あたしらハゲ同盟。

@susumenosu3515

プロローグ

始まりは、私が高校三年生になって教室の空気が少しずつ就職だ受験だとピリつきだした春のことだった。父が死んだ。白血病だった。しばらく人間ドックを仕事や家族を優先しサボっていた父は、三年ぶりに受けた検査で見事に引っ掛かった。初めは家族にそのことを隠していた。普段から職場で嫌なことがあっても問い詰めないかぎりそのことに関しては黙るような人だったし、私が大学の受験期間もあって当時の父は黙っていたのかもしれない。だから突然軽くその辺の荷物をまとめだして「パパ、今日の午後から入院することになっちゃった、ごめんね。」と言われた時は流石に驚いた。

突然のことで声が出ないまま、止める暇もないまま父は家を出て行った。

それから一年後、あっけなく死んだ父の顔を棺桶越しに見ようとしたら視界がやけにくすんではっきり見えなかったのを覚えている。

 それからだった。母は会社を、外の世界に足を踏み入れることを拒んだ。まるでよくテレビとかで見かける引きこもりのようで、トイレ、お風呂以外は自室の部屋さえもあけなかった。私は大学二年生になった。母は二年たった今でも外の世界に足を踏み入れようとしない。たまに自室から出てきたと思ったら、「ごめんね、ダメなママでごめんね。頑張るから、頑張るから。」と手を強く握って謝罪をする。許してと泣きながら言う母に毎回「大丈夫だよ」としか言えない自分に少し苛立ちを覚える。料理、洗濯、掃除、買い物、大学、母の世話。めんどくさいけど、逃げ出したいけど、母のこれからを考えたら、帰る足はどうしてもお腹の空かせる母の待つ家に向いてしまった。大学の友達の莉緒に話すと、「一回大学休んでパーッと好きな事しよ!」とアドバイスを貰った。莉緒も一緒に休んで遊ぶと言ったけど、さすがにそこまでされると悪いので気持ちだけ受け取ると伝えたらでもたまには様子も見に行くと言った。

どうしても聞かないものだからたまにならとOKしてしまった。その会話を最後に私は五日間大学を休むことにした。でも、私は結局最後まで買い物に行く以外には基本あまり外に出なかった。それどころか、大学の休み期間を予定より一日、二日と伸ばしてしまった。理由はと言えば、簡単に言えば私はハゲた。病院に行ったら、円形脱毛症の全頭形だと診断された。三か月前からなんとなく違和感はあったがあまり目立たなかったためほったらかしてたらこの休みで取り返しのつかないほどに髪の毛が薄くなっていた。莉緒は忙しいのか休みの期間が九日目になっても一度も来ていない。十日を過ぎようとしたとき、彼女は来た。

 インターホンがなってから、私はパーカーのフードを被って急いで出た。莉緒は急にバイトのシフトが入って行けなかったと謝罪して二つプリンの入ったコンビニの袋を渡してきた。そして視点を私に移して不思議そうな顔をした。

「胡桃、なんでフード被ってんの?」

フードを触れようとする彼女の手を思わず払う。でも強く払った衝動で後ろに少しよろけてフードが外れた。莉緒の視点が頭にいってしまったのを見て急いでフードをまた被る。

「こんな姿、笑えないよね?」

莉緒はしばらくじっとこちらを見ていたが、少ししてまた口を開いた。

「胡桃ん家ってバリカンあったよね?」

予想外の回答に驚きながらも答える。

「あるよ。お父さんが使ってたから。多分洗面所かどこかに・・。」

じゃあちょっと借りるねと莉緒はそれがどうしたのか聞く暇もないまま洗面所にズカズカと入っていった。ピーとやかんのお湯が沸騰する音がして台所へ行った。遠くからブーンとドリルで穴をあけるような音がして、嫌な予感がした。洗面所は鍵が閉まっていて、開けられない。「開けて」と扉を叩いても一向に扉は開こうとしない。それから十分程して、扉が開いたときはもう遅かった。莉緒の頭にはさっきまであった綺麗なロングの茶髪がない。それでも彼女は笑顔だった。そして言った。


「あたしらハゲ同盟だ。」

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