の優しげな亭主が出てきたが、この親爺、筋骨隆々で顔と身体が合ってない。


 「変わった槍だと聞いたが?」


 紙を貰い、簡単な図面を書く。

 直刀で長さは約1.1m、60cmは茎で柄に埋め込むので刃の部分が約50cm。

 身幅は7cm程度で厚みは1cm以上、柄は楕円形で柄の長さが1.3mにする事を伝える。


 「こんな形の手槍を何に使うんだ」


 「刃の無い場所で殴るんだ、だから有る程度の重みと頑丈さが必要なんだ」


 「此れを振ってみろ」


 そう言って手渡されたのは、直径3cm程度で長さは1.4m程の鉄の棒。

 店の奥に設けられた、試し振り出来る場所で鉄棒を振り回して見せる。

 滑り止めの所まで目一杯長く持ち、ヒュンヒュン音をさせて振り回すと、親爺が満足気に頷く。


 「材料によって値段が変わるが、基本は鉄だな。鉄だと金貨2枚20万ダーラ、後は魔鋼鉄かミスリルだがミスリルは軽いので駄目だな」


 「魔鋼鉄って?」


 「鉄より少し重いが強度は3倍以上有るな、但しお値段もそれなりで45万ダーラになるぞ」


 「魔鋼鉄で作って貰おうか、序でに同じ形で刃渡り50cmのショートソードも頼む。厚みや幅は普通のショートソードと同じで良い」


 ショートソード35万ダーラ、手槍45万ダーラで計80万ダーラ、金貨8枚を渡してナルーンホテルに泊まっていると告げる。

 十日後には出来ているので取りに来いと言われて店を出る。

 十日も有るのならもう少しましな服を作ろうと思い、ホテルに戻り注文服の店を訪ねたが、庶民は注文服など作らないのでよく判らないと言われてしまった。


 御無理御尤もです。金が有ると日本人の感覚が出てしまう。

 商業ギルドで尋ねれば教えてくれると聞いたので、明日は商業ギルドに行くことを決めて、その日は市場に行き備蓄食料を買いに出た。


 翌日はヨエンス通りに建つ商業ギルドに行き、多少費用が掛かっても良いので、もう少しましな冒険者用の服を作れる店を紹介してくれと頼む。

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