第6話 リアルなんてクソゲー
「うわっ! あいつら、とうとう射ってきた!」
荷台に向けて放たれる矢の雨に、御者のケモ耳少年が焦燥の声を挙げる。
「お、おい、どうするんだ。このままじゃマズいんじゃないか?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないか!」
「おいおい勘弁してくれよ。何が悲しくて旅の初っ端から盗賊に殺されそうにならなきゃいけないんだ」
そりゃあ、物語の冒頭にインパクトのあるシーンを入れるのは、確かに小説のテクニックの一つではあるけれども。
だからって、リアルにそれを再現しなくても良いだろうに。
「ぼやいてないで、何とかしてよ! 馬車が穴だらけになっちゃう!」
「い、いや、何とかしろったってお前、一体どうすりゃいいんだ?」
飛んで来る矢を全て撃ち落とせとでも言うのか?
そんな神業ができるのなら、いっそ馬車から下りて盗賊たちを直接ぶっ倒しに行った方が話が早い。
「荷台にいくつか盾が転がってるでしょ? それでなんとか矢を防いで!」
動かない俺に痺れを切らしたのか、少年が指示を飛ばす。
色々な物が積まれている荷台には、たしかに丈夫そうな盾が何枚か置いてあった。
それくらいなら、俺でもどうにかできそうだ。
「よ、よしきた!」
俺は飛んで来る矢を警戒しつつ、素早く手近にあった盾を両手で持ち上げて、
「とても重い!」
一秒ともたず、取り落としてしまった。
「ええっ!? ウソでしょ!? そんなに重くないよ!」
「いやいや、ダメだこりゃ。めちゃくちゃ重いわ」
「ボクでも片手で持ち上げられるよ!? ねぇ、本気でやってる? ふざけてるんじゃなくて?」
「やってるけど、さ! ……はぁ、やっぱり無理だ」
再度挑戦してみるが、やはり俺の腕力では到底持ち上がりそうにない。
言い訳っぽく聞こえるかも知れないが、俺が運動不足ということを差し引いたとしても、この盾はちょっと重過ぎる。
「な、情けない……そんなんで今までよく旅人をやってこれたものだよ」
感心一%、呆れ九十九%といった感じで溜息を吐くと、少年がやにわに立ち上がった。
「もういいよ、交代! 防御はボクがするから、キミは操縦してあいつらを引き離して!」
「操縦? ば、馬車の操縦なんてしたことないぞ?」
「時々ムチを鳴らして、あとは手綱を握ってるだけでいいから!」
言うが早いか、少年が身軽な動きで荷台の方に乗り移ってきた。
入れ替わるようにして、俺も慌てて操縦席に座り手綱を握る。
チラリと後ろの様子を伺うと、少年がさっきのクソ重い盾をあっさりと持ち上げ、勇敢にも次から次に飛んで来る矢を
まるでアクション映画の主人公のようだ。
「お前、凄いな。俺なんか持ち上げるのすら一苦労なのに」
「別にっ、こんなのっ、大抵の人ならっ、普通にできる、よっ!」
答えながらも確実に矢をはたき落としていく少年。
それなりに大変そうではあるが、まだまだ余裕が見える。
「なぁ、こっちからも反撃した方がいいんじゃないか? 見ている限りじゃ、お前なら盾で防ぎながらでも攻撃できそうだけどな」
「そうしたいところだけど、あいにく今は飛び道具の在庫を切らしてるんだ。投げられる物っていったら、威嚇用の小さい手投げ爆弾くらいしかないよ」
「それを投げるのはダメなのか?」
「どうせ避けられるのがオチだし、威力だって多少地面をへこませる程度しかないんだよ」
いくらアクション映画みたいな展開だろうと、いくら舞台が異世界だろうと、そこはやはり現実。
そう上手くはいかないものらしい。
現実が厳しいのは、どこの世界でも一緒ってわけだ。
「リアルなんてクソゲー、とはよく言ったモンだな……」
「ほら、ブツブツ言ってないで、ちゃんと操縦してよね!」
少年の指示に従うままに、俺は慣れない手付きで荷馬車を走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます