第3話 再

 ふれあいカフェ『HYPER・MOHUMOHU・KINGDOM』の夜は遅い。今日も愛想よく振る舞ったウサギたちをお利口さんと撫でまわして休養室に送った深風璃々香みかぜりりかは、夜祭祈子よまつりいのりこと共に、カウンターでコーヒーを飲んでいた。

「深風さん、今日もがっぽり稼ぎましたね」

「嫌な言い方を覚えるなよ祈子、もふもふに戻ってほしくなる」

「もふもふですよ、耳とか」

「それはそうだけどさぁ」

 垂れ下がったうさ耳を触りながら、話を続ける。カフェで働き始めて三年になる。もう少しで璃々香は三十路だ。アルネブドロップたち、太陽系外の子たちを送り返す算段はまだない。時間ばかり過ぎるのに、途上のことが多すぎる。ただ、その過ぎる時間は、彼女たちにとっては一秒さえ譲れないほどかけがえのないものだった。笑顔も涙も、指では数えきれない。専業になって、二人は合計五○を超えるルナドロップを月に戻してきた。

「あんた、絶対元の星に戻してあげるからぁ、メニール」

「何回聞けばいいんですかそれ、気長に待ってますよ」

 アルネブでの本当の名前は伝えてある。ひとのいないときにだけ呼んでいい約束だ。酔いが回りまくった璃々香は、いつもどおり祈子メニールに抱き着いて振り解かれる。バランスを崩した彼女たちは年季の入った木張りの床に転がったあと、二人して大きく伸びをする。すると、トントンと、響く音が聞こえる。小さな獣の足音だ。ウサギだちは休養室でみんな丸くなって寝ているから、ネズミでも入ったのだろうか。より酔っぱらっている方の女性は、首をグイッと向けて、闖入者を確認する。そして、その茶色の毛の小動物を視界に収めると、はっとした表情で手を伸ばした。


「……ねこじゃん」

 にゃん



・・・・・・









「ここは?」

「あなたの種族の底の星だよ。わたしはメニール、きみは?」

「わた、わたしは、りりか」

「りり、うん、りりぴょんでいこう! まだ小っちゃくてこわいだろうけど、ひとは祭で戻れるからすぐだよ! わたしも祈っててあげる」

「うん、ありがとう。とっても、とってもうれしい……」

「わわ、なかないで、わたしのみみでふかないで!」







 底の星から――了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

底の星から Aiinegruth @Aiinegruth

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ