8話 決め事
「この人は私と同じ世界からやってきた人よ。彼はね、その…うーん」
私は急に恥ずかしくなった。
何故だか知らないけど、定道の前で彼を説明するのは嫌だ。
いや、正確には、彼の前でわたしの主観を通した「涼羽」の説明をするのは気が引けた。
何故かわからないけれど、間違ってたら、取り返しが付かないような気がする。
初めは戸惑っていたが、次第に感づいてきた舞子は
「ふふ、さあ、癸子、こちらにいらして。定道様はあちらの小屋に。狭いですが、私が話した言い訳だとその方が安全かと。」
舞子についていったがその時急に誰かに見られている感覚がした。
しかし周りには誰もいない。
勘違いだと思ったが、こういう場合の感覚とはとても重要だということを小説好きはみんな知っているはずだ。
「癸子、早くいらっしゃい。ニヤニヤしたって無駄よ。」
とりあえず、私は舞子と一緒に下に小川が流れている橋に行った。
私は定道-涼雨について話したが舞子のニヤニヤは強くなるばかり。
そして急に、
「やっぱり恋だと思ったわ。本当はね、彼以外の男にときめいている癸子の顔はみたくなかったけれど、ときめいている顔がそっくりすぎて、つい応援したくなっちゃうの。」
彼…?誰だろうそれは。
ってええ、私はさあだ道なんかに恋してないのに…。
平安時代の人って早とちりだな。
「私は恋なんかしていませんわ。それよりもあなたはなんて言いわけをしたのかしら?」
私たち三人は再び合流した。
「私はね、あなたたち二人が恋仲だって言ったのよ。」
へえそれは良い案だね。
「へえそれは一体どう言ったおつもりでして?!」
慌てる私の横から妙に落ち着いた声が聞こえた。
「ああ、確かに、それは合理的かもね。」
いやいやちょっと待て。
一体どういうことなの?
「でしょでしょ、さすが中条のお坊。物わかりがいい。」
あはははは、わーい
なんて定道は答えている。
二人ともいつの間にか意気投合しちゃって…
でももう舞子がそう言ってしまったなら仕方がない。
と割り切れるわけもなく
「どーーっしてそんなことを思い浮かべるのです?そんな恋仲ならば今旅に出ていることになっている本当の癸子はどうするの?あと、奥方様?とか雪乃様とかになんていえば良いのよ」
家族にはさすがにバレてしまうだろう。
「ムンふふふ、実はね、雪乃さんにも奥方様にもたった今許可をもらったのよ。」
えええあの厳しそうな奥方様が?
「いくらなんでも妹や娘の顔くらい見分けられるでしょ!」
どうしてこんなにも短絡的なのか…
「え?無理でしょう。雪乃さんならまだしも奥方様はもうご年齢があるのだから、目に少なからず厄があってもおかしくないわ。」
厄?
「癸子、雪乃とか奥方様って誰か知らんけど、この時代にはメガネもコンタクトもないよな」
「はああなあに言ってんのよ。あるわけないじゃない。メガネはこの何年も後に宣教師が持ってきて、コンタクトなんか…」
あああっ!そういうことね
「近視とか遠視とかのことね。」
舞子はなぜか納得した私を見て笑顔で
「そうそうわかれば良いのよ、ねっ!」
と知らない言葉があるはずなのに定道に微笑みかける。
「そうっすよ〜」
などと答えている定道も腹が立つ。
「つまりは代役の癸子と定道は恋仲。本物の癸子は旅。それにしてもなんでみんな恋仲ってことですぐに納得できるの」
普通恋ってもっとドロドロ進んで、こそこそしてて、でもドキドキして、甘酸っぱくって、受け身で良いのか、もっとアクションを起こさなくて良いのか、って悩んで、そしてやっと結ばれても色々あって…
「それを恋仲だから、っていう一言で収めて良いの。」
「ふふっ。あなた本当に違う世界から来たの?考え方が癸子とそっくり。私も昔みたいに返すわ。恋って神妙だから許せるのよ。」
ああいつの時代もそうやって人は不思議を思っているんだな。
「わああああっ新しい仲間ですね!」
ぎゃっ
せっかく感傷に浸っていたのに。
「まあその子また立ち聞き?よくないわよ」
否定しつつもその子を歓迎している舞子。
「えっとその子ちゃんも味方だっけな。」
その子が定道の方を向く。
「わああ定道様!素敵なお香の香り!よろしくお願いしますね」
しばらくみんな自己紹介などをしてから急に舞子が急にあのにやけ顔を見せた。
「ささ、今夜から三日、頑張ってくださいね」
キョトンとする定道と私とニヤニヤする舞子とその子。
あれえ、急に背中が痒くなった。
そして頬が独立したように熱くなった。
平安時代では男が女の元へ三日通えば、正式に結婚ができるのだ。
その子がにやけながら定道にこしょこしょ話をしていた。
ああ、神様よ、私はどうなるんですかね。
平安時代に転生した女子中学生の恋のお話 五条理々 @riri_gojo
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