Chapter 8-4

「やあ、京太きょうた。遅かったじゃないか」

「てめえに気安く呼ばれる覚えはねぇ」

「わかったよ。そう恐い顔をするな、扇空寺せんくうじの」


 廃工場のドアの向こうには、こちらに目を向けるそら――黄泉よみの姿があった。

 ナイフを構える彼の更に向こうには、朝の男――ブラストとゴスロリドレスの少女が見える。あの少女が、草薙くさなぎの言うエキスパート、ブリーズなのか。


「よぉし! ようやく役者が揃ったな!! おっぱじめるとしようぜ!!」


 両の拳を突き合わせながら、ブラストが威勢のいい声をあげる。

 彼奴の後ろには、気を失って倒れている男子生徒の姿がある。人質のつもりはなさそうだが、彼も救い出さねば。


「楽しそうじゃねえの、ブラストさんよぉ。俺も混ぜてくれよ」


 と、その声は上の方から聞こえてきた。こちらへ歩み寄ろうとしていたブラストが足を止める。京太たちは声の主を探して天井を見上げる。

 すると暗がりの中から、何者かが床の上に降り立った。顔を上げるその少年には見覚えがあった。


「てめぇ……!!」

天苗あまなえ――」


 京太たちが彼の姿に驚愕する中、怒りの咆哮を上げる人物がいた。


「――双刃そうはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 次の瞬間には、鋭い金属音が交錯していた。黄泉のナイフに対し、双刃もナイフを手にして鍔迫り合う。


「おいおい、そんなかわいい顔で興奮されたら、こっちも滾っちまうぜぇっ!!」


 双刃はナイフを振り抜く。力任せに弾かれ、黄泉は床を滑って後退を余儀なくされる。


紗悠里さゆり!!」


 京太の声に、脇に控える少女――紗悠里が動いた。

 黄泉へ追い縋ろうとする双刃の前にたちふさがり、その凶刃を手にした刀で受け止める。

 これには力ずくでは難しいとみたか、双刃は刃を退いて飛び退さる。


「待ちな」


 そして京太は、再び動き出そうとした黄泉の肩を掴んで止めた。


「離せ!!」

「そうはいくかよ。てめぇ、その身体誰のもんなのかわかってんのか」

「関係あるか!! あいつは、俺の仇なんだよ!!」

「何っ……!?」

「おいおいテメェら!! こっち差し置いて盛り上がってんじゃねぇぞ!!」


 声を上げたブラストに、全員がそちらを見やる。


「ブラストさんよぉ、あんたに興奮されても盛り上がんねぇんだよなぁ」

「うるせえぞ天苗弟! だいたいテメェ、あのクソガキは俺の獲物だ!! 横取りしてんじゃねぇよ! テメェから潰すぞ!!」

「あー、はいはい。俺が用事があんのは扇空寺の方っすよ。女子の方は好きにしな」

「言われるまでもねぇ!! さぁ、横槍もあったがよ、おっ始めようぜ!!」

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