第46話 精密検査
次の日、無事に退院できた。家に帰ったのは夕方になる少し前だったから、学園に行くことはやっぱりできなかった。理事長からしっかり休むように言われているけど、戦場から戻ってきた時に待ち望んでいた生徒がいたことを知ってしまったので、そう長くは休んでられない。
「それに、一晩入院したからか、すっきりしてるし……」
点滴が効いたのだろう。明日には出勤できるはずだけど、理事長に精密検査がしたいって言われていたんだっけ。どのくらい時間がかかるだろうか。たくさん検査をするだろうから、明日の供給もできそうにない、かな。
「はぁ……」
わたしは魔力があって供給できるから学園にいられるのに、自分の体調管理ができていなかったせいでそれができない。身体は元気になったけど、心は少し落ち込んでしまう。
検査、早く終わってくれるといいな。そう願いながら、いつもよりも浅めの時間に床に就いた。
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――翌日。
しっかり寝たから頭も晴れやかで、絶好調と呼んでも相違ないくらいだった。早めに家を出て、理事長室に直行する。
コンコンッ
「おはようございます」
「!? グレース先生!? どうしてここにおるんじゃ! 休養は……」
「一晩入院したら元気になりました! ご心配とご迷惑をおかけしてすみません……」
「いや、わしは、長期で休んでいいって意味で言ったんじゃが……」
理事長は困ったように長い顎髭を撫でる。
有難いけど、長期でなんて休んでられない。それに、過労が原因なら以前よりセーブして働けばいいだけだし……。とにかく、今は元気なことを理事長にアピールする。
「わたしは本当に大丈夫です! あの、それで、精密検査というのは……」
「グレース先生がそう言うならいいんじゃが……。身体の方は病院でやってもらったじゃろうから、ここでは魔力の方を診るぞ。早速、研究棟に行くかの」
「はい!」
理事長は椅子から立ち上がりドアへと向かう。わたしも追いかけて一緒に研究棟に行く。
魔力の検査かぁ……。何もないといいけど。
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この学園に初めて来た時と同じような検査をした。魔力がどのくらいあるのかとか、供給はうまくできているかとか。質が変わっていないかも調べた。
検査している間、職員の表情が曇っていくのが少し気になった。過労で倒れたのが何か影響しただろうか。
「本当か? 間違いないのか?」
「……はい、理事長」
「ううむ……どういうことじゃ……」
頭を抱えるように唸る理事長から察するに、悪い結果が出たのだろう。純度が下がった、とか……? 多少純度が下がったとしても供給に問題がなければ、まだここで役に立てる。祈るように理事長の言葉を待つ。
「……グレース先生」
「は、はいっ」
「検査の結果じゃが……どうやら、魔力が極端に減っておるようじゃ……」
「……え?」
魔力が減っている? どういうこと?
たしか、初めて検査した時には無尽蔵に生み出されているって……。生み出されているのに、減ることなんてあるわけ……。
なにかの冗談かと思い、理事長の方を見ると、そんなつもりで告げたわけじゃないことは明白だった。そもそも理事長はこんな悪質な嘘を吐くような人じゃない。
「先ほど、供給の検査もしたじゃろ? その職員が、どうも、満杯になってないと言うとるんじゃ。グレース先生はもちろん、満杯まで供給したじゃろうから……」
「っはい! 間違いなく満杯まで供給しましたし、魔力が返っ、て――」
魔力、返ってきてた……?
そういえば、送り込んでいる時も以前は滝のように魔力が唇から溢れていたけど、先ほどの検査では、ゆるやかな小川のようだった、気がする。魔力が少なくなったから、わたし自身も魔力を感じにくくなってたの……?
「……グレース先生?」
「あ、あの、わたし……!」
「ああ、大丈夫じゃから、落ち着いて落ち着いて……」
混乱するわたしを理事長は優しく抱き締めてくれる。わたしもできれば落ち着きたい。でも。
魔力……いつから減っていたの……?
倒れてから? それとも、もっと前から……?
倒れるより前から減っていたなら、わたしは、生徒に、何を供給していたの……?
「……本当に、減っているんですよね……? 過労で倒れたのが原因とか……」
「正直、それはわしらにも分からん。なんせ前例がないからの。倒れてすぐじゃから、しばらく休んだら元に戻るかもしれん」
「休養、ですか……」
「うむ。休んだからといって必ず回復するとは限らんが……試してみる価値はあるじゃろう」
理事長の言う通りだ。わたしのように女性で魔力があって供給できる人物なんて他に見つかっていない。ここにいる全員、魔力が減っている原因を知っているわけがない。
倒れて身体のバランスが変わったからかもしれない。だから、まずは休養をする。
ついこの間、長い期間戦場に行っていたのに、またしばらく供給室を空けることになりそうだ。
休養しても元に戻らなかったら、また別の方法を試す。どんな方法でも、どれだけ時間がかかっても、何度でも、魔力が回復するまで試す。
だって、供給は、わたしの存在意義だから……。
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