事情聴取記録

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（以下、事情聴取の内容）

―今回の動機は。

目的意識はあまりありませんでした。強いて言うならそうしたかったからです。ただ、自分如きの気まぐれのために見ず知らずの人を巻き込むのは可哀想だったので、人生の中でもちょっと気に食わなかった奴に照準を定めました。

―罪の意識は。

それも目的と一緒でほとんどありませんね。別に自分が一度「気に食わないなあ」と明確に感じた相手なので、自分の中で負の感情は特に。関係者の方々と面会もできてないので、その人たちの顔とか言葉を受けたらまた変わるかなあ。でも彼をよしとしてきた面々なので、むしろ余計に腹が立つかもしれませんね。「あなた方が彼を育てたせいで私がコトを起こしちゃったじゃないですか！」みたいに。別にこの事件、彼である必要性も私である必要性もないですから。

―「必要性がない」とは。

お金ってなんであんな紙切れなのに1万円の価値になるか知ってます？あれって「みんなが信じてるから」なんですよ。お札の紙自体じゃなく、それが持ってる信用の大きさがすなわち価値なんですって。あ、すみません。ちゃんと関係あるんで。あるとき私気付いたんですよ。「自分の価値って0だな」って。周囲の人間がどう扱ってくれても、あるいは自分の仕事や為したことに数字で価値を付けてくれても、結局自分の中での自分の信用が0なんです。これって誰しもがそのうち気付くことで、気付いてない人はおめでたいなあなんて思ってたんですけど、どうやら違うみたいでした。世の中の結構な割合の人が「じぶん銀行」に信用を置いてるんですよね。不思議じゃないですか？普通一番信用ならないのなんて自分でしょ。自分の立てた目標なんて一つもうまくいかないし、周りと比べて何も成果を上げられないし、できることと言ったらそれこそ信用や期待を裏切ることくらいしかない。だから自分の信用は0。信用は積み上げるものなんでマイナスにはならなくて、0が最低だと思ってます。理屈としては通ってますよね。

―誰かに被害を与えていい理由にはならないのでは。

あ、待ってください。まだ途中なんで。話長くてごめんなさいね。銀行の信用がなくなると通貨の価値がなくなって経済全体のお金が減るらしいんですよ。学校の先生に教わった覚えがあります。で、今私は「じぶん銀行」の信用がなくなったんですよね。すると「何やって生きててもどうでもいいな」って、この先の人生全部の底が見えた気がしちゃって。ただ不思議なことに、社会経済と違って、そこで腐って人生立ち行かなくなるんじゃなくってちゃんとまともな人として生きてたんですよ。国だったら崩壊してくれて楽だったのに、人間って生きようとしちゃうんですよね。生きてる意味もないのに。そうなると今度は、「人間ってみんな無価値だな」って考えだしたんですよ。じゃあ別に何してもいいか……と思って。そこからはまあ流れ作業と言うか、今までの人生と同じでよく考えないで動いてましたね。本当長くてすみません、こんな感じでいいですか？

―あなたの言葉を借りて言うなら、彼には彼自身や周りの人がその価値を認めていた筈。何にしても、他者を傷つけていい理由はどこにもない。

いやあ……最後のそれ言われると困るんですよね。文字通り返す言葉がないというか、多分分かってもらえてないし、お互い分かり合えないんだろうとも思うし。少なくとも私にとって彼は私と同じくらい無価値だし、もっと視点を広げれば価値とか意味なんてそもそも万物にも存在してないでしょ。「そこにある」ことの意味を見出して勝手に喜んでるの人間だけですよ。私宗教や宗教的なモノは好きでも嫌いでもないけど、これってカルトみたいで寒気がします。教祖の陰毛にお祈りさせてるのと本質何が違うんですか？存在も現象も価値が無いと思ってるし、ここでどう裁かれようとそれ自体にも価値無いんですよ。一番の対象である私に価値が無いんだから。「傷つけていい理由」はどこにもないかもしれないけど、それと同じくらい「傷つけてはいけない理由」がどこにもないじゃないですか。少なくとも私は見つけられませんでした。著名な哲学者とか心理学者の方なら説明してくれるんですかね。それがあるならもう少し事情聴取も本腰入れて出来るんですけど。

―被害者や遺族への謝罪の言葉や、周りの人への申し開きは。

心配とか怒ったりしてくれてる人には申し訳ないんですが、さっきも言った通り私は無価値なので、早く自分の人生に戻った方がいいですよとしか。私と違って自分に価値を見いだせてる人たちならなおのこと。謝罪はしてもいいですけど、こんな人間に形だけの謝罪をされても、それこそ意味がないですよね。彼には自分と同じくらい価値が無いと判断して相手にしたので……。まあ、嫌われるようなことしない方がよかったね、とかですかね。

―自分がどのような処分をされるか理解しているか。

まあ、多分死刑とか。彼以外の件も表に出てきてるので極刑だとは思います。ずっと話してる通り、それに喜びも悲しみもないです。一時期「死刑になりたい」で事件が多発してましたが、別にそういうのも無いし、「こういう真面目な場でふざけてる自分気持ち悪くて最高！」みたいな不謹慎な興奮もないです。自分でも社会に適合してないと思うので、早く死んだ方がいいと思います。

―他に思うことなどは。

特にありません。これ以上喋っても同じようなことばっかりになりそうですしね。ありがとうございました。

（事情聴取記録　ここまで）

追記

検察官は起訴前本鑑定の必要性を訴えており、医師側からの所見が待たれる。