沈まない夏

成瀬

プロローグ

富永 春樹 教室



「ブスッ...」

そんな音だっただろうか。いや、もっと...


あの感覚なんだ。

あの、何もかも全てが無くなったようなあの感じ。


そして、殺したやつはいつも嘆く。


「ハル...もう、こんなことやめてよ...許して」


許して、許してって。


殺したやつはいつも最後に必ずそういう。


そして、俺はいつも心の中でこういうんだ。


【素直に俺の言うことを聞かないから悪い】と。



はぁ...こんな時に何を思い出すのだろう。


今日は記念すべき日。僕が最後の1人。ゴミを殺す日だ。

俺はゴミを殺すために、この世に生まれてきたようなもの。ゴミはいつも、することは一緒、ご飯は作らない、毎日違う男を家に連れ込んで俺を家から追い出す、そして男に捨てられ、俺に暴力を振るう。


教師に相談しても、児童相談所に相談しても何も取り扱ってはくれない。


子供の言うことなんぞ誰も信じやしないんだ。


そして今日に至る。


人を殺すのは他の奴らで練習した通りにナイフをふりおろせばいいだけ。簡単な事だ。


ゴミが起きた瞬間に俺は飛びつく。


「なによ。汚いわねぇ。私の上に乗らないでくれる?」


そんなゴミの言葉には耳を傾けず、俺はいつも通りナイフを振り下ろそうとする。


「ちょ、まって!ハル!?正気??やめて。今までのこと本当に謝るから、本当にいつも酷くしてごめんね。」


ゴミはやはり、ゴミだった。


死ぬ間際にようやく謝罪をする。はっ、無様なヤツめ。


「黙れ、ゴミが。薄汚い声で喚くな。」


「い、いやだ。母親を殺すの??助けて...助けてえええ」


ゴミは騒ぐ。


そして、俺が快楽を味わい、気づいた時には、もうゴミの息の根は止まっていた。


部屋全体に汚いゴミの血がとんでいる。


ゴミの叫び声で何かあったのかと思った隣人は家のドアを叩いて叫ぶ。


「どうした??何があったんだ??今すぐ開けなさい。」とーーー


 



 


「これで完結ってすげぇ話だよな」


「ハルかっこいいよなぁ。」


この本は俺が大好きな本で、この本を友達もいない俺は1人で教室で読んでいると、「俺も【沈みゆく結末】好きなんだ。」と話しかけられた。


【沈みゆく結末】とは、この本の名前だ。作者の名前とこの本の主人公の名前はハル。俺は自分の名前が春樹だから、親近感が湧き、中学三年生の頃に少し遅れて読み出し、まんまとハマってしまったのだ。


そして、「良かったら一緒に読ませてくれない?」と俺はそいつに聞かれたので今【沈みゆく結末】のクライマックスを2人で読んでいのだ。


「え!なんで...?」


ああ、ハルがかっこいいって思っているのはどうしてってことか?


「自分に真っ直ぐで、どんなときも冷静で嘘をつかないところとかかな。」


「え?君...」


あーまたキモがられるパターンね。

もう慣れたよ。


俺がいつもこういう本を読むときは犯罪者目線で読んでるとか。

ただ本が好きで、この本を毎日読んでいる!と言うやつに言うのは早かったのかもしれない。

俺高校生でも、いや、、一生友達できなさそう...


「かっけーじゃん。」


「え?」


「見た目によらず、かっけーよ君!そんな堂々と言えるの!てか、同士だったんだな!」


予想外の返答だった。


見た目によらずとは地味な見た目なのにということだろう。

逆にこいつは俺とは真面目そうなやつだなぁ。


そして、同士と言うのは、こいつも俺と同じように、自分が犯罪者目線で読んでいるってことだ。


それから俺たちはたくさん話をした。


聞くところによると、こいつも俺と同じように犯罪者目線で見ていると友達に言ったところキモがられて、それ以来、本当のことを隠していたらしい。本が好きということも自信を持って言えないから俺が読んでいるところを見た時は話しかけるか迷い、迷った末、話しかけようと思ったらしい。


俺もこいつも初めてだったと思う。こんなにも幸せな気分だったのは。


「君、名前は?」


「富永 春樹。お前は?」


「葛谷 慎太郎。長いからシンでいいよ。」


「わかった。俺もハルか、春樹でいい。」


そう、これが俺とシンの出会いだ。

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沈まない夏 成瀬 @Naruse_066

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