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いつからだろう?

不毛と分かっていながらも初めてしまった片想い。

それがただの片想いになっているかもしれないと予感したのは。

初めての中間テストで賭けに勝ったからメロンソーダを奢って貰った。

なんだかいつもより美味しく感じる自分が馬鹿馬鹿しいなと思いつつ心は浮き足立っていた。

ただ、直に分かる。俺のその浮ついた心は間もなくへし折られる。


渡瀬瑞希は部活で遅くなった高校1年生の秋の終わり、駅のホームで中川のばらを見つけた。

割とド田舎なので電車は通常30分に1本。良くて15分に1本。

乗り逃した冬の駅のホームほどキツイ場所は無い。

しかも田舎ゆえなのかホームは非常に質素で5つ並ぶ定番のプラスチックの椅子がある程度。

そこでのばらは電車に乗り遅れたのか脚をぶらぶらさせながら湯気の立ったオニオンコンソメスープを飲んでいた。

階段を降り掛けで瑞希はのばらを見つけたので遠目で見てちょっぴり笑ってしまう。

瑞希は女子ってこういう時、ココアとかミルクティーとか抹茶ラテとか。

そういう可愛いものを選ぶんだとばかり思っていた。

今思えば偏見の塊でしかない。

ただ、とにかくその当時の瑞希的にのばらのチョイスは人目を気にせず好きなものを飲んで至福の時間を過ごしているように見えた。

そんなのばらの姿に可愛いなと思って目を細めてしまっていた。


いつからこんな風に感じるようになったのかは明確には分からずとも感じ始めた頃にはハッキリしていたことがあった。

それは瑞希の恋が非常に不毛なスタートを切ったということだった。

簡潔に言うとのばらは好きな人がいた。

それもずっとずっと好きな人。幼馴染。

積み重なった年月を物差しに出されれば勝てっこない相手。

そいつは顔も知らないし名前も知らない。

のばらとは小中一緒で転校してしまったらしく今でも連絡を取っていた。

だからのばらはいつもスマホの着信音が、バイブ音が鳴るとぱっと確認して一喜一憂する。

そんな姿がムカついた日もあって、わざとホームルーム中に鳴らしてやったこともあった。

子供っぽいと思うけれど悔しくて、むっとして、むしゃくしゃして。

ヴーッとクラス中に鳴り響くバイブ音、慌てふためくのばら、机の下で送り主を一応確認するが見るまでもなくおおよそ見当の着いている表情、確認して恨めしそうに対角線上にいる瑞希を睨みながら見る表情。

全て、好きだったから。

だから、のばらに傷ついて欲しくないのに傷ついて欲しかった。

最低だと思って自己嫌悪する時もあってよく分からなかった。

そんな無性にもやつく夏を過ぎて秋に変化は訪れた。


♪ティロリン

軽快な音が鳴る、スマホを瞬時に取って確認する。

親友が恋してる奴はみんなこうだと昔言っているのを聞いて半信半疑だったがまさにこれだ。

そして見たのばらからのメッセージは瑞希の目を瞠目させた。

『私、片想いやめることにした!』

ハッキリキッパリとしたサッパリした性格の、のばららしい文面。

でもどこか傷ついている強がりが伝わった。

少し嬉しくなってもおかしくないメッセージなのにこの時は純粋に元気づけてやりたいと思った。

だから瑞希はのばらが大好きな映画のシリーズの公開が控えていたので誘ってみることにした。


その日の前日、瑞希は案の定眠れない。

もやもやと色々考えてしまう。

純粋な気持ちから誘ってみたが余りにあからさまに誘っているんじゃないか、弱っている時に漬け込んでいるんではないか、とか。

そんなネガティブなことから今度は反対にいやいや、のばらに楽しんで欲しいんだから自分も楽しもう、これじゃ気を遣わせるとか。

のばらを元気づけたいのは本当だから、とか。

そんな葛藤がぐるぐる渦巻いて結局ほぼ眠れずに朝を迎えた。


服は事前に決めておいて、駅前の古めの映画館で見ることにしていたので駅の改札に向かう。

2人とも駅からそう遠くないところに住んでいるが途中で落ち合うよりは駅が確実なのでのばらが改札前にしようと提案してきた。

昨日まで学校で顔を合わせていた時も元気そうだったし、友人たちに笑って片想いやめる!なんて話しているのが聞こえた。

本当は、本当に大丈夫なのかもしれない。

気持ちに整理が着いているのかもしれない。

だったら今日がのばらにとってただの楽しい日になれば瑞希としては本望だ。

逆にまだ辛いなら今日くらい忘れられるように楽しんで貰えるようにする。


駅に近いところに住んでいて改札前待ち合わせなのにそわそわして30分前に駅に着いてしまった。

どこかに立ち寄る気分にもならないから改札にそのまま直行すると、そこには既にのばらがいた。

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両想い、リテイクしますか、しませんか 綾瀬七重 @natu_sa3

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