Chapter 8-5

 ブラストの怒号と共に、京太きょうたのそばから一陣の風が吹いた。

 激突。

 瞬間、吹き荒れる風の中、ぶつかり合ったのは黄泉よみ双刃そうはだった。


「へぇ、この太刀筋、あんたもしかして……」

「お前が殺した兄貴だ……!! ちゃんと憶えててくれて嬉しいよ!!」


 手にしたナイフで斬り合いを始める二人を前に、京太は紗悠里さゆりたちへ呼びかける。


「紗悠里、そらの身体、絶対傷付けさせんな! なつめは紗悠里の援護だ! 草薙のおっさんは……」

「俺は好きにやらせてもらう。なに、邪魔はせんさ」


 頷き合い、京太たちは駆け出す。


「勝手に盛り上がんじゃねぇっつってんだろうが!!」


 双刃と黄泉の間に先に割り込んだのは、ブラストだった。斬り合う二人のナイフにも臆さず、飛びかかって蹴りを叩き込む。

 これを双刃と黄泉は互いに後ろに飛び退いて回避。ブラストの足は空を切る。


「邪魔をするな!」

「てめぇは俺の獲物だ! 朝の借りを返すまでは逃がさねぇよ!!」

「チッ……! 俺の動きにも付いてこれないヤツが、粋がるなよ……!!」

「言ってくれんじゃねぇか!!」


 ブラストの拳が黄泉の脇をかすめる。

 ブラストの攻撃は大振りだったが、意外に隙がなく黄泉は防戦に徹する。隙を見せれば逆にやられるのはこちらの方だと理解しているのだ。


 一方、駆ける京太は双刃の元へと詰め寄る。対して双刃もそれに気付いたようで、標的を京太に変えて襲い来る。


「ようやくこの日が来たな、扇空寺の! 待ってたぜぇ!」

「てめぇの目的はなんだ? てめぇはなんで『黒翼機関』に付いてやがる!」

「そりゃあ金払いがいいからさ! 喰える魂も増えるし、手応えのあるヤツともれる。あんたみたいなさぁ!」


 双刃の動きは変幻自在だ。先程までの黄泉の動きも相当だったが、空の身体だからかその精度は落ちているはずだ。今は明らかに双刃の方が速かった。


「そういやあんときのこと謝ったっけ?」

「何の話だ!」

「鷲澤のじいさんと戦ってたとき、お前を刺したのは俺だよ! 悪いな、あれが仕事だったんで!」

「てめぇ……!!」


 確かにあのとき、登校中に京太は胸部を刺された。あれはこいつがやったことだったのか。


「はっ、そいつは結構……!! 恐ろしい手際だったからな、褒めてやるぜ!」

「ありがとよっ!」


 ならなおさら、こいつは斬らなければなるまい。京太は一度飛び退くと、腰を落として構え直す。

 双刃の動きに付いて行くのは、京太ですら難しい。ならばここは待って後の先を取る。ヤツの攻撃してきた瞬間の隙を狙うのだ。


 居合の構えを取る京太に対し、双刃はにやりとほくそ笑んだ。なんだ、と京太が訝しんだ瞬間、ふわりと京太の身体が浮き上がる感覚があった。


「なっ……!!」

「隙あり、ってな!」


 思わず無防備になった瞬間、そこへ飛び込んでくる双刃のナイフが、あのとき京太を刺した場所を寸分違わずに狙ってくる。

 何が起きたのかわからないまま、やられる。そう思った瞬間だった。


 電撃の矢が、京太と双刃の間を通り抜けていった。


「大人しくしてもらおうか」


 入口の方から、低くうなるような声が響く。そちらを見やると、そこには不動ふどう轟棋ごうき健司けんじ。それになぎさと朔羅さくら、アリスの姿があった。


 全員の動きが止まる。ブラストたちからすれば数が多すぎる。彼がチッと舌打ちしたあと、廃工場内に暴風が吹き荒れる。


「んじゃ、今日はここまでだな。また遊ぼうぜ、扇空寺の!」


 双刃の姿が闇に溶けるようにして消える。風が止んだとき、そこにはブラストとブリーズの姿も消えてなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【長編】魔法使いの孫と終焉戦争-ラグナロク-【連載中】 椰子カナタ @mahonotamago

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ