第3話 巣立ちの日

 屑のガーラが再び姿を見せたのは、10日後だった。

 用心のために、以前と同じ場所の隣にもう一つ輪切りの丸太を置いておいたのに引っ掛かった。

 それも二人、もう一人は時々ガーラとつるんで俺を甚振りに来るゴラン。

 用心しているガーラは少しは考えたようで、ゴランを囮に使っている。

 躓いたゴランを見て笑っている隙に(隠蔽!)と魔法を使って姿を隠すと同時に、収納に仕舞っているガーラ用に作った長めの薪を手に取る。

 今回は薪にも隠蔽の魔法を掛けているので、音を立てずにガーラの後ろに忍び寄り、後頭部に恨みの一撃を入れる。


 〈ゴン〉と鈍い音と共に崩れ落ちるガーラ、それを不思議そうに見ているゴランの後頭部にも一発入れてお休み願う。

 足止め用の輪切りを転がして片付けてから隠蔽魔法を(解除!)し、被害者二名の検分を行う。


 周辺に人影は無く誰も気づいていないので、二人の懐を探り革袋を取り出す。

 気分は強盗だな、いや完全な強盗なんだけど気にしない事にした。

 革袋の中は大して入ってない、銀貨2枚ずつと銅貨を5枚ずつ抜き取り革袋は返しておく。

 序でにガーラの腰からナイフも頂戴して、生活魔法のウォーターを腰の所を重点的に掛ける。

 たっぷり股間が濡れた所で、顔に気付けのウォーターをたっぷりと掛けてやるが、それでも目覚めないので鼻にフレイムの炎を乗せると、流石に目覚めた。


 〈アヂッ〉って声と共に飛び起きたが、首から上とたっぷり濡れた股間に気付き、気持ち悪さに顔を顰めている。

 長居をされちゃ迷惑なので、薪で顔面に一発ずつ叩き込むと慌てて逃げ出した。

 本日の収穫50,000ダーラ、毎度ありー♪

 次ぎに現れたら、有り金全て剥ぎ取ってやる。


 隠蔽魔法に自信が出来たので、夕食後食堂の片付けまでの間はホテル周辺へ探検に出掛ける。

 9才~11才まで、勉強の為に通った教会以外の場所を殆ど知らないので、地理を覚えるのに大変だったが毎日が楽しかった。

 二月もすると冒険者ギルドや商業ギルドの場所も覚えたし、街の出入り口の通過方法も判った。


 冒険者ギルド、槍と剣が交差した上に丸い楯の看板で、中で覗き見た冒険者カードにも同じ文様が入っていた。

 ラノベと同じで、冒険者カードを示して通過するが身分証の無い物は銀貨一枚を徴収されている。

 余り接近してぶつかったりすると騒ぎになりそうなので、慎重に行動したが通りかかった婆さんに、猛然と吠え掛かる犬にはお仕置きとして尻尾の付け根に薪の一撃を入れてやった。


 ギャンギャン吠えていた犬が〈キャインー〉と悲鳴を残して逃げて行くのを、婆さんが不思議そうに見ているので手を振って別れる。

 見えていないのは判っているが、気の問題だし良い事をした日は気分が良い。

 しかし隠蔽魔法って便利だね、誰にも知られず何処にでも進入できるので、暗殺者向きかな。

 魔法が使える事を知られても、隠蔽魔法の事は喋るまい。

 姿が隠せるのは、結界の上位版だと誤魔化そう。


 16才まで残り5ヶ月、本格的に結界魔法の使い方のイメージが湧かない、誰かA.T.フィールドの張り方を教えてくれー、と心の中で叫んでみるが返答は無し。

 ある日、魔力操作をしていて閃いたね、体内に張り巡らせた魔力を身体の表面に浮かせ、それを結界の障壁として使えば良いんじゃねと。


 試しにやってみると何となく体表面に何か有るのが判るので、薪を取り出して軽く手の甲を叩いてみる。

 手の甲の僅かに上の所で、薪が何かに当たって止められていて、手の甲には何の感覚も衝撃も無い。

 ナイフを取り出し、刃先でコンコンと軽く叩いて見るが傷一つつかないので多分大丈夫だろう。


 常に魔力を、身体全体に張り巡らせる訓練を始めるが、結構難しく難儀したが体表面に魔力を循環させる事で解決した。

 (結界!)の思考もなく、体表面に魔力を流している時は常に結界魔法を使用する練習が一番面倒だったが、何とか成人前に間に合った。

 同時進行で試していた、結界・・・文字通り結界も、30cm程の球体に魔力を込めれば24時間程度維持できるが、理想として3m位の結界を24時間維持したい。

 街中では実験が出来ないので、成人後のお楽しみとする。


 結界を張ると淡い光を放つが、此れを隠すために隠蔽魔法を重ね掛けすれば見えなく出来る事も判り大収穫。

 家内安全ではないが、我が身の安全を守る事が出来ると自信が付いた。

 見えなくなるのは結界の上位版だと誤魔化そうと思っていたのだが、本当になって嬉しい。


 冒険者登録一週間前までに、授かった魔法は治癒魔法以外は全種使えるようになった。

 隠蔽は一度掛ければ24時間有効だし、魔力を込めれば日数を伸ばす事が出来る。

 結界と障壁も24時間だが、此れも魔力の重ね掛けと魔力の使用量次第だと判っている。

 魔力の使用量は魔力溜りを確認すれば判るので大変便利、何故判ったかと言えば魔力操作の段階で、感覚として拳大の魔力溜りが魔法使用後に少し小さくなっていると気づいたのが始まり。

 空間収納や鑑定を幾ら使っても魔力が減らないのに。結界や隠蔽魔法を強化すれば小さくなった気がする。

 それは転移魔法で試せば直ぐに確認出来た、ドアの通過10数回で魔力量が減った気がしたので、ドア越しのジャンプを繰り返して確認した。


 鑑定、0/100、

 空間収納、0/100、ベッド二つ、

 治癒、0/100、不明

 隠蔽、1/100(1日)+強化1/100(10日間保持) 

 結界、1/100(1日)+強化1/100(10日間保持)

 転移、ドア通過1回、ジャンプ一回、1/100、


 最終的に鑑定で魔力量を確認しながら確かめたので、間違いないだろう。

 魔力100は魔力量と思われるが、魔法を一回使用する度に魔力を1使用している事になる。

 となると、授けの儀で魔力100以上の者もいるはずだが、此の世界の知識量が少なすぎて不明。

 ラノベやアニメのように、魔力を増やせるかどうかは魔力切れを多数経験してみなければ判らない。

 幸い俺には鑑定能力が有るので、日々自分を鑑定すれば直ぐに判る事だ。


 * * * * * * *


 16才の誕生月を迎えて、教会で巣立ちの日の儀式を済ませて冒険者ギルドに向かう。

 前夜食堂の掃除を始める前に、親爺から兄エドガの古着一式とズック鞄一つを投げ与えられた。


 「明日の巣立ちの日には、それを着て教会に行け。二度と此の家に戻ることは許さんから覚えておけ!」


 そう言って俺に背を向けた、母親や他の兄弟達は姿も見せなかった。

 何時もの事だし、親爺から怒声や命令以外の言葉を聞いたのは何時以来だろう。

 二度と家に戻る事は許さんか、奴隷の下働きを失っても頭の可笑しい俺を放り出す事が大事らしい。

 この国の制度として、成人前の子供の養育を放棄すれば高額の罰金、下手すりゃ奴隷落ちの恐れがあるので渋々家に置いていたって事だよな。


 冒険者ギルドは、街の入場門から大広場に続くハラルド通りに建つ三階建ての建物だ。

 ギルド内に入り正面受付カウンターに向かう。

 隠蔽魔法の練習で時々見学にきていたので良く知っている。

 今日はお姉さんじゃなく、むさ苦しいおっさんが座って入る。


 「すいません、冒険者登録に来ました」


 「おう、坊主は今月が巣立ちの日か。この用紙に名前と住所に授かった魔法名を記入してくれ」


 「家を放り出されてしまったので住所は在りませんが・・・」


 「じゃ名前と街の名に、魔法名だけで良いぞ」


 渡された用紙に、アラド、ホルム、魔法無しと用紙に書いて提出する。

 用紙を一瞥し、何やら書き込んだ後聖刻盤に似た物を取り出して手を乗せろと言われた。

 手を置くと、聖刻盤に似た物が淡く光ると登録完了だ。


 「ふむ、アラド16才、ホルム産まれで魔法は無し。間違いないか」


 頷くと、冒険者の心得を教えるから、2階に上がって扉の開いている部屋に入れと言われる。

 指差された階段を上がり、扉の開いている部屋に入ると10数名の同年代の者達が緊張の面持ちで椅子に座っている。


 受付のおっさんが部屋に入ると各自の名を呼んでカードを手渡していく。

 ラノベで有名な冒険者カードだ、表に俺の顔が点描で浮かんでいて、右上に冒険者ギルドの看板が描かれている。

 その下が名前に年齢とアイアンランク、裏にホルムの都市名と登録年月日で魔法欄には記載無し。


 説明によればアイアン・ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ミスリルの六段階が存在する事。

 シルバーランク以上は非常時の強制募集に応じなければならず、拒否すれば罰金と降格処分を科される。

 その他冒険者として守らなければならない規則や心得などを、色々と聞かされて解散となった。


 俺は説明にあった薬草見本を覚える為に、部屋の後ろに行く。

 ホルム周辺で採取出来る薬草の見本と、必要部分の採取方法が詳しく書かれたメモ付きで意外に親切なんだ。

 アイアンランクなんて、依頼掲示板を見るより薬草採取とホーンラビットとヘッジホッグに、鶏に似たチキチキバードを取ってこいと言われた。

 後はゴブリンに気を付けろと、一匹居れば4~5引きは最低居るからと。


 俺は狩りより薬草採取を重点的にして、ホーンラビットやヘッジホッグ等の小動物程度を相手にするつもりだから、薬草見本を真剣に見る。


 「なぁお前、お前って神様のエラーって言われていた奴じゃねえの」


 突然の声に振り向くと、大柄で意地の悪そうなニキビ面の少年と、左右に二人の少年が立ち俺を珍しげに見ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る