4-5.1

 トイレで目を覚まして皆と合流して自己紹介を交わした後、職員室へ行くのを止めて、他の教室の上の窓から入るのも止めて、廊下の窓ガラスを割るのも、私は必死に止める。


 けれど、入れない教室の鍵をバットで壊すという黄太くんの提案に、私は反対しなかった。


「うわぁ……これ、学校出られても、絶対怒られるでしょ……」

「生徒を閉じ込める方が悪いって!」

「怒られても、全部バカ黄太のせいだから、俺等は関係無い」

「おい! テメッ、蒼!」

 少しだけ和んだ空気に、黒田先輩も小さく笑っていた。


 それから皆で協力して、あの化物に襲われ掛けても逃げて、誰も一人にならないように気を付けて。


 代わりに、何も変化が無いまま……三階で、最後の教室を見終わった。

「……もう一回、行ける所を全部回ってみよう」

「黄太、気負うな」

 徐々に焦っていく黄太くんの背中を、黒田先輩はトンッと軽く叩いた。




「何も無し、か……スマホは繋がらないし」

「疲れた……腹減った……」

 結局、あれから進展が無い。一体何が起きて、全員ここに居るのか。どうして、こうなってしまったのか。まだ何も分からない。

「寝て起きてから、考えれば良い」

 最初の教室に戻ってくると、黒田先輩はゴロンと横になる。紅さんも蒼くんも、床に腰を下ろした。

「黄太? アンタも少し休んだら」

「……ああ」

 紅さんに声を掛けられて、ようやく黄太くんも座る。けれどずっと暗い顔をして、下を向いていた。



「か……はっ……」


 妙な音がして、目蓋を上げる。

 何だろうと目を凝らすと、暗闇の中で、紅さんの首に手を当てている黄太くんの姿が浮かんで見えた。

「あ……」

 何をしているのか聞こうとすると、黄太くんと目が合う。それと同時に紅さんの手がだらりと床に落ちた。

「ごめん……俺のせい……俺が不甲斐ないから……」

 紅さんの首を絞めていたのだと気付いて、すぐさま他の人に声を掛ける。

 でも黒田先輩も蒼くんも、とっくに反応しなくなっていた。


「本当に、ごめん……出来るだけ、苦しくないようにするから……」


 こちらに伸びてくる黄太くんの手を、私は思い切り、払い落とした。

「ごめん……」

 悲しそうな顔を見て、しまったと思う。

 けれど彼はすぐに、大声で笑い始めた。


「そうだよな! そうだよね! こんな俺に殺されたくないよな! 皆、本当は俺なんて嫌いだよね!! 人殺しだから!! こんなろくでもない奴!!」


 ガシャンと、持っていたバットで彼は窓ガラスを割る。

 床に落ちた破片を拾い上げる様子を見て、私は後ろへ下がる。彼と距離を取ろうとする。


「はは……」


 だが彼は持っていた破片を、自らの首へ刺した後、そのまま横へ滑らせた。


 崩れ落ちる黄太くんを、しばらくぼうっと眺める。

 それから順番に、紅さん、黒田先輩、蒼くんにも視線を送った。


 一人になったと頭で理解すると、込み上げてくるものがある。


 その込み上げてくるものに耐えられず……私も、床に落ちているガラスの破片を拾って、自分の胸に突き刺した。








「だーから言ってるじゃん。そんな仲良しこよしなんかしてたって、意味無いって。なぁんにも見えてこないだろ? 人間、追い詰められた時こそ、本性出るんだからさぁ。あえて追い込んで、試しに殺してみるのもアリだと思うけどー?」


 紫苑くんの言葉に、私は何も返さない。


「……良いさ。時間はまだある。正しい答え、自分で見つけてみろよ。多分、お前が一番分かってるだろ」










──私はトイレで目を覚ました。

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ウラオモテ -正しく殺してください- アサキ @asaki30cm

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