7話 登場
埃が舞う空気。
丁寧に添えられた花。
そして、誰もいなくなった…
訳では無い。
「あ、えーとどちら様…?」
ええ、なんで私の名前、、ううん、前世の私の名前を知っているのよ……
「勝手に入らないてください。ここは姫君の場です。」
舞子が低い声で言った。
場違いにも私は舞子がかっこよく見えた。
「はあ?だから一体なんだよ。おい。ドッキリならさっさと終わらせることだな。」
前世の言葉遣い……これはもしかして……
「ねぇちょっと癸子……この人何を言っているの……」
あれ?分からない……?
「と、とにかくっ!さっさとこの不届き者を捕まえなさいッ!」
ああ、そういうことか。
私、気づいてたんだ。
この人、涼羽だ。
「何をぼーっとしてるのよっ!!さっさと連れ出しなさいっ!!」
舞子は次第に、かっこいいとは程遠いヒステリー気味になってきたが、誰も動こうとはしない。
「一体あなたたちは」
舞子は顔を赤めて、立ち上がり、使用人に怒鳴りこもうとした時、ふっと、使用人の目線の先に目を向けた。
そこでは私が涼羽の手を握り、涼羽は私に微笑んでいた。
静かな様だった。
「癸子……癸子…!!」
ハッとして振り向くとその場にいた全員が神妙な顔をしていたが、段々、怒りを顔に滲み出してくる者もいた。
舞子も例外ではなかった。
「あなた、さっきからごちゃごちゃといっぱい並べていたけど、結局は中条家の手下じゃない!」
は?
「やはりそういうことでしたわ。」
「言ったでしょう?今日の癸子様はおかしいんだって」
「うふふ、それはお頭様がいらっしゃるからなのね。」
クスクスクス
クスクスクス
「あなたは誰。違う者だわ。」
しーん
「え?舞子様、こちらは癸子様ではないのでしょうか。」
あああもうややこしくなってきた。
みんなに転生の話をされると色々と面倒なのに。
ただでさえ、私は今容疑者的な扱いを受けてるし。
「はあ、この人はね、癸子をかたどった別の者なのですわよ。」
あれ?なんか違くないか?
「実は癸子は今、旅に出ているの。」
涼羽でさえ、私の体から溢れる「?」を感じ取っているというのに、他の者は皆、舞子の話に聞き入り、私なんかには目も向けない。
「癸子は旅に出ていたのだけれど、それをこの、仮之宮家の汚点になることを恐れて別の者に自らの運命を託したのよ。だけれど、それが全うな者ではなかったようね。」
みんなようやく私を見始めた。
「こ、こりゃあ驚いた。全くのそっくりさんだっ!!」
1人の従者を音取りに、みんな口々に感想を述べ始めた。
ザワザワの中に1人の女房が声をあげた。
「待ってください。この人は癸子様では無いことはわかりました。しかし、中条家のお坊に…失礼。定道様と何故の関係があるのでしょうか。」
みんな一斉に息を飲んだ。
平安の人ってみんな同じことを同じ時に同じように考えるのね…
みんな一斉に怒りを露にした。
「そうよ、中条のお手元にいるんでしょっ?」
「それならばさっさと出ていきなさいよ」
涼羽がついに声を出した。
「俺、わかったかも。俺ら、転生したんだな」
そう、それまで、涼羽は転生をしたことに気がついていないため、この人たちの言葉を理解できなかった。
しかしそれを発見したからには、もう涼羽は黙っていられない。
「おいおいおい、俺らめちゃくちゃに言われてんなあ」
あはは、というセリフを入れた吹き出しが見えてきそうな顔をした涼羽に涼羽を追いかけてきた従者は驚いた。
「こっことば、言葉がわかるう!」
素っ頓狂な声を出した従者。
私はこの場で私たちの味方であるのは舞子だけであるのを悟った。
ここは舞子に任せよう。
「舞子、仕方ないです。本当の話をしてください。」
舞子は一瞬目を張ったが、私の顔を見た瞬間、頷き
「わかりましたわ。えーと、じゃああなたがた2人は一旦お下がり。」
私は涼羽の腕をとり、庭に向かった。
奥方様の部屋に行く廊下の手前で庭に降りた。
「涼羽、混乱するのはわかるけど、今の話をよーく聞いて頂戴。」
私は今までの話、転生の話や、中条の家の話、そしてここの時代や、私のわかること、分からないこと、舞子のことを伝えた。
「なーるほど、そうかそうか。ところでさ結埜香、俺起きる前に、お前の姿を見て、絶対にお前もここにいるってわかったんだけど、なんでなんだ。」
私は首を横に振りながら、
「私は知らないの。そもそも私はその夢?みたいなのは見ていないし、あなたがここにいる気配は微塵も感じられなかった。それと、ここでは私を癸子と読んでちょうだい。定道様。」
涼羽…いいえ、定道は驚いた。
しかし、同時に全てを理解した。
「なるほどな、えーと、ちなみに、きしってどうやって書くんだ?」
定道は未だに前世の名残を残している。
つまり、ちょっと外れた、でも頭の回転のきくモテる男子。
「あれー?確かにどうやって書くんだろ…」
今までみんな私のことをきしきし言っていたけれどどんな漢字を使うのか全く意識してこなかった。
「干支。あなたたちの時代にまだ残っているかしら。」
舞子…!
「ああ、習ったわね」
「みずのと。最後よ」
定道が少し後ろの引くような姿勢をとった。
「この人は味方だったけ…」
「味方に決まっているじゃない。私の話を聞いてた?」
「聞いてたけど登場人物が多くて顔と名前がマッチしないんだよ」
「登場人物って、あんた、ここはあなたが本当にいる世界です。物語と勘違いして貰っては困るのよ。それから、ここではカタカナ表記になるような…いいえ、令和で使うような言葉遣いはしないでちょうだい。」
私がズバズバ言い返すと定道は少し拍子抜けした顔で、
「お前そんなに話すんだな…」
と言い出した。
私は急に恥ずかしくなった。
この人とこんなに近くで、しかも強く長い時間話したことなかった。
舞子が静かに微笑む。
「ほらほら、戯れてないで、癸子、大体予想がつくけど、そのお方について説明して。」
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