第47話 休む、とは
検査で魔力が極端に減っていることが判明したから、長期の休養をとることになった。生徒には、各クラスの担任から伝えられる。できればわたしから言いたかったが、効率性とできるだけ早く休養をとるようにとのことから、それは叶わなかった。
「休養と言っても……」
ここ数か月の休日を思い出してみる。仕事があるから普段できていない家事をしているくらいだった。休養中って何もしてはいけないわけではないよね……?
「よし!」
一日目は掃除をした。二日目は前日にできなかった場所を掃除した。三日目は布団や乾かすのに時間がかかりそうな衣類を洗濯した。四日目は……。
「もう、やることが……あ、凝ったお菓子でも作って……でも、あのお店が一番おいしいし……」
わたしが供給という仕事に就くきっかけになった理事長と出会ったあの菓子店。久しぶりに行ってみようかな……。少しの外出くらいなら許されるよね。
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カランカラン
「いらっしゃ……あら、グレースさん! お久しぶりですね」
「お久しぶりです……」
店長は全然変わっていなかった。訪れていなかったわたしのことも覚えていてくれた。
来店したらいつも買うお気に入りのケーキと期間限定の文字に惹かれたケーキ、それに焼き菓子を少し購入した。
「あれ?」
注文した商品以外の甘味も入っていて、店長の方を見遣る。店長は柔らかく笑い、内緒話のジェスチャーをする。わたしはそれに従って、耳を寄せる。
「お久しぶりのご挨拶とお礼です。あと……少し元気がないようだったので」
「え……あ、でも……」
「ふふ、店長特権です!」
店長は軽くウインクをして、「またのご来店を」と別れの挨拶をした。本当にいいのだろうか……。わたしは、今、何もできない人間なのに。もう一度店長を見ると、ひらひらと手を振りながらにっこりと笑っていた。店長の厚意を無下にはできないから、有難くもらっておこう。
菓子店を後にし、帰路へ着く。まだ太陽は天高かった。ちらりともらったお菓子を確認する。
「たしか、これ……」
以前、イーゴンくんが好きだって言っていたような。いつだったか、理事長にねだっていたはず。
「ふふ。……戻りたいなぁ……」
家に帰る道すがら、学園で過ごした日々を思い返していた。
最初の頃は、供給室が学園の端っこで遠いなぁ、なんて思っていたっけ。供給室に必要な物品が揃っていくのは、わくわくした。同時に、きちんと働けるか不安でもあった。
それから、正式に先生になる前にお試しの供給を彼にした。
「……レオくん……」
思い出す記憶の中には、必ずと言っていいほどレオくんが存在していた。学園にいる時はレオくんがずっと傍にいたんだ。
――俺は先生が……っ
「っ!」
このことはもう解決したんだ。だって、彼はあれを忘れたくて……。
「……っ?」
頬が濡れる感覚がして足を止める。見上げてみたけど綺麗な青空が広がっていた。しずくを拭って出どころを探ってみたら、瞳に辿り着いた。どうして、涙が……?
魔力が減っていると告げられて、気落ちしてしまっているからだろうか。今日はお気に入りのケーキを食べて早く寝よう。
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