第9話
「『千石グループの御令嬢、変死体で見つかる』だって。お兄ちゃんはどう思う?」
タブレットでネットニュースを見ながら、椅子に座ってグルグルと回りながら凪紗はそう俺に問いた。
ソファで寝っ転がっている俺は、天井を眺めながら適当に返す。
「まあ、ネットの情報は当てにならないってことかな」
「私、スマホが欲しいわ。インターネットというものに興味があるの」
俺の視界いっぱいに映り込んできた死んだはずの千石は、自分の死亡ニュースを聞いても眉一つ動かさなかった。
今回の千石の頼み事は面倒くさそうなので、凪紗に振った。
「凪紗、千石のためにスマホの契約とかしてやってくれ」
「んー、まあ別にいいよ。1番高いの買おうよ。10億円もあるんだからさー」
「ありがとう、凪紗ちゃん」
「別に気にしないで」
どうしてネットニュースで死亡と書かれたはずの千石がここにいるのか。
ちなみに言うと、ここにいる千石楓は幽霊とかではない。しっかりと生きている。
千石の体型に似た代わりの死体を変死体として用意し、検死できない程の状態で千石家の屋敷に置いといた。
一応念には念をということで、現在の警察庁長官のつても使って捜査もすぐに終わらせた。
昔、彼から殺しの依頼を出されたこともあるので、今では持ちつ持たれつだ。
すでに世の中では千石楓という少女は死んだことになっており、俺や凪紗と同じ扱いである。
依頼をしっかり遂行できたことにもなっており、10億円もしっかり振り込まれていた。
「千石、どこか行きたいところはあるか? どこにでも連れてってやるよ」
「そうね⋯⋯イタリアに行きたいわ」
「海外かよ!」
「本場のイタリア料理というものを食べてみたいわ」
そう言いながらどこから取り出したのか、「海外 旅行雑誌」と書かれた雑誌のイタリアが記載されているページを俺に見せてきた。
「まあ、金ならあるしな。凪紗も行くだろ?」
「私も行っていいの? 新婚旅行なのに?」
「おい、俺と千石はいつ結婚したんだよ」
「私も凪紗ちゃんが来てくれた方が嬉しいわ」
「そ、そう? じゃあ私も行こうかな⋯⋯」
千石に対して、謎のデレを発揮する凪紗。
みんなで行った方が良いに決まってるし、そもそも凪紗を日本に1人で残せるはずがない。
こいつは生活力のかけらもないのだ。
無理矢理にでも連れて行くつもりだ。
「それじゃあ、早速計画を立てるか」
「私はもう行きたいところはあらかじめ決めておいたわ」
「私はみんなに合わせるよー」
殺し屋稼業から足を洗った俺と凪紗は、千石楓という大切な家族を手に入れた。
残りの人生は、今までの依頼の報酬金で生きていこうということにもなった。
結局、俺と凪紗は千石のことをいたく気に入ってしまったのだ。
「次の目的地はイタリアかー」
「ええ、とっても楽しみだわ」
そう言って笑う千石の笑顔には、もう一点の曇りも無かった。
今日も君を殺せなかった ムイシキ @mukushiki
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