4話 私は私

「そ、それで?どうなったのよ」

「どうって、そのままその時代で生きたのよ。」

「そ、そんなのっておかしい!結末がないじゃないの!んもう、私がこの物語の中にいたら、絶対完結させるのに!」


あの後、結埜香は舞子に私のことをある少女、とほのめかして、私の体験談を一部始終、物語として伝えた。


意外と、読書家...ロマンチスト?

なんか反応いいな。

まあ、あなたが実際の物語にいるんですけどね。


「まあ、子供騙しの童話なのだから、起承転結はあまり重要ではないわ。」


適当にはぐらかしたけど、本当のことを言えば、あなたがこの物語の重要人物なんだからね?


「でもさ、子供騙しにしては、あまりに精密な話だとは思わないかしら?」


う、痛いところをつかれた…


「さあ、ねぇ...」


舞子は物語のキャラになりたがってるし、観察力も、想像力も、思考力もある。

そして、何より癸子をとても世話してるみたいだし、いいよね?


ダメに決まってるでしょ!

...

ええ、なんでよ、いい人そうじゃない。

...

ちょっといいことされたらあなたはすぐについて行くんだから。

詐欺にでもあったらどうするのよ。

...

は、はあ?詐欺?だって、この人、私にすごく優しいじゃないの。

...

結埜香、聞いてちょうだい。

あなたは甘えてるだけだから。

自分から慣れていくのが面倒くさくて、先に情報を知りたくて、楽な道を進もうとしてるだけでしょ?

...

違う!

こっちの方が正確で、安全だと思っただけ!

...

それの何が安全なの?

タイムスリップした人間を売ると考える人かもしれないじゃん。

もしかしたら密告して処刑するかもじゃん。

...

でも、舞子はそんな人じゃない。

舞子は他の人と違うの!!!!!

...

なんでわかるの?

あなたは今の舞子しか知らないの。

初対面の人をすぐ信頼するなんて...

それに昨日までは舞子はすごく悪い人かもしれないじゃない。

...

知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない

...

あなたは出来損ないなの。

誰かに頼らないとできないの。

唯一信頼出来る私を置いて、初対面の人を頼るなんて。

...

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

...

ほら、すぐそうやって感情的になる。

私が出るのはね、あなたが迷ってる時だけなんだよ。

気づかない?

私の気持ちはあなたの本音。

つまり、私はあなたの本音。

私を見ないで、何を見るっていうの?

だからあなたは私だけを…













ん、もう.....うるさいの!黙りなさい!私はあなたの主人なの!

舞子は素敵で優しくて、時には面倒くさくて、ムカつくやつだけど!

でも、!

私は舞子を信じるの!

私には舞子を信じる気持ちしかないから。

あなたは本音なんかじゃない。

ただ、ネガティブな人間の思考を具現化しただけ。

私はあなたみたいにはなりたくない。


だから...

とっとと出ていきなさい。

これは命令よ...




消えてちょうだい。







もう、現れないで。



カラスが鳴いている。


「癸子...?」


金木犀のいい匂い...


「奥方様!起きました!」


え、私寝てたの...?


バッシッッッッツッン


ほっぺがあ、熱いよォ。


私殴られた。

痛い。

奥方様に殴られた。

ねぇ、憎んでいいよね...?

いいよね?




よし、出てこない。

さよなら、二重人格。

さよなら、結埜香。


私はどうやら、30分くらい気を失っていたようだった。


それにしても、どうしてそんなに舞子を庇ったんだろ。

癸子の気持ちは体に残っているのかな。

つまり、癸子の体が気持ちをコントロールしてる。

二重人格をやめられたのも、癸子の性格だからかな。

だとしたら、今朝の私は気分良かったから、昨夜の眠った私は楽しみな気持ちに包まれていたのかな。

舞子のおかげ...?


「この、馬鹿娘がっっっ!」

お、奥方様が怒ってるぅう。


「ご迷惑おかけして申し訳ございません」


これで、奥方様は母で、雪乃とは姉妹説が確定したね。

そういえば、雪乃がカーテンみたいなやつの隣で小さくなってる。

どうしたんだろ。


「癸子様あああああああああああぁぁぁ」


ぎゃぁ!なんか小麦色の肌の子が泣きながら抱きついてきてるぅ。

可愛い♡


「お医者様は、この気絶は原因不明で、もしかしたら治らないかも、とか言ってて、もう私、わたしぃ...!」


奥方様が目を逸らした気がした。


「そして、奥方様が、とても心配しなさって、お坊様までお呼びしようとしたのですよっ!」


もう笑顔になってる...

意外とサイコパス気質かな、この子。


奥方様が完全に顔を逸らした。



「わ、わたくしはただ、ご家名を穢したくなかっただけよ...でも、元気になって良かったわね」


うわぁツンデレお母さん!

可愛い♡


「元気になったなら良かったわ。そろそろお昼よ。皆様と一緒にしてよろしくて?」


舞子の一言でみんながモゾモゾと動き出した。


チャンスは逃せない!


「舞子、少しお話したいことがあるのよ。」


こうなったら早ければ早いほどいい。

情報は早い者勝ちなんだから。







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