5話 真実の果て

桜の花と緑の葉が重なっている。


「舞子。重要なお話よ。」


あの後、私は舞子だけを残して話をした。


「先程伝えたあの子供騙しの物語。実は主人公は私よ。」



青空には雲ひとつない。

木の床が微かに軋む。

雨上がりのため、濡れた誇りの匂いがする。



「はぁ、やっぱりね」





え?




「そうだろうと思っていたわ。」





は?



「だって、あなた、あたかも自分のことを言っているようだし、それに、最初の方はとても精密なくせに、最後はあやふや」




そりァ、最後の方は本当のフィクションだもん。


それにしても、こんなにもあっさりと信じるのね。


「信じてくれるの?」


もしかしたらこの時代ではこういうオカルト系の話はよくあったのかもしれない。


「信じれるわけないじゃない。」


は?


「信じないけど、でも、本当にあなたは癸子じゃないのなら、さっさと出てって欲しいだけよ。」


あ。なるほどね。

ちょっと冷たい言い方だけど、理解出来る。


「さあ、今この時でも癸子はどこかで不安になっているんだから、さっさと戻る作戦立てるわよ」


「え、あ、はい」


完全に舞子ペースだわ。

こいつ…一軍だな…!!


「まず、あなたについて教えてちょうだい。まずは性別についてよ」


その瞬間、あっちの私で受けた屈辱を思い出した。


粘土と埃を混ぜたような臭いの部屋で、私は…


「女!女よ。あんなガキな男子も一緒にしないで…!」


信じてくれるかな…


「おほほ、これは本当に女ね。こんな男嫌いの人、初めてよ」


フゥー、信じてくれた。


「それじゃあ、…」


その後、舞子にあっちの私について様々な質問を受けた。


「なるほどね、分からない部分もあるけど、ただ1つ完璧に理解したわ。」


へぇえ、頭の回転が早いんだね。

良い友達持ってんじゃん、癸子。


「あなたと癸子は真反対の人間よっっ!」


はい。

知ってます。

だから困ってるんです。


「それなら次はあなたの世界について話しなさい。」


めんどくさい…

しかし、ここで諦めない。

私は楽な道を選んだ訳じゃないもん。





…と言うわけで、私の人生の概要を伝えた。


しかし、困るのはここからだ。


果たして舞子にはどれくらい伝えれば良いのか。


だって、もしも舞子が悪い人ならば、私の情報を使って、歴史を変えてしまうかもしれない。


いや、今伝えた内容だけで、舞子は変えてしまうのかも。


それっていいのかな。


本当に大丈夫かな。



ううん、癸子があんなに信じていた人だもん。


それに、これから助けてもらう人なんだから、私が信じないとどうにもならない。


何よりも、もう二重人格にはなりたくないの…


でも、私は伝えすぎないようにする。


だって、恐ろしい未来を舞子は知らない方がいい。


だからここから先はもう舞子には言わないの。


「えっと、それならあなたの名前は…?」


あ、言い忘れてた。


私の名前は、

私の名前は、

私の名前は、


「今日から癸子よ。この時代で生き抜くには、もう前の私は捨てないといけないの。」


ああ、人に言ってしまった。


もう戻れない。


もう二度と、戻れない。


それでいい。

それでいいんだよ。


舞子の息を吸う音が聞こえた。


「ふふ、ほほほ。完全に私の親友に成ろうってことね。いいわ。それなら、私もあなたを癸子として扱うわよ。」


平安時代の食事を口にした。

色とりどりで美味しそうだと思ってたけど、私の口には合わないみたい。


だけど、もうここで生きるよ。


なれないけど、生きてみせるからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る