「彼」の行方が知りたいです。
日出詩歌
「彼」の行方が知りたいです。
けたたましく手元のブザーが鳴る。はやる気持ちを抑え、そろりそろりと自分の席に食事を運ぶ。ようやっと口に含んだうどんは、温泉で火照った私の身体を十二分に冷やしてくれた。
甘辛く煮た牛肉は大きめにカット、歯応えのあるうどんは私好みの固さで、とろろは麺をするりと喉に通す。
しかしだ。私は箸を付けた器をもう一度見回す。
やはり、「彼」が居ない。
メニューには『牛肉と揚げごぼうの山かけうどん』。伝票には『牛肉と牛蒡のうどん』。
そして目の前に置かれた器の端に並べられているのは、誰であろうみょうがである。
つゆの底に沈んでいるのだろうか?箸で引っ掻き回しても出てくるのはみょうがばかり。
ならば牛肉と絡めてあるのだろうか?だが幾ら牛肉を噛みしめようとも、あの繊維質の歯応えを一向に噛み当てる様子は無い。
現物は明らかに『牛肉とみょうがの山かけうどん』であった。
別にみょうがだって嫌いじゃない。牛蒡がみょうがに変わったって美味しい事実に変わりはしない。
ただ、うどんを啜っている間も私の心はある1つの思いにどうしようも無く駆られていた。
「彼」の行方が知りたい。
牛蒡は、牛蒡はいずこ。
器を空にした私は箸を置き、ふと思い立つ。そろそろここらで締めにしたい。私は席を立ったその足で、私を呼ぶクリームあんみつを迎えに行った。
「彼」の行方が知りたいです。 日出詩歌 @Seekahide
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