6話 告白
「あ、あのぉ〜」
カーテンみたいなのから、小麦色の肌の子が出てきた。
「実は、今の話、私ずっと聞いてまして…」
は?
私と舞子は顔を合わせた。
「ど、どこからよっ!?」
舞子が興奮気味に聞いた。
「初めからです。」
女の子の目が右斜め下に向いた。
「だからどの辺りよ?」
舞子が踏ん張っている。
だが、私はそれはそれで良いと思った。
なぜならこの子も信頼できそうな子だと思ったし、何よりも癸子の体が、この子を見る度に幸せになっていくのが感じられるから。
「えっとその、癸子様が子供騙しの話の主人公を明かした時から…」
「じゃあ、生まれ変わり…転生については知られていなさそうよ?」
舞子がコショコショ話で伝えた。
「でもっ!話の流れから、癸子様はこの時の者では無いことはわかりました。」
ダメだこりゃ。
「大丈夫よ、舞子、この子は平気なのよ」
「ええ?でも癸子…」
顔に疑問を浮かべる舞子。
そういえば、この子の名前を知らなかった。
「ねぇ、あなたお名前を聞いてもいいかしら?」
「ふっ…」
女の子の顔から純粋な色は消えた。
代わりに自嘲的な表情を見せた。
「本当なんですね…」
「ぁ…」
舞子が小さく声を漏らす。
「私の名前はありません。その子、とでも呼んでいただければ嬉しいです。それにしても、本当に私の事知らないんですね。」
これは、なにか事情がある。
しかも、とても深刻で、私なんか入れないような…
「まっ!そんな話はどうでも良いのです。舞子様、癸子様に私たちの世界を紹介致しましょう!」
いつものパァっとした笑顔に戻った。
「そうね…さあ癸子、まずはこの部屋について教えるわ。」
「え、ええ」
私は戸惑いを隠せなかった。
「まずはこの部屋は室礼、というつくりになっています。そして、これは屏風と言います。」
「ああ、屏風ね、聞いたことあるわ」
「それからこれは、几帳と呼ばれるものです。部屋を仕切るのですよ。」
ああ、カーテンみたいなやつ、几帳って言うのか。
「まあ、一つ一つ覚えていけばいいわ。」
舞子が微笑んでいる。
「大変ですっ!」
一人の女房がやってきた。
「御相手の方が、今すぐにいらっしゃると…」
ええ?御相手ってまさか…
「嘘でしょう?こんなに早く…」
舞子が慌てている。
そういえば相手とはどんな人だろう。
「さあさあ、その子、ぽーっとしてないで準備を手伝いなさい。」
その子が困った顔をして
「で、でも」
舞子がすかさず
「大丈夫よ、私が伝えるから。」
その子が女房と一緒に出ていった。
「あ、雪乃さまにもお伝えしといて」
舞子が言い放つと、こちらを向いた。
「癸子、今日の御相手は面倒な人よ。」
え?序盤からラスボス?
嘘でしょ。
「御相手は中条家の次男で、次期当主。」
え?次男なのに当主?
私は怪訝な顔をすると
「長男が、狂ってしまったのよ。」
うわぁお、確かに面倒そう。
「これからこの家についてはかいつまんで説明していくわ。」
中条家は奈良時代に天皇家から生まれた良家であった。
しかし、一族のものはみんな気性が荒く、プライドが高かった。
元はそう出なかったとしても、この家に入れば必ずこのようになってしまう。
見た目は良くても中はドロドロ。
この家に生まれたものにしか人権はなく、嫁いできた嫁はみんな本家から離れた小屋に住んでいた。
その小屋はだいたい5畳半。
そして、本家で育ったとしても、厳しく鍛えられる。
その鍛え方は一般的な教育とはかけ離れていて、とても利己的なものであるという。
そして、今、本家に長男、次男、三男がいた。
長男は長年の圧から狂ってしまい、今は小屋に入れられ、醜い生活をしていると言う。
次男は元は当主の愛人の子であったが、愛人が正式に嫁入りすると次男となった。
その時に次男は中条家に入った。8歳であった。
しかし、金が荒いと聞く。
三男は長男の実弟で、外部の者には口を聞いたことがない。
そのため、とても冷酷な性格と言う。
聞いているうちに白粉で元々白い顔がさらに白くなっていくのがわかった。
「…これが中条家よ…」
いやいや
そんなところに嫁げって言われたらそりゃ癸子嫌がるでしょ。
なんかもう自分事じゃないみたい。
おいおい奥方様、ちゃんと娘を思ってあげろよ?
「大変そうね、絶対に嫁ぎたくないわ…」
「そうそう、それに今のあなただと不安で不安で仕方がない。」
舞子が小さく呟いた。
あれ、私のことを心配してる?
違うか、癸子の体を気にしているのね。
「御相手様がいらっしゃいました!」
ついに…来たのね
しっかり退治しなくちゃ!
「おい、いんのか?いねぇのか?」
え?
「ちょっと、定道様、困ります。こんなに早く入ってくるなんて…」
え?いくらなんでも急すぎん?
「ぅるっせぇ、おい、結埜香、お前だろ?」
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