第4話 散財
三人とも服装は綺麗な物で古着じゃ無いのは一目瞭然で、次男三男坊以下のお坊ちゃまが、小遣い稼ぎに冒険者になると聞いていたがその類いだろう。
「それがどうかしたか」
「話を聞いていたのなら判るだろう。俺達は一年間他のパーティーに所属するのは出来ないから、知り合い同士で薬草採取やゴブリン討伐をやろうって決めているんだ。エラーのお前を、仲間に入れてやろうって言っているんだよ」
「話を聞いていたのなら判っているはずだ。申請すれば他の冒険者パーティーに加わる事も出来るってな」
「判って無いな、俺達は此れからのし上がる気だ」
「悪いな、お前達の荷物持ちになる気は無い。俺は一人で遣るつもりだから他をあたってくれ」
こっちは今日の宿も飯も無いんだ、餓鬼の冒険者ごっこに付き合って居られるか。
「お前はサラザンホテルの末っ子だろう。親に捨てられたんだから、俺達の下に付けよ」
「放っておいてくれ! 仲間に引き込む気なら、足を引っ張ってゴブリンの餌にしてやるぞ」
きつめに言うと、睨みながら部屋を出て行った。
薬草の種類を覚えたら、直ぐに街を出て行く気なので付き合ってられないんだよ。
薬草見本を一つ一つ鑑定しながら見ていき、五種類ほど記憶して街の出入り口に向かう。
ギルドで買った薬草袋の一つに、市場で買ったパンに肉を挟んだ物や串焼き肉を持って急ぐ。
陽が少し傾き始めていて、後3時間程で日暮れを迎えるので早く帰れと、門番の親爺に注意を受ける。
まぁ陽が暮れてから帰る気なので生返事を返して街道を少し歩き、街道から外れて草原の草を鑑定しながら歩く。
薬草と鑑定された物は全て薬草袋に入れていく、採取方法を覚えていない物も気にしない。
取り敢えず、採取方法を覚えている物と覚えていない物を分けて別の袋に入れるだけ。
街の出入り口から余り離れない様に気を付けながら、街道から見えない位置に座り込み考えていたドーム状の結界を張り隠蔽魔法で覆う。
転移を使って結界の外に出て、結界からの出入りが出来るか試すと共に、外部からどう見えているのかも確認してみる。
結界内に灯したライトも見えず、ドーム状に隠蔽魔法の網トーンの影が見えるだけだった。
中に戻って寛ぐ、といっても地べたに腰を下ろして、陽が暮れるまで採取した薬草の選別だ。
トロポリス、頭痛薬、茎から上全て10本一束。
ベレーン、腹下し、上部の葉のみで20枚一束。
オリゾンテ、切り傷血止め、地下茎(芋)重さによる。
アビスタ、ポーションの材料、(丸い実)重さによる。
ポルニート、ポーションの材料、手の平大の葉のみで5枚一束
後は薬草と鑑定に出たから集めただけで、名前も判らないが種類別に分別し空間収納に保管しておく。
今日食糧を買って残金が96,200ダーラ、ガーラ達から巻き上げた50,000ダーラに、ベッドメイクや食堂の掃除の時に拾い集めて隠していた47,600ダーラ。
9才の時から隠して貯めていた金が無ければ、食事一つ出来ない状態で放り出されるところだった。
陽が暮れたのでホルムの街に戻る事にする。
暗い街道には人影も無く、街の出入り口の門も堅く閉ざされている。
正門に辿り着くと、転移魔法の壁抜けの要領で(ジャンプ!)して中に入るが、門内では暇な衛兵達がのんびりと寛いでいる。
隠蔽魔法最高♪ 神様の御利益に感謝しつつサラザン通りに向かって歩く。
サラザンホテルの裏口を覗くと、次兄のアマゾがブツブツ言いながら木桶の水を運んでいる。
俺という奴隷がいなくなれば当然の結果だな、下働きを雇うかアマゾが俺の代わりを務めるかだが、興味なしなのでちょっと観察。
水で一杯の木桶を持って、よたよたと歩くアマゾの足をちょいと引っかけてやる。
盛大に転んだアマゾが悪態をつくのを聞きながら、ホテル内に侵入して俺の部屋に入る。
この時間帯は夕食と一杯やる街の人々で混雑していて忙しく、誰も上に上がってこないのは確実だ。
隠蔽魔法を掛けていて、誰にも見られる心配が無いので堂々と両親の部屋に侵入しお宝を探す。
初めて入る両親の部屋は、結構贅沢な作りになっていて何処を探せばお宝が有るのか判らない。
泥棒じゃないので・・・立派な泥棒か。
苦笑いが出るが、長年奴隷働きをさせられた未払い賃金の無断徴収なので罪悪感無し。
掻き回して騒がれるのは本意ではないので、店仕舞いまで自分の部屋で待つことにする。
深夜、それぞれの部屋に入る音を聞きながら行動を起こす。
隠蔽魔法が効いていることを確認して、両親の部屋の前に立つと壁抜けの要領で部屋に侵入する。
一日の売り上げ計算に忙しい両親をドアの傍で見物、ソファーの座面を持ち上げると革袋がぎっしりと並んでいる。
それさえ見せて貰えれば用は無いので、静かに部屋をでて厨房に向かう。
厨房に行くと本格的な泥棒稼業に励む、スープの入った寸胴や肉の塊とハムを空間収納にポイポイする。
パンにビスケットや塩砂糖に香辛料、フライパンや小鍋に食器類を二人前ずついただいていく。
食料庫に有ったエールの樽も一つ確保、エールの樽は高さ80cm横50cm程で重いが、空間収納に入れるぶんには関係ない。
空間収納は人に聞かれたら、エールの樽8個分程度と誤魔化しておくことにするか。
一度街の外に出て、ドームに戻り夜明けを待ちながら今後の予定を考える。
一日だらだらと過ごして、再び夕方の忙しい時間帯を待ってサラザンホテルに侵入すると両親の部屋に入る。
迷わずソファーの座面を持ち上げ、銀貨と銅貨の袋を二つずつ頂いたら用は無い。
お別れの挨拶に、家族全員の顔に一撃入れてやりたいが、面倒くさいので消えることにした。
翌朝夜明け前にドームを消滅させると、三つ先の街アスフォールに向けて旅立った。
二日前にホルムの街を出て、それ以来街に帰った形跡が無いので俺が疑われても無問題。
* * * * * * *
アスフォールは近隣の街より大きいと聞いていたが、街の入場待ちの列も長くしっかり待たされた。
よれよれの服装にくたびれた靴、布の鞄一つだから冒険者カードと顔をじっくり見比べてから入場を許可された。
先ず冒険者御用達の店に直行し、冒険者用のフード付きジャケットとカーゴパンツに似たズボンを調達、キャンプ用の簡易ベッドと寝袋も購入。
服は着替えて、古い物を廃棄して貰う。
服の上下で13万ダーラ
簡易ベッドと寝袋で6万ダーラ
冒険者用ザックと背負子も買うと、それに括り付けると店を後にする。
次は良いブーツが欲しいので靴屋の場所を尋ねて向かう。
ブーツ9万ダーラ
剣鉈に似た、刃渡り40cm程のショートソード、15万ダーラ
此れだけ仕入れたらホテルを探す事にしたが市場に近い所を武器屋で聞き、教えられたホテルに向かう。
ナルーン通り〔ナルーンホテル〕一泊銅貨4枚のホテルに二泊の料金を払って部屋を取る。
よく判らないが、ホテル名と通り名が同じなのは判りやすくて良い。
本日の散財43万ダーラ、ソファーの下から掠めた革袋四つ、銀貨と銅貨の袋にはそれぞれ一袋200枚の硬貨が詰まっていた。
銀貨が500円硬貨より一回り大きいサイズ、銅貨が500円サイズくらいで一袋200枚とは思わなかった。
どおりで袋が重たかった訳だ、合計440万ダーラも掠めてしまったが、多くて困ることはない。
残金397万ダーラ、噂のお財布ポーチを買っても余る計算なので、時計とお財布ポーチのお値段を確認に行くことにした。
* * * * * * *
朝食後ホテルの支配人に尋ねると親切丁寧に教えてくれたので、さっそく出掛ける事にした。
ラデンス通り〔サルスン商会・魔道具店〕扉を開けてくれた男が立ち塞がる。
「当店に何か御用でしょうか」
「時計が欲しくて、それと魔道具を幾つか見たいのだが」
余りにもジロジロ見るので、下げたバッグから革袋を出して中を見せると一礼し、店内に招き入れてくれた。
まだまだ小僧ってか、成人したばかりの冒険者が来る店じゃないよな。
カウンター席に案内されて、店員に何事か伝えると離れていく。
「時計をお求めと伺いましたが、どの様な物をお望みですか」
金を持っているのは判っているから、対応は丁寧だね。
「見ての通りの冒険者なので、頑丈な物が欲しい。それとお財布ポーチが300万ダーラって本当かな」
「時計のお値段は様々ですので一概には言えませんが、お財布ポーチは確かに金貨30枚300万ダーラで販売しています」
「では、お財布ポーチを先に貰おうか」
そう言って下げたバッグから銀貨100枚に小分けした革袋を三つカウンターに乗せる。
袋の中を確認すると一礼して、カウンターの奥に何事かを伝える。
直ぐにトレーに乗せられたポーチを持って来て係りの者に手渡す。
「お財布ポーチの裏に有る、指定された所に血を一滴垂らし秘密の呪文を口内で呟いて下されば、使用者登録が完了します。使用者登録を解除する時も、血を一滴落とし同じ呪文を唱えて下さい」
ラノベの情報は確かだねぇ、誰か異世界帰りの元勇者辺りが作家なのかな。 受け取ったお財布ポーチに血を落とし、(神様のエラー)と唱える。
バッグをポーチに出し入れして使い心地を確かめてから時計を見せて貰う。 無骨な懐中時計銀貨75枚75万ダーラ、魔道コンロを見つけたが20万ダーラと言われて諦めた。
お財布ポーチを買ったので残金97万ダーラ、時計を買うと残り22万ダーラしか残らない。
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