第2話 鑑定結果

 〔アラド・15才・男・鑑定魔法・治癒魔法・転移魔法・隠蔽魔法・空間収納・結界魔法・魔力100〕・・・ちょっと待て!!!


 確かに俺は、創造神ウルブァ様に(健康で安心安全な生活が送れる魔法をお授け下さい)と、お祈りした!

 意識が融合してからは神様の存在を信じていたし、授けの儀で魔法をお願いしたよ。

 前世の記憶から、神様に現世御利益をお願いして祈る癖が付いていたからな。

 それも家内安全とか交通安全系が多かったのが反映して、見事に身の安全と健康に偏っているじゃないの・・・有り難うウルブァ様。


 しかし隠蔽魔法って何よ? 色々魔法の事を調べたが隠蔽魔法って初耳だぞ。

 鑑定魔法、有用で生活に役立つと判る。

 治癒魔法、健康な生活に欠かせないよな。

 空間収納、生活に便利なことこの上ない。

 結界魔法、身の安全に欠かせないので有り難い。

 転移魔法、三十六景逃げるに如かず・・・だな。

 隠蔽魔法・・・物を隠す魔法だよなぁ、魔法を授かったのに見事に隠してくれちゃてたよ。


 偶然とはいえ鑑定魔法に気づいたから良かったが、下手すりゃ一生魔法が使えるのを知らずに過ごすところだった。

 逆に考えれば、治癒魔法・鑑定魔法・空間収納・転移魔法を授かったことが周囲に知られたら大騒動になり、俺の自由は無くなっていただろう。

 ここは現世御利益に感謝して、教会に足を踏み入れることが在れば、お布施を弾まねばなるまい。

 16才まで残り9ヶ月、しっかり考えて身の安全を図らねば、冒険者登録が死出の旅路になってしまう。


 六つの魔法のうち、鑑定魔法は使えると判ったが次に何が必要か?

 逃げる転移魔法は、転移距離も回数も判らないので、魔力切れでも起こしたら一巻の終わりだし後回し。

 治癒魔法は、怪我をしてみなけりゃ判らないのでこれも後だ。

 となると、結界魔法か隠蔽魔法だが、結界を使えても逃げられ無ければ何れ魔力切れは必至。

 隠蔽魔法で身を隠して逃げるのが最良かも、もしも全てを完全に隠せるのならば、俺の安全は保証されたようなものだ。


 隠蔽、何を何から隠すのか・・・それが問題だ。

 物を隠すのじゃなく、俺自身を隠す練習からだが相手は決まっている。

 屑冒険者のガーラ、ホテルの裏で雑用をしている俺を罵倒し時に暴力を振るう奴。

 それに近所の悪ガキ共にも一泡吹かせてやる。

 客ならまだしも、暇潰しの為にわざわざホテルの裏までやって来る屑共、先ず此奴から身を隠す練習だ。

 弱い相手を態々探して甚振りにくる、屑共から身を隠せるのならば序でに恨みを晴らす良い機会だ。


 自分の身を隠す事が出来るのか確かめる前に、薪割りの為に切り分けている丸太の輪切りを、隠せるか試してみた。

 一つの丸太の輪切りを睨みながら、誰にも見えなく為れ! と願う・・・変化無し。

 魔力が100有るのだから、魔法が使えない筈がない。

 魔法が発動しない原因は? 顔から火が出る詠唱よりイメージだよな、薪の丸太が見えない、無くなった事をイメージし(隠蔽!)


 ふむ、俺って天才♪ 消えた丸太の輪切りがそこに在るのか確認に向かい、お約束通り躓いて転びそうになった。

 ちょっと問題だな、自分が隠した物に躓いたりぶち当たっていては、ただのギャグにしかならない。

 丸太が有ると思われる場所に向かって(解除!)のイメージを流すと、丸太が姿を現した。


 他人に見えなくても、俺に存在が判らなければ下手を打つ。

 俺には漫画の影の様に見える事をイメージして、丸太の輪切りに(隠蔽!)

 漫画の網トーンを被せた様な見え具合で、そこに丸太の輪切りが見えている。


 俺って、天才~♪

 どこかのCMの言葉が頭に浮かぶ。

 此れが、他人に見えているのかいないのか判らないが、取り敢えず自分にも(隠蔽!)と魔法を掛けてみる。

 裏通りに出てみるが人通りは無し、仕事をしてないところを親爺や兄貴達に見つかると殴られるので、自分の隠蔽を解除して薪割りを続ける。

 但し、屑冒険者が何時も現れる位置に、見えなくした丸太の輪切りを置いておく。


 薪を片付けている最中に〈おっ、とっとと〉と声が聞こえた。

 見れば、屑冒険者のガーラがまんまと丸太に躓き、片足立ちで水平に泳いでいる。

 今だ! 自分に(隠蔽!)と魔法を掛け、ガーラの方を伺う。

 何とか倒れるのを踏みとどまって振り向き、自分が何に躓いたのか首を捻りながら見ている。

 自分が歩いてきた場所に何も無いのを見て、舌打ちをして振り返る。


 俺は何もせずにじっと立ち、ガーラを観察する。

 俺の姿が見えないのだろう、視線が左右に流れ、居たはずの俺の姿を探している。

 やはり、俺の姿も奴には見えていないようだ。

 暫く俺が帰ってくるのを待っていたが、舌打ちをして引き返して行くが、人間何時も歩く場所を無意識に歩くもので、再び丸太に躓いて蹈鞴を踏んでいる。


 無防備の今なら楽に殴り倒せると思い、足下の薪を拾ってゆっくりとガーラに近づくと、ガーラが驚愕の表情で薪を見ている。

 不味った、自分には隠蔽魔法を掛けているが、薪には魔法が掛かっていない(隠蔽!)

 突然薪が見えなくなり、ガーラが薄気味悪そうにキョロキョロして、慌てて裏通りへと走って逃げて行く。

 案外気の小さい奴だ。


 隠蔽魔法が使えるのは判ったが、此の魔法が何時まで有効か不明なので、隠蔽魔法の掛かった薪を壁際に立てて置く。

 此の薪の影が消えるまでに何日掛かるのか観察すれば、隠蔽魔法の有効時間か期限が判るっだろう。


 屑冒険者ガーラを殴れなかったのは残念だが、結果に満足して日課の仕事に戻る。

 薪割りを終わらせると、乾燥した薪を厨房に運び込み少なくなった水を井戸か汲み上げて、木桶で何度も運んで水瓶に満たす。

 それが終わると食堂の閉店まで手持ち無沙汰になるので、厨房の隅に置かれた残飯の夕食を持って自室に戻る。


 朝起きて、厨房の掃除と薪の補充や井戸から木桶で水瓶に水を補充して昨日の残飯の朝食、泊まり客が出て行くと部屋の掃除とベッドを整えて食堂の開店準備。

 その後ホテルの周辺掃除に薪割りや水の補給と一日仕事はたっぷりと有る。

 エドガも似たようなものだったが、彼は食堂の配膳などの手伝いを許されたが、俺は表に出せない頭の可笑しな子なので、ひたすら裏方仕事で日々を過ごすだけだ。


 幼い頃に家の周辺で遊んだ以外、勉強の為に教会に通った場所だけが此の世界で俺の知る全てだ。

 此れで16才の成人を迎えたら、家を放り出されて冒険者になれってのは死ねと言っているのと同義語だ。

 冒険者ギルドの場所すら知らないし、食料品搬入業者や薪を卸しに来る業者の雑談からの知識で辛うじて見当がつく。


 屑冒険者ガーラの様な奴に食い物にされない為には、最低でも隠蔽魔法と結界に空間収納は完全に習得したい。

 残飯の夕食を済ませると食堂閉店後の後片付けと掃除までの時間、持ち込んだ薪を使って空間収納の確認だ。

 隠蔽魔法をイメージのみで習得したので自信は在る。

 イメージした袋の口を開き、(入れ!)と薪を袋の口に落とす。

 床に落ちるはずの薪は、イメージの口を通った瞬間見えなくなる。


 見えなくなった薪を袋の中で探すと、ぽつんと薪が一本浮かぶイメージが頭に浮かぶので、それを袋の口から取り出す事を想像して手をだす。

 掌に薪の手応えがあるので、それを掴み取ると手に薪の重みが伝わってくる。


 俺って、超天才~♪

 調子に乗り、エドガの使っていたベッドに手を掛け、(入れ!)と願うとあっさり消えた。

 アニメ最高♪ ラノベ最高♪♪♪


 (出ろ!)と念じて元の場所に戻す。

 (入れ!)(出ろ!)(入れ!)(出ろ!)繰り返しすも支障なし、自分のベッドも入れて見るが簡単に収まった。

 ベッド二つを空間収納に収めたのになんともないので、俺が生活に使う限り問題無さそうだ。

 これ以上空間収納の容量確認は不可能なので満足して魔力操作に戻る。


 身体全体に魔力を巡らせながら、魔力切れについて考える。

 ラノベに依れば、魔力を増やす為に魔力切れは外せない。

 深夜に仕事が終わり、早朝に仕事が始まる現在の生活で魔力切れで昏倒するのは論外だ。

 労働力の俺は、小突かれたり罵声を浴びせられたりするが、滅多に殴りつけられたりする事はない。

 俺が怪我をすれば、その仕事を身内の誰かがしなければならなくなるからだ。

 だからと言って、意識を失ってのうのうと寝ていれば叩き起こされるくらいでは済まない。


 隠蔽と空間収納を習得したので暫くは此れの錬成に励みながら、結界の習得方法を考える事にした。

 隠蔽や空間収納と違い、結界とか防御障壁と呼ばれるもののイメージが浮かばない。

 まさか亜空間フィールドを展開するのも躊躇われる、というか球体になれば転がってしまい目を回しそうだから。


 深夜、客のいなくなった食堂の掃除をしながら、床を隅々まで掃き水拭きをする。

 鉄貨銅貨を探しながらだ、拾った貨幣はカウンター横の壺に入れなければならないが、2~3枚の内1枚は俺のポケットから薪置き場の秘密の貯金箱にいれる。

 どうせ家を放り出される時には、碌に金も持たせてくれないのは判っている。

 隠蔽魔法が使えるようになったので、家を出る前後に親兄弟に一泡吹かせてやる。

 と言っても大した事は出来ないだろう、事が大きくなれば俺が疑われて犯罪者にされかねないので。

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