第17話 行く末……。


 天上では、神官が下界のサチコの様子の一部始終を見ていた。サチコの体が動かなくなるとサチコに向かって話し出した。


『ごくろうさまでした、サチコ。アナタの働き、とくと拝見させてもらいました。

 さあ、今一度、此処に戻って来るのです。天使達もごくろうさまでした。サチコと一緒に戻って来なさい』


 神官がそう言うと、ミツバチとなったサチコの体が青白く光り、青白い小さな光が天上へと昇っていった。それを追いかけるかの様に、三つの光も天上へと昇っていった。


 その光は神官の元へ来ると、おのおのが本来の姿へと戻った。しかし、最初の光サチコの魂は依然として光の玉のままでいる。本来の姿に戻っていない。


『皆さん、ご苦労様でした。特に、エリーの体に宿ったのは誰ですか?』

「私でございます——」


 あの新米のデス・エンジェルが静かに答えた。

 何か、おとがめでもあるのだろうか? という様な感じで少し体が震えている。


『そうでしたか? アナタでしたか? 何もアナタの心配する様な事は有りませんよ』


 神官はデス・エンジェルの心を見透かしている様だ。さらに、言葉を続ける。


『アナタの今回の働きは、目を見張る物が有りました。よくぞここまで、という働きでしたよ。本当にサチコの心を開き、あそこまで導いてくれました——。


 本来ならサチコに課した試練は、圧倒的にサチコには不利な条件でした。ミツバチ一匹の一日の採取量は0.5㎖。ミツバチ本来の寿命40日を特別に60日にしてはみたものの、不可能な条件でした。ミツバチという組織社会の中で、如何に仲間から信頼を得るか、というのが、今回のキーになっていました。

 よくぞ、サチコ自身のリーダーシップの資質を高めてくれましたね。多くの仲間達の信頼を得る事によって今回の試練をクリアする事が出来たのです。


 今回の試練によって他の者を慈しみ、思いやる気持ちが育まれました。又、その事によって生きるということを身をもって知り、命についての重み、尊厳さを深く心に刻んだことでしょう。命の炎も強く太い物になりました。なかなか人間界では経験出来るような事ではありませんから……。

 神様に替わりお礼を述べたい所です。本当に、ご苦労様でした』

「いえ、めっそうも有りません」

『よって、アナタの罪は消えるでしょう。さらに死神の任を解いてあげましょう』


 神官はそう言うと、デス・エンジェルの翼を撫でた。すると、銀色だったデス・エンジェルの翼は、真っ白な翼へと変わった。


「ありがとうございます——」


 デス・エンジェルは天使へと生まれ変わった。デス・エンジェルは歓喜して喜んだ。


『他の者もご苦労さまでした。存分に休むがよろしい。

 さてサチコよ、今一度こちらへ来なさい。あなたの転生の時が来るまで、今一度目を閉じて休みなさい。

 そして再び目覚める時、貴方の輪廻の道が開かれるでしょう——』


 神官がそう言うと、サチコの魂は光の玉のまま再び霧となって消えてしまった。


 一方、下界のサチコの実家の台所には、蜜で満たされたコップが残されていた。その横で動かなくなったミツバチがいる。



 月の光が、そのミツバチとコップを優しく照らしていた——。









 異世界(昆虫界)の章

          了


 次話から現世へ再転生の章へ突入。

——————————————————————————————————————


※ここまでお読み下さり、誠にありがとうございます。<(_ _)>


・昆虫世界において、サチコは多くの試練に打ち勝ち、又多くの仲間達の協力を得る事によって、神官との約束であった『生前遊んでいた、おままごとの人形のコップに蜂蜜を溜める』という難題をクリアする事が出来ました。


・さて、今後母親の居る世界軸に送られていくサチコではありますが、無事に母親である裕子と対面する事ができるでしょうか? 一度ズレてしまった歯車は、元の鞘に収まる事ができるのでしょうか?


・どうやら、現実人間界はそう甘くはないみたいですが……。




 ◇ ◆ ◇ ◆



※次話予告 現世へ再転生の章 第一話『停滞』


・サチコを失った喪失感漂う中、将太と裕子の夫婦は悲しみを紛らわそうと懸命に生きようとするが、裕子の心が立ち直れないでいた。やがて裕子は……。


「裕子——。大丈夫か————?」   翔太の声が部屋に響いた……。


 残り10話で完結となっております。どうぞ、お楽しみ下さい。<(_ _)>



 

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