咲の日記

 卒業から五か月後。

 私は、やみこと家の近くにあるカフェで待ち合わせています。

 中学を卒業してから今日まで、やみことは会っていませんでした。

 やみこがスマホをもっていないから――というのは言い訳で、本当のところはなんとなく会う気になれなかっただけです。

 そのまま夏休みを迎え、ふと私はやみこに会いたくなって、メッセージを送ったのでした。


 ひさしぶりにやみこと会う。

 以前は毎日顔を合わせていたから、半年近く離れていただけでもずっと長いあいだ会っていないかのような感覚があります。

 私はそんな緊張感にも似た期待とともに、だけどもうひとつ、少し暗い気持ちも抱えていたのでした。


 県内一の進学校に入学した私。

 中学では、自分で言うのもなんですけどけっこう優等生で、つねに成績は学年上位でした。

 ですが高校では、自分以上の学力の生徒がたくさんいて、勉強にもついていけません。

 そんな悩みが顔にも表れていたのか、友人もなかなかできませんでした。

 自分から同級生の輪の中に入っていくことができない。強い劣等感を感じている状態で、他人の顔を見ることすら、怖くなりました。

 高校に入学するまでの学校生活で、こんな経験をしたことはありませんでした。私は自分がどうすればいいのか、いまも分からずにいます。


 ある日から、私は自分の感情をごまかすことにしました。

 教室内では、がんばって元気ぶって。勉強ができなくても平気だという顔をして過ごして。

 テストの点数が悪くても、気に留めないふりをしました。

 すると、すぐに友人はできました。でもそれは、辛い内心を隠したままのつきあい。

 仲間外れになりたくないための、仮の自分を演じながら話す教室内での会話は、正直、私にとって苦痛です。

 こんな気持ちのままやみこに会うのにためらいがあって、いままでやみことは連絡をとらなかった――とれなかったんです。

 なぜいまになって、やみこに会いたくなったのか。それは自分でもわかりません。

 むしろ会うことで、よけいに暗い気持ちになったりしないか。やみこの明るいとはいえない性格に引きずられて。

 不安を抱えたままカフェの窓際の席で待っていた私の目に、店内に入ってきたばかりのやみこの姿が映りました。





    (カフェの席で待っていた咲が、店に入ってきたやみこを見つける)


咲「やみこ、こっちだよ」


やみこ「あっ、咲! ひさしぶりー!!」


咲「えっ、やみこ……?」

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