最終話 高校に行っても
やみこ「(やたら元気に)ひっさしっぶり~! やっほ~!」
咲「あの、ほ、ほんとうにやみこ?」
やみこ「(やたら元気に)あったりまえでしょ? もう私の顔、忘れた? フフフ! 咲、元気だった!? 私はすごく元気よ!」
咲「あ、うん。そう……だ、ね」
やみこ「(やたら元気に)どうしたの? 咲、なにかイヤなことでもあった? じゃあ私に言ってみてよ! 私、全力で咲をはげましちゃうから!!」
咲「いや、その……や、やみこ。口は笑ってるみたいだけど……目がぜんぜん笑ってないよ」
やみこ「(やたら元気に)えっ!? 目!? 私、目が笑ってない!!??」
咲「やみこ……元気なふりをするのはいいけど、ムリしなくていいよ」
やみこ「(やたら元気に)どうして!? 私、こんなに明るいのに!!」
咲「そ、それ! 口元引きつっちゃってるし、つくり笑顔なの丸わかりだよ」
やみこ「(やたら元気に)そんなことないよ! 私、すごく元気だもの!! ほらこんなに明るいし!!」
咲「やたらと声を張り上げるのも、違和感大アリだよ……?」
やみこ「そ、そんな……」
咲「と、とにかくいったん座ろっか……。あ、店員さん、なんでもありません、大丈夫ですから……。あの、カプチーノのケーキセット二つ、お願いします」
それからやみこは、高校に入ってからのことをブツブツと語り始めたのでした。
やみこ「――高校に入ったら『私、変わるんだ』って決めて、入学式のときからこんなにポジティブになったのに、やっぱり友だちできないし……私、どうしていいか……」
咲「あんな強制された笑顔みせられたら、だれでも怖がるよ……」
やみこ「まだポジティブさが足りないのかな……もっと元気な感じで……。そうだ、家を出た瞬間から一秒ももらさず笑顔にしていれば、自然と同級生が話しかけてきてくれるはず……」
咲「いや、それはやめたほうがいいと思う。たぶん」
やみこ「どうして。咲みたいに明るい性格になれば、私にもすぐに友だちができると思ったのに。うう……」
咲「私みたいに、明るい性格……」
うなだれるやみこを前に、私は気づきました。
自然でいられた、中学生のころの自分。
やみこにとっての私は、あのころの私のままであることに。
咲「――やみこは、やみこのままでいいのに」
やみこ「……えっ」
咲「私、暗いやみこが好きだよ。性格が明るいか暗いかなんて、そんなの友だちつくるのに関係ないよ。自分が一番自分らしくいられる性格でいいじゃん。無理せずありのままでいる方が、友だちだってできると思う。自分にウソついたって、いつかばれるもん。だから、やみこはそのままでいいんだよ」
それは、いつのまにか自分自身に言い聞かせる言葉になっていました。
無理せず、ありのままで。
自分が一番自分らしくいられる性格で。
咲「――なんか、アナ雪みたいなセリフになっちゃったね」
やみこ「そのままで、いい……本当に、いいの……?」
咲「うん。やみこが一番落ち着く性格でいいって、私は思う。少なくとも、私はやみことずっと友達だから」
やみこ「咲……」
咲「あの……じつは、私もね――」
やみこ「でも私、やっぱりダメだ……」
咲「えっ、やみこ?」
やみこ「だってこの性格のままだったら、もし友だちができたとしてもろくに話もできないし、そうしたら相手を暗くさせるだけだし、教室の雰囲気も私がいるだけで暗くなるし、学校を卒業して働き始めたら職場も暗くなるし、彼氏なんてとてもできないし、万一できたとしても、相手は絶対暗い人間だし、もし結婚して子どもができたらその子供は私以上に暗くなるのは間違いないし、そのまま暗いおばさんになって、暗いおばあちゃんになって、死んでも暗いからきっと天国になんかいけずに地縛霊とかになっちゃって――」
つぶやき続けるやみこを見ながら、私はいつのまにか自分の中にあった不安がやわらぐのを感じていました。
やっぱり、いつものやみこがいい。たぶんやみこも、私に対してそう思ってくれている。
だから私も、いつもの私に戻ろう。やみこの前でも、いまの学校でも。
自分のままでいられた、私に。いま、私自身がやみこに言ったように。
咲「性格が暗くて天国に行けないなんてことないよ。っていうか先のことまで考えすぎだよ、やみこ」
やみこ「ううん。きっとそうなる。絶対そうなる。――あ、でも私、おばあちゃんまできっと生きられない。私が座っているこのイスの脚がとつぜん折れて、私は床に頭をぶつけて、打ちどころが悪くて死ぬかもしれない」
咲「いや、そんなことないってば」
やみこ「じゃあ、これからくるデザインカプチーノのハートの部分に毒が仕込まれていて、私はそれを飲んで吐血して死ぬかもしれない」
咲「いや、そんなことないってば」
やみこ「じゃあ、この店内に強盗が押しかけてきて、お金を要求するのにスタッフが断ったから、見せしめに私が銃で撃たれて死ぬかもしれない」
咲「いや、そんなことないってば」
やみこ「じゃあ、私たちが外に出たとたん、空から巨大な隕石が降ってきて、人類みんな死ぬかもしれない」
咲「いや、そんなことないってば。やみこ、死ぬ死ぬって言ってると、本当に――あれっ、スマホが鳴ってる。なんだろ……」
(咲、スマホの通知を確かめる)
咲「Jアラート――緊急速報メール?
『日本に巨大な
えっ? ってか、みんな避難してる!? えっ、えっ……?」
私は店の外に出ました。空を見上げると、燃えるように赤く、徐々にシルエットの大きくなる巨大な円が、空を駆け下りてきていました。
咲「うそでしょ――」
あまりに急なことで、私は言葉を失ったまま、身動きがとれませんでした。
避難しないと。どこかへ。
どこへ――?
非現実的な光景を目の当たりにして、私は理解しました。
これが、世界の終わりなんだ、と。
もうどうすることもできない。
耳に届く、すさまじいごう音。
こんなにあっさり、人間の命って消えるんだ。
理不尽すぎるよ――。
私は涙も出ないまま、この世の最後の数秒を、ただ空を見上げて過ごすしかありませんでした。
やみこ「――っていうことになるかもしれないから、やっぱりダメ」
咲「やみこ………………。そのたくましい想像力、ぜったい何かにつかえると思うよ……」
やっぱり、やみこといる時間は、楽しい。
END
やみこ、悩みすぎ! 七村 圭(Kei Nanamura) @kestnel
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