魔剣サルトゥリニアスの契約 Vol.2

「そのセイコーというダイレクトな言葉遣いはやめてくれないか?」

「〇●ックスとかオメ×とか言えばよいのかの?」

「だからやめい」

「それより、急がんとそなた、死ぬぞ?」

「グルルルルルル」「グルルルルルル」

「どうして?」

「ソウゲンオオカミの群れに囲まれておるからの」


 俺は咄嗟に足元に転がっている剣、えーとこれが魔剣サルトゥリニアスの本体なわけだよな、それを持ち上げようとした。まったく持ち上がらなかった。びくともしない。


「エナジーが切れておるから無理じゃよ。だから供給をせよと言うに」

「セイコーとロレックスとオメガ以外の手段を言え!」

「粘膜の接触」

「他にないの!?」

「まったくないわけではないが、この状況を打開し得る手段だとそれしかない」

「じゃあ分かった! やれ! 大人の事情の範囲内で!!」


 中空に浮いていたサルトゥリニアスの分身がひょいと着地し、そして、その両手が俺の頬に添えられて、そして、そいつの唇が俺の唇を奪った。重なり合った皮膚と皮膚の間から、なにやら‟にゅるん”としたものが侵入してくる。キスされた、そして舌を挿れられたのだ、と気付くまでに一秒かかった。


「~~~!! ん~!」


 あああああ。こっちは初めてだというのに。なんという。あああああ。なんということだ。


「うっさいのう、未通娘おぼこでもあるまいに……ほれ、これで振るくらいはできるようになったはずじゃ」


 俺は二呼吸ほど深呼吸をして、屈んで剣を拾い、ソウゲンオオカミとやらの群れに向き直った。剣が軽い。扱ったことがあるから知っているが、剣道で使う竹刀よりは重く、木刀よりは軽いくらいの塩梅になっている。これならいけそうだ。いちおうこれでも多少の心得はあるし。


――――――――――――――――――――――――――――――――

(既出力文字数 700文字)


「ふむふむ。まあ、確かにPG-12くらいだな……」


(ゲイズ・アナライジング トレースオン 視線分析を開始します)

(並びにハートビート・アナライジングを開始します)


(‟粘膜の接触”注視時間 8.97秒)

(‟キスされた、そして舌を挿れられたのだ”注視時間 10.34秒)

(両注視時間における心拍の上昇を確認しました)


(セールスアピールを開始すべきタイミングと判定します)


 AI作画によるイラストレーションの出力が可能です

 イラストレーションの出力はライトプランのサービス内に含まれております

 イラストレーションを出力いたしますか


「シーンとか選べるの?」


 一行単位でお選び頂くことが可能です


「『そして、その両手が俺の頬に添えられて、そして、そいつの唇が俺の唇を奪った。』の場面を頼む」


 承りました


 イラストレーションを出力しています……

 イラストレーションを出力しています……

 イラストレーションを出力しています……


 バーチャルボイスロイドによる音声の出力が可能です

 音声を出力いたしますか


「する。『うっさいのう、未通娘でもあるまいに』を頼む」


 承りました


 音声を合成しています……

 音声を合成しています……

 音声を合成しています……


『うっさいのう、未通娘でもあるまいに』


「おおー、本当にボイスが出るんだ……」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 まあそんなこんなでソウゲンオオカミを退治して、その毛皮を(サルトゥリニアスに説明された通りのやり方で)剥ぎ取って回収し、そしてそれを近くの街のアイテム屋に持ち込んで売り飛ばして小金を得た俺は、とりあえず今夜一晩の宿を得ることにまで成功していた。ちなみに街の中でも言葉は日本語が普通に通じた。


「ではな。わらわはエナジーを使い果たしてしまったから、寝る。起こすでないぞ」


 サルトゥリニアスは肌着だけの姿になって、さっさと一人で横になってしまった。俺は困った。ベッドは一つしかないぞ。そんなに高い部屋は取れなかったし。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「もう一回イラストレーションを出力してくれ」


 ライトプランにおけるイラストレーションの出力は二十四時間あたり一枚までとなっております


「だぁー!」


 プレミアムプランにおいては無制限のイラスト生成、並びにボイス出力が可能です


 プレミアムコースにご変更なさいますか


「する……」


 オンライン決済を承っております……

 オンライン決済を承っております……

 オンライン決済を承っております……


 ご契約が成立しました


 ありがとうございます 竜崎海人様


『AIライトノベルライター』の世界はあなたのものです


「イラスト『サルトゥリニアスは肌着だけの姿になって、さっさと一人で横になってしまった』」


 承りました


 イラストレーションを出力しています……

 イラストレーションを出力しています……

 イラストレーションを出力しています……


「うーん、可愛いけど……しょせんPG-12だなあ……あの、登録した年齢って変更できない?」


 年齢登録の変更は承っておりません


「だよねえ」


 ただし全レイティングを登録年齢に関係なく解放するコースが一つだけございます


「何!? それはどんな!?」


 手動アナログノベルライター養成コース‟ナローザノベラー”をご案内いたします

 本プランの月額料金は——


「だぁー!」


【終】

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魔剣サルトゥリニアスの契約 きょうじゅ @Fake_Proffesor

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