【コラボ】『ようこそ、夢のふくろうカフェへ!』×『鋼鉄の片翼』前編

※このエピソードは、『鋼鉄の片翼』(https://kakuyomu.jp/works/16817139555197902168)とのコラボ話です。ネタバレを含みますので、ご留意ください。



   *   *   *



「いやぁぁぁああああああああーーーーっ!!」


 木々の茂る森の中に、甲高い叫び声が響いた。

 背中から鳥に似た鋼鉄の翼を生やした鳥機人ちょうきじんトビが、地面スレスレを低空飛行で飛んでいく。涙は出ないが涙目になりながら振り返ると、下草をまき散らしながら追いかけてくる人の倍ほどはある大きな黒い鼠が見えた。


「もうっ、なんなのよ、こいつ!? アビス帝国の新しい兵器? 古代に絶滅したっていう魔獣? なんでもいいけど、追いかけてこないでーっ!?」


 悲鳴のような声をあげつつ、トビは身体を鼠に向けた。翼に埋め込まれた推進器スラスターの向きを調整して後ろ向きに飛びながら、右腕を鼠に向ける。


「こうなったら……、当たれぇっ!」


 右手と肘の間に装着されたビーム砲から光弾が発射される。

 しかし、鼠は首を振って、光弾を黒い前歯で弾き飛ばした。


「うそっ!?」


 直後、「ガンッ!」という衝撃とともに、トビの背中に痛みが走る。顔をしかめながら後ろを見ると、背後に木の幹があった。どうやらぶつかったらしい。

 止まったトビに狙いを定め、黒い鼠は、そのまま突っ込んでくる。


「だれか! だれか助けてぇぇぇええええええーーーっ!?」

 

 両手を顔の前で交差させて、トビは悲鳴を上げる。

 鼠の口が大きく開かれ、前歯がトビの顔に迫ったその時。

 頭上の木の葉が揺れ、月光が照らす夜空を背に、だれかが宙を跳んだ。両手から鋭利な鉤爪を突出させ、落下の勢いのまま、鼠の背中を片手の鉤爪で突き刺す。突き刺された背中から光の粒子が漏れ出し、鼠はそのまま光の粒となって弾けて消えた。

 地面に片膝をついて着地した人物は立ち上がり、さきほど鼠を突き刺した自身の手を見る。


「手応えがない」

「オオタカーっ!」


 木のそばで縮こまっていたトビは、見知った相手に安堵の声をあげた。

 トビと同じ、背中から鋼鉄の翼を生やした鳥機人オオタカ。しかし、彼の左翼は付け根から失われており、片翼しかない。


「オオタカ、ここってどこ? あの鼠ってなに? アタシたちなんでこうなってるの!?」

「おれに聞くな」


 トビがオオタカの背中に回り込み、半ばパニックになりながら質問を浴びせる。

 オオタカは素っ気ない返事をするだけで、辺りを警戒していた。

 周囲の草むらが揺れている。オオタカたちの周りに、まだ鼠が潜んでいる。


「来るぞ」

「来るって言ったって!? いやぁぁぁぁあああああーーーっ!?」


 四方から四匹の鼠が跳躍し、オオタカたちに向かって迫る。トビが頭に手を置いてその場で縮こまる。オオタカは迎え撃つために、身を屈めて鉤爪を構えた。

 しかし次の瞬間、四匹の鼠はオオタカたちの手前で落下し、光の粒子を散らしながら消える。


「……あら?」


 トビが頭から手を離し、首を傾げた。

 オオタカたちの目の前に音もなく降り立ったのは、一人の青年。


「大丈夫?」


 白髪に、赤い目をした青年が、微笑みを浮かべながらオオタカたちに向かって首を傾げる。まるで御伽話から出てきた王子様のような純白の衣装を身にまとい、左手には大太刀を持っている。そして背中からは、鳥と同じ柔らかな羽を持つ、真っ白な翼が生えていた。


「だ、だれ……? めっちゃキラキラしてるんですけど」


 トビはオオタカの背に隠れながら顔だけ出して、変にうわずった声をあげた。

 オオタカはなにも言わずに、相手を見定めるように目をすがめる。


「安心して。僕たちはあなたたちの敵じゃないから。ただ、あいつらは敵だけどね」


 オオタカの心情を察するように、純白の青年は笑みを浮かべたまま話す。その背後からまた一匹の黒い鼠が現れ、青年に向かって突進してくる。

 前歯が迫る直前、鼠の体に鎖が巻き付いて、動きを止めた。すかさず青年が後ろへ振り返り、刀を払って鼠を斬り裂いた。


「れもん、速いよ~。大丈夫だった~?」

「うん。ありがとう、すだち」


 遅れてやってきた少年に、れもんと呼ばれた青年はお礼を言う。

 すだちと呼ばれた少年は、藍色の髪を側頭部でツインテールにして結んでいた。手には鎖鎌を持ち、濃い青色の服にエプロンドレスを身につけたメイドのような衣装を身にまとっている。彼の背からも、鳥と同じような藍色の翼が生えていた。


「ねぇ、今回の夢鼠、多くない~?」

「うん。一匹の強さはたいしたことないけど、数が多いね。しかも森だから、どこに潜んでいるかわからない。やっぱり、みんなも連れてくれば良かったかな」


 二人は辺りを警戒しながら話をする。

 一方、オオタカの背後にいたトビはわなわなと体を震わせていた。

 すだちがオオタカの存在に気がついた時には、トビはすでに彼の背後に回り込み、柔らかな翼を抱き締めていた。


「なにこの子! めっちゃ可愛いんですけど! フリフリフワフワモフモフ~!」

「わぁ~!? お姉さん、くすぐったいよ~!」


 トビはすだちの翼を抱きながら、頬をスリスリ。すだちはびっくりしたように声をあげるが、照れくさそうに顔を赤らめながらツインテールを揺らした。

 熱烈なスキンシップを取るトビを、オオタカが半目になって冷ややかに見つめる。

 れもんは騒ぐ二人を笑顔で見つめていたが、周囲の気配に気づいて、再び刀を構えた。


「はしゃぐのは後にしよう。今は夢鼠を片付けるのが先だよ」

「は~い。お姉さんたちは、しばらく隠れててね~」


 すだちもトビから離れ、鎖鎌を回しながら身構える。

 木々の間からまた夢鼠の群れがやってきていた。襲いかかってくる夢鼠たちを、れもんとすだちは翼を羽ばたかせて飛び立ち、迎え撃つ。


「あんな可愛い子とキラキライケメンだけに戦わせるわけにはいかないわ! アタシたちも行くわよ、オオタカ!」


 さきほどまで怯えていた顔はどこへやら。トビはオオタカの前に立って両手を握り、意気揚々と叫ぶ。

 オオタカは数秒トビを半目で見つめていたが、ため息を吐くように小さく肩を下げた。


「しかたないな」


 呟き、自身の胸に手を当てる。


制限リミット解放オーバー!」


 その言葉を紡いだ瞬間、服に隠れて見えないが、オオタカの首もとに埋め込まれたオーパーツがまばゆい光を放つ。光はオオタカとトビの体を包み込んでいく。


「いくわよ、合体!」


 トビが叫ぶと同時に、体が光に溢れ、弾ける。バラバラになったパーツが緋色に染まり、オオタカの足に、腕に、胸に装着される。頭には翼を模した突起のついたメットを被る。片翼だった背中は、左側に緋色の翼が接続され、さらに付け根には細長い筒状の加速器ブースターが取り付けられる。余ったもう片方の翼はいったんバラバラに分かれ、それらが重なり合い、一本の剣となる。

 緋色の剣を右手に取り、オオタカはそれを大きく振り払う。


「オオタカ×トビ 緋炎剣翼フレイムウィングモード」


 光が収まると同時に、緋色の装甲アーマーを身にまとったオオタカは、両翼の推進器スラスターを吹かせて地を蹴った。

 れもんたちのそばまで行き、木の上から跳んで襲いかかってくる夢鼠を、剣で叩き斬る。


「す、すご~い! お兄さん、カッコいい~!」


 すだちが目を輝かせながら、オオタカの姿をつま先から頭まで見つめる。

 れもんも迫ってくる夢鼠を倒しながら、軽く口笛を吹いてみせた。


 ドン、ドン、ドンッ!


 その時、地響きと木々の倒れる音が周囲に響きだした。皆がそちらへ目を向ける。

 そこにいたのは、十メートルは超えるであろう、巨大な夢鼠だった。





   〈続く!(続いちゃった!?)〉

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