彼らの実在を認知しよう

 特に、日々の現場の編成を担当していると、それまで見えていなかった、一人一人の能力・戦力がよりはっきりわかってきます。

 前行程・後行程との力量差はなるべく小さくし、同じ行程のポジション同士では逆に力量差を大きくして、全体のスピードを最適化する。

 その必要に迫られると、自然、自分の頭の中で全従業員の戦力比評価レシオが出来上がります。

 現在、私の中では5段階評価に落ち着いています。

 私のゲンさんに対する評価は3。

 彼のキャリアと若さ、そしてこれまで叩いてきた大言壮語の事を考えると、当たり前に5であってくれなければ困るのですが。

 誓って言いますが、私が彼に対して悪印象を抱いている事は一切関係ありません。

 私が考える戦力レシオとは、その人の総合力……言い換えれば「いつも出している結果の大きさ」を意味します。

 そして、結果が伴わない要因と言うのは、何も力量不足に限りません。

 “出来なかった”事と“やらなかった”事は、最終的に現れる“結果”にとっては同じなのです。

 これまで、二人一組の協力を無視する、所属長の命令に(正当な説明無く)逆らう、周囲を威圧・恫喝すると言う彼の悪い点は色々述べてきました。

 その他、

 ・特定の仕事を正当な理由無く拒否する(私の入社以前から所属長がそれを許してしまっていた)

 ・ミスの報告をせず逆ギレするので、ミスのダメージが大きい仕事を任せられない

 ・度々遅刻をする

 ・理由の不明瞭な欠勤が中途半端な頻度である

 ・記録が必要な業務で何故か絶対に記録をしない(※公的なものではなく、社内ルールですが)

 ・指示待ちタイプなのに、その指示をボイコットする、もしくは訊いてほしい時に限って訊かずに動く(※1)

 などなど、

 彼の横暴に対する感情を抜きにして戦力に組み込みにくいのです。

 常に「最悪、替えのきくポジション」へ置くしかない。

 裏を返せば3とも言えますが。

 いかに、傲慢さが人を駄目にするか、まざまざと見せ付けられた思いです。

 実際、彼の同期は皆、すでに何らかの要職を任されています。

 彼だけが役職はおろか、何らかの責任が生じる仕事を任されていない。

 彼が普通に、真面目な勤務態度で居たなら、今頃私はこの立場にないと思います。

 

 そして、(私の勝手な評価としてですが)レシオ3の彼が、レシオ4相当の実力がある“気弱な”人に対して不必要なプレッシャーを与えたり、時には些細な事で恫喝する。

 そうした、気弱だが堅実にこなしてくれるタイプと言うのはテンパりやすく、無駄にプレッシャーをかけた時の戦力ダウンが大きいものです。

 黙って任せていれば、とやかく言わなくても良い結果を出してくれるものを。

 私としても、無視……じゃなくて「応じない権利」を当たり前に行使しているとは言え、やはり常に自分を敵視する人間の視線に曝されるのはプレッシャーになります。

 それは、頭のリソースを多少なりとも消耗します。本来、仕事の為に割り振るべき記憶領域が、です。

 仕事の効率化のための、実験的な行動や試行錯誤もしにくくなります。

 病欠者が多かった日、人員の足りないあるポジションに、自分が手を出して良いのか「わかりきっているけれど、ルールから外れる行動」の許可を所属長に取ろうと訊けば、

「自分でやりゃいいだけでしょ。人居ないんだからさ(所属長に同意を求める体で)」

 と横槍を入れてくる=他人の当たり前の報連相を妨害。

 とにかく、個としての振る舞い以上に、“全”に悪影響を及ぼす意味でもマイナスなのです。

 自分の精神的充足のために、真面目にやっている人達の能力を平気でスポイルするのが、彼らと言う人間です。

 

 このように、組織の秩序を守らない人間に「秩序側の代表として他人を糾弾する」権利はありません。

 誤解を恐れずに言うなら、彼らには正論・正しい事を主張する権利がありません。

 それを認められたければ、先に挽回・修正するべき事があります。

 だから例えば、私がいつぞやしでかしてしまった“横着な積み方”も、理屈の上では(かなりグレーゾーン)とは言え批難されて当然かも知れません。

 しかし、それを行うのは

 だから私は、彼が所属長にお得意の密告をし、所属長などのゲンさん以外の人に怒られて初めて「以後、気を付けます」と、その相手に対してだけ応じています。

 ある種、これも悪質な無視に見えるとは思いますが、ここまで何度も繰り返してきた通り、彼らに「当たり前の批判」を許す事は「明確な殺意」を受ける事にまで直結しています。


 私の態度もまた、相手を、前職で私が受けていた「ルールの輪=人権から外れた存在」として扱う事になるのも、自覚は必要です。

 しかし、一度やられる方を経験した私には「人にされた事をやり返してはならない」と言う綺麗事を貫けません。

 自分の命や尊厳を守る必要があるのなら、使えるものは何でも使います。

 彼らに狙われやすい体質を持つ身としては、我が身を守る事で精一杯です。(何故私が狙われやすいのかは、後々、考察を書く予定ですが)

 また、この第三者を通して初めてリアクションを見せるやり方には、可視化の効果もあります。

 その度に巻き込まれる所属長からすれば面倒で迷惑な事でしょうが、無理を力で押し通そうとする彼らを相手取るのに密室を作ってはなりません。

 それともう一つ、この態度には「自分が相手の言葉に流されないようにする」効果もあります。

 積み方を横着して怒鳴られた時のケースがわかりやすいのですが、彼らは自分を疑うと言う事を為に、その態度も自信に満ち溢れています。

 実際にこの瞬間、私は彼の言う事が尤もだと思い、自分が悪いのだと思い込みそうになりました。

 しかしそこへ、所属長の「ふーん、そうなんだ。まあ、言われてみれば事故の可能性が無くもないから気を付けようね」というリアクションを見て、この出来事の評価を客観的に下す事が出来たのです。

 彼らは常に、虚実・ハッタリを織り交ぜて来ます。周囲がまともであるなら、常に第三者に見て貰う事です。

 ただ、このやり方が成立するにも組織の自浄能力・所属長自体がフライングモンキーにならない前提が必要です。

 それが出来れば苦労しないと言われそうですが、

「公正にジャッジできる職場を選び、仕事における自分の地力を鍛えて、いつでも反論出来るように理論武装を固める」事です。

 それにしても、やはり前回の話でご紹介したように、

「結果的に正しいけど、理解してやってるの? 証拠は? その証拠の証拠は? その証拠の証拠の証拠の(以下略)ほら、即答出来ないじゃないか!」

 と言う論法で、身に付けた能力を奪いにかかって来る可能性があるくらいです。

 

 三年前、パワハラ防止法が成立し、ブラック前職の掲示板でもそれを告知する貼り紙がされました。

 それを見た前職のパワハラリーダー・タケさんは、私にこう言いました。

「これで俺を訴えてもいいけど、アンタが俺の指示にろくに従わない事もパワハラだ。社長のとこに行けば、俺は負けない」

 この言葉には、打算が無いと思います。

 当たり前のように、自分が正しいと信じて疑わず、会社にも自浄能力が無いので、上に話をすれば彼の言う通りになっていたでしょう。

 これが、自己愛性PD上司の、現実です。

 この手の法律あるあるですが、パワハラ防止法が全く抑止力になっていないのは、そもそもパワハラが起こる仕組みや本質に無理解であるから。

 彼らのような人間の存在そのものを、まだ認知していないからです。

 ようやく発達障碍が認知されたり、サイコパス(反社会性PD)と言う言葉がドラマやバラエティ番組で面白半分に挙げられるレベルが、この国の現状です。

 ゲンさんやタケさんのような人達の存在が、このレベルに認知されるには、まだ10年は掛かるのではないでしょうか。

 

 自分の身は自分で守るしかありません。

 他人の人権を無視した人間に「俺にも人権があるんだ!」と言う資格はありません。

 これが銃撃戦だとして、先に撃ってきた方が「撃つな、人殺し!」と言うのは、敵を武装解除させてその隙に相手を射殺する為の話術です。

「ちゃんと向き合って話し合おうよ」

 と情義に訴えかけてくるのは、リンチの場に誘い込む罠です。

「無視するな!」

「話し合うべきだ!」

 我々は、彼らの親ではありません。

 関り合いにならない“権利”、そして責任があります。

 他の人に対しては当たり前の誠意である事を、彼らに対しても同じように尽くすと、相手のフィールドで一方的に嬲り殺しにされるだけです。

 それでもなお、彼らも同じ人間だから誠意は必要だと思われるなら「私はあなた様の言う通り給料分の働きをしていません。お納めください」

 と言って、毎月、“返金”すると良いでしょう。

 うまくすれば、相手の気分次第で攻撃の手が緩むかも知れません。

 彼らの一見して「当たり前の要求」とは、お金を払わずに商品を得る権利だけをごまかした、万引き犯の論理です。

 

 そう言う人達の実在を、まず認知して、明日は我が身と危機感を持ちましょう。

 

(※1)

 これについては、詳しくは書きませんが、彼の経歴を聞くと仕方がない面はあります。

 指示なしに勝手に動いてはいけない世界から来た人が、ある程度の自己判断も求められる世界に馴染むのは、かなり苦労を伴うかと思われます。

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