第5話 ゴブリン撲殺

 ソファーの下から、もう少し掻っ払っておくのだったと後悔したが、まあいいや。

 身を守る魔法は使えるし、冒険者としての出だしとしては上々の部類なので、此れで満足して後はのんびり稼げば良い。

 礼を言って魔道具店を後に冒険者御用達の店に向かい、雨天用のフード付きマントを手に入れる。

 代金5万ダーラで残金17万ダーラ、明日は冒険者ギルドに行って薬草を売り情報を仕入れる事にする。


 * * * * * * *


 朝の混雑が過ぎたと思われる9時過ぎに、アスフォールの冒険者ギルドの薬草買い取りカウンターの前に行き、背負子から薬草を採りだしてカウンターに並べる。


 トロポリス、頭痛薬、15束

 ベレーン、腹下し、9束

 オリゾンテの芋、13個

 アビスタ、ポーションの材料、小袋一つ

 ポルニート、ポーションの材料、7束


 薬草買い取りの婆さんが、一つ一つ確認しながら用紙に何やら書き込んでいく。

 暫く見ていると名前を呼ばれ、一枚の紙を渡された。


 トロポリス、4,500ダーラ

 ベレーン、2,700ダーラ

 オリゾンテの芋、9,000ダーラ

 アビスタ、5,500ダーラ

 ポルニート、4,900ダーラ


 合計で26,600ダーラの査定用紙を受け取り、満足して精算カウンターで代金を貰う。

薬草見本が有る場所に入って良いか確認して、許可を受けて薬草見本を置いてある部屋に行き、鑑定を使いながら覚えていく。


 サパウの葉、ポーションの材料10枚一束。

 ジルタバの茎、肩こり上部20cm程。

 ティンガの蕾み、季節物蕾み一つ。

 ナタウの葉、痺れ止め10枚一束。

 イリーニャスの球根、酔い覚まし銅貨二枚の重さ。


 酔い覚ましって二日酔いの薬だよな、此の世界にも酔っ払いと二日酔いは存在するのかと可笑しくなった。

 それより薬草見本と共に壁に掛けられた地図に興味を引かれた。

 アスフォールを中心とした地図だが、市内は描かれておらず周辺図だ。

 周辺の草原や近隣の町村と森の配置図で、王都へ続く街道北出入口から出て東に行けば草原地帯になっている。

 半日も行けば大森林になっているが、アイアンランクは近寄るべからずと但し書きが付いている。


 取り敢えず地図に書かれている場所に行ってみることにして、市場で食料を仕入れると肩から提げたバッグに詰めていく。

 バッグの中には適当な重さを出す為に雑貨を入れていて、見えない位置にお財布ポーチを紐で固定している。

 一カ所で大量に入れなければ、誰にも不審がられないので便利だ。

 空間収納にもっと馴れたら、バッグの中に入れたように見せかけて、空間収納に物を入れられるように練習するる事にする。

 残金約18万ダーラ、ホテルに泊まらなければ食費だけの気楽な生活が出来るだろう。


 昼過ぎには北門から出て少し歩き、東の草原地帯に足を踏み入れる。

 草原といっても疎らに生える草と、所々灌木の茂みが点在する寒々とした光景がひろがっている。

 森の方角にはもう少し草も生えているだろうと足を向けると、遠くにゴブリンが見える。

 魔力を巡らせていると、身体能力が向上してこんな時に便利だ。


 未だゴブリンから魔石を取り出した経験が無いので、討伐する気は無い。

 防御障壁に(隠蔽!)の魔法を重ね掛けして、姿と気配を消してゴブリンに近づく。

 5頭のゴブリンがホーンラビットを食い千切っていてお食事中〈グギャー〉〈ギギャギィ〉〈ギャ?〉と煩い。

 ガーラをぶん殴った長めの薪を取り出して、フルスイングでゴブリンの頭を殴る。


 一匹目はもろ側頭部を捕らえたために白目を剥いて昏倒、2匹目はそれを見て目を剥いた所を狙って鼻がめり込むほどの強打で一発失神。

 3匹目はキョロキョロしているが、首の付け根に一撃を入れると肩が陥没して〈グギャーァァァ〉と悲鳴を上げてへたり込む。

 逃げ出した4頭目は後ろから蹴り倒し、薪割りの要領で頭をかち割る。

 5匹目は10m程先を逃げているが、追うために転移魔法を試す。

 逃げるゴブリンの先10mの所に(ジャンプ!)向かって来るゴブリンの腹にホームラン級のフルスイングを入れると、くの字に折れて脱糞して動かなくなった。


 扱き使われて鍛えらたので体力が十分あるし、魔力を纏った影響で身体強化が出来ているので楽勝で終わった。

 その身体強化の影響か、鼻も敏感になっていて臭いのなんのって吐きそうだ。

 取り敢えず腰のナイフを引き抜き、ゴブリンの頸動脈を切り放置しておく。

 今回の反省、薪の棍棒はもう少し長く重くすれば、もっと効果的な打撃を与えられると思う。


 ゴブリン討伐で気が立っていて気がつかなかったがそこ此処に擦り傷切り傷が出来ていて痛む。

 興奮していて、隠蔽には気を付けていたのだが、結界が外れていた様で反省。

 治癒魔法の実験に丁度良いので、ラノベを信じて傷を押さえて治れと願って(ヒール!)と口内で呟く。

 何とまぁ、一言呟いたら腕や足の傷が全て治っているじゃないの、ラノベ万歳。


 等と暢気な事を考えていたら空模様が怪しくなってきたので、キャンプ地を定めたら即行で結界を張ることにする。

 簡易ベッドを置いてもぐらつかない場所を見つけると、直径3m程の結界を張り隠蔽で隠す。

 半球状の結界は地面にも十分食い込んでいるので、獣の突撃にも耐えられるだろう。

 ここをキャンプ地と定める、と宣言して陽が落ちるまで日課の魔力操作を始める。


 しかしこの簡易ベッド、米軍の放出品のような構造で、担架にX型の折り畳み足が付いていて至極便利。

 日没を待って食事を済ませると、魔力放出をして魔力切れからの回復時間の測定だ。

 魔力放出前に自己鑑定、魔力100を確認してから以前やった方法で魔力を腕から放り出す。

 身体が怠くなってきたところでベッドに横になり、時間を確認して最後の魔力を放出する。


 目覚めて時計を確認すると、約7時間程気を失っていたようで、どおりで目覚めがすっきりしている。

 自己鑑定、魔力100と変わらず。

 結界のドームをもう一つ、10m程離して作り隠蔽する。

 転移魔法の練習と魔力の減り具合の確認、五往復で残魔力86で計算通り。

 結界と隠蔽で魔力2を使用して、ジャンプしての出入り2回に転移往復五回で魔力10を使用、二つ目のドームを解消しても魔力の減りは無し。


 昼は鑑定を使用しながら、薬草採取と周辺を散策して自由を楽しむ。

 ホーンラビットを3匹狩ったが、隠蔽で姿を見られる心配が無いので楽々接近して棍棒の一撃で必殺。

 余りにも楽な狩りなので、少し罪悪感を感じるが情け無用とニヒルに決める。

 しかしゴブリンやホーンラビットの撲殺って、ちょっと野蛮なので近いうちに短槍を手に入れようと思う。


 魔力切れによる魔力増強は5日で1/100増え、2週間16日で魔力は103になった。

 5日で1%の上昇なら上々だ、一年360日だから単純計算で魔力が72増える計算になる。


 アスフォールの街に一度戻り、冒険者ギルドで薬草やホーンラビットを売ることにする。

 腰にお財布ポーチを付け、バッグを肩から提げて薬草の買い取りカウンターに行く。

 集めた薬草を並べながら、ホーンラビットやチキチキバードが20羽程有るのだがと小声で申告する。

 じろりと、鋭い目付きで睨んでくる親爺。


 「お財布ポーチ持ちか?」


 こくこく頷くと、薬草を出したら解体場に行けと横の通路を指差す。

 薬草を出し終わり、示された通路を奥に進むと、がらんとした倉庫の中に出た。


 「何だ坊主?」


 「ホーンラビットにヘッジホッグとチキチキバード合わせて20羽程持っているんですが」


 「ほう、若いのにお財布ポーチ持ちか。そこに種類別に並べてくれ」


 示された場所に、お財布ポーチから取り出し並べて行く。


 ホーンラビット13羽

 ヘッジホッグ7頭

 チキチキバード4羽


 「ん・・・どれも無傷だがどうやって狩ったんだ?」


 「んーと、殴って」


 そう言って、お財布ポーチから棍棒を取り出して見せる。

 解体係の親爺が呆れ顔で俺を見ていたが、カードを出せと言って手を出す。


 「何だ、冒険者になって一月も経ってないのか。それにホルムの街から来たのかよ。食堂で待ってな」


 そう言って親爺は背を向け、遠くに居る者を呼びつけている。

 ゴブリンの魔石を取り出す方法を聞きたかったが、俺に興味なさそうなので食堂へ行く事にした。


 エール一杯と串焼き肉一本で900ダーラ、ビール一杯500円に串焼き肉一本400円なら日本並みの貨幣相場で間違いなさそう。

 雑味と不純物の浮いたエールの割に美味い、と言っても此の世界での飲み物を大して知らないけど。

 水と湯冷ましにハーブティーくらいだ、畜生! 焼酎のお湯割りで一杯やりてえなぁ。


 薬草担当の婆さんが査定用紙を持って来てくれた。


 アビスタ、3,500ダーラ

 ポルニート、5,600ダーラ

 サパウの葉、6,000ダーラ

 ジルタバの茎、5,400ダーラ

 ナタウの葉、8,400ダーラ

 イリーニャスの球根、25,500ダーラ

 合計54,400ダーラ


 満足して査定用紙を受け取ると、解体責任者の親爺も査定用紙を持って来て冒険者カードと共に差し出した。


 ホーンラビット、26,000ダーラ

 ヘッジホッグ、24,500ダーラ

 チキチキバード、16,000ダーラ

 合計66,500ダーラ


 用紙を貰って頷くと、親爺が話しかけてきた。


 「この街に暫く居るのなら、チキチキバードやカラーバードをもっと狩れるか?」


 「居る場所が判っていれば、狩れるよ」


 「チキチキバードは森と草原の境、カラーバードはもう少し奥に入った辺りに生息すると言われている。お前のは傷が無く良質だから頼む、解体場に直接来て呼んでくれ。俺はオラルスだ」


 「アラドだ、宜しく」


 2週間で120,900ダーラなら、一日平均10,000ダーラの稼ぎなので悪くない。

 懐の金と合わせて30万ダーラ有るので、冒険者御用達の店へ短槍を買いに行く。

 全長約180cm穂先部分約40cmで柄が太い短槍を買ったが、ぶん殴る事も考えれば片刃の剣のような菊池槍が欲しい。

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