さくらさく

多田いづみ

さくらさく

 旅行者が、ある星を訪ねた記念に植物の苗をたずさえて帰ってきた。


 それを自宅の門のそばに植えて何年かすると、花を咲かせるようになった。が、その花というのが小さくて色づきも悪く、どうにもえない。しかも咲いたかと思ったらあっという間に落ちてしまったので、なんだこんなものかとひどくがっかりした。


 花が咲き終わっても実をつけなかったが、挿し木で増やすことができるときいていたので、どうせならと何本か増やすことにした。そうやって増やした植物がじゅうぶん育つころになると、それぞれが足並みをそろえたようにいっせいに咲いていっせいに散るところなど、ずいぶんおもしろく感じられるようになってきた。


 植物はそのようにしてだんだんと増えて、広い庭の門から家までつづく長い並木道となった。


 旅行者はとくに、花が紙吹雪のように舞うさまが好きだった。その花が石畳の上に白いじゅうたんのように積もるのも好きだった。

 旅行者はいつしか植物が花をつけるのを楽しみに待つようになっていた。


 しかしある時をさかいに、植物はいっせいに弱りはじめた。樹齢にかんけいなく、若い植物も古い植物も同じように元気がなかった。が、どちらも寿命にはまだまだ遠いはずだった。それが病気によるものなのか、気候によるものなのか、あるいは栄養不足によるものなのか、どれだけしらべても旅行者にはよくわからなかった。


 そこで元の星の専門家に意見をきこうとしたが、それもまたかなわなかった。

 というのもその星は、国と国とのちょっとしたいさかいから全面戦争となり滅んでしまっていたからである。


 そして旅行者のけんめいな看護にもかかわらず、植物はふたたび花を咲かせることもなく、ついにはみな枯れてしまったという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さくらさく 多田いづみ @tadaidumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説