第51話 ラサ・アプソ村が治った日
「それで、お前たちはこれからどうするんだ?」
目の前の皿にのったチーズのようなものが練り込まれたパンを掴みながら、俺は対面に座るハスキー兄妹に尋ねる。
場所はラサ・アプソ村唯一の酒場。
数週間ぶりの開店ということで、大勢の村人がおしかけて賑やかな酒場の一角で、俺たちは夕食をとりながら今後のことについて話していた。
「ふむ。流行り病の脅威は去ったし、もうこの村に留まる理由もなくなったからな。またあちこちを巡って薬を作ったり売ったり、旅の薬師をやるつもりだ」
「しばらくここにいたので、リアも自分の新薬の研究が進んでいないのです。早く旅を再開して、まだ見ぬ材料や調合法を探します」
シビルとリアの答えに、すかさずジャックが手を挙げた。
「はいはい! それならさ、二人もボクたちと一緒に旅をしない? 二人が加わってくれれば、きっともっと楽しい旅になるような気がするんだ!」
案の定、ジャックは二人を勧誘し始める。
隣に座っていたラヴラも嬉しそうに手を合わせていた。
「まぁ、素敵ですね。お二人さえよければ、私も大歓迎ですよ。それに薬師さんがいてくれれば心強いですしね」
その後も何やかんやと理由をつけて、二人を引き入れようとするジャックたち。
色々それらしいことを言ってはいるが、彼女らの狙いは明白だ。
ズバリ、せっかく仲良くなれたリアと別れたくないのだろう。先ほどから「二人」と言いつつ、その目はリアに向きがちだった。
シビル……俺はお前の味方だからな?
「と、言っていますが?」
ジャックに迫られたリアが、困ったような顔でシビルを見上げた。
「俺は、リアが決めたことならどちらでも構わん。まぁ、断る理由も特にないとは思うがな」
「そんなことはないのです。もっと慎重に決めなければいけませんよ、兄さん。なにしろ向こうには約一匹、既にこの世から存在を抹消されたのに動いている珍獣がいるのですから」
それってもしかしなくても俺のことですかね?
相変わらず、感心するほどサラッと毒を吐く奴だな。
「……まぁ」
ひとしきり俺たち一行に加わった時の懸念点(俺)を列挙したリアは、けれどやがて短くそう言うと、やぶさかではないといった感じで頬を掻いた。
「とはいえ、リアもちょうど今、偶然、たまたま、奇遇にも、そろそろ実験動物の一匹くらい欲しいと思っていたところなのです。……で、ですから」
多分、今までで一番年相応な女の子らしい表情を見せたリアが、照れ隠しのようにそっぽを向きながら呟いた。
「……一緒に行ってあげても、いいのです」
苦笑しながら、シビルも頷く。
「決まりだな。そういうわけだ。お言葉に甘えて、妹共々よろしく頼む」
「本当!? やった! それじゃあよろしくね、リアちゃん、シビル!」
「お二人とも、改めてよろしくお願いしますね」
やれやれ、また賑やかになりそうだな。
はしゃぐジャックたちを横目にそんなことを考えていると、ふとリアと目が合う。
何も言わないのも変なので、俺もジャックたちにならうことにした。
「ま、これも何かの縁ってやつだろ。よろしくな、リア先生」
「ええ。よろしくなのです、助手のシバケ……間違えました、実験動物君」
お~い、間違ってないぞ~。もっと自分に自信持て~。
苦々しい笑みで見返すと、リアは再びつんとそっぽを向いてしまった。
……その口許を、ほんの少しだけ緩めながら。
「さて、話はまとまったな。であれば……さぁ、どうか思う存分食べて飲んでくれ!
ささやかではあるが手土産も兼ねて、手伝ってくれたお礼をしようではないか」
シビルの太っ腹な気遣いをありがたく頂戴することにして、俺たちはすっかり元気になった村人たちとともに、心ゆくまで食べて飲んで騒ぎ続けた。
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