エピローグ

 それから月日は流れ、ある年のよく晴れた夏の日のこと。僕はいつかの約束を果たすために、あの場所を目指していた。


 半世紀前と同じように祭りで賑わう人混みの中を、君に会うために、ただひたすらに進む。


 やっと会える。やっと……どれだけこの日を待ちわびたか。


 君がいなくなってからも、君の面影が色濃く映し出される季節に、君と見た花火が打ち上がる。けれど、そこに君はいなくて、分かっているはずなのに涙が止まらない。どう足掻いても、君との思い出は過去のもの。それはわかっているけれど心の中で思うのは、いつだって君と過ごしたあの日々だった。


 草むらをかき分けて僕はあの場所を目指す。時間の経過が与えたものは、膨れ上がる君への想いと、伸び切った雑草だったといまになって気づく。


そして


ようやくあの場所が見えてきた。


 まるで用意されていたかのように昔のまま、花火の光に照らされてその場所は存在した。

しかし僕の目に映った光景は、僕が思っていたそれとは程遠いものだった。


……いない


 どこにも琴葉がいないのだ。辺りを見回すが彼女の姿は見当たらない。


 --ああ、もう、夢は覚めていたのか--

 

 そう思った時

「……雅彦」

背後から声がした。ハッとして振り返ると、

そこには琴葉が涙を流しつつも、あの笑顔を浮かべて僕を見ていた。続けて彼女はこう言う。


「待ってたよ…」

 僕は彼女の方へと走る。そのまま彼女に抱きついた。


「お願い…聞いてくれて、ありがとう……

遅くなってごめん」

 僕はそう言う。夜空にはあの時と同じように美しい花火が咲いている。


 ああ、やっぱりこの花火は、

君のいない世界でなんかより、

君がいるから、美しい。


 僕らの青き日々を彩った花火が空に咲く様を、君がいる世界で、


 いつまでも、君の隣で眺めていた。




 




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君と見た花火を、君のいない世界で僕は 鍛治谷 彗 @natukaze_novel

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