第38話 ロミーとジュリア 前編
重厚感のある講堂の扉を開ける。舞台では楽器の演奏が行われていた。まだイーゴンくんのクラスの劇は開演していなかった。よかった、間に合った。ホッと胸をなでおろし、空いている席に座る。
薄暗い中でパンフレットを開いて確認する。どうやら、この演奏の後がイーゴンくんの出番らしい。演目は……ロミーとジュリア? 名前が似ているけど、有名なあの作品をアレンジしたのかな。ほとんど観劇したことがないわたしでも知っている。たしか、対立している家の男女が禁断の恋に落ちてしまい、最後は齟齬が生じて二人とも死んでしまう、そんな悲しい恋物語。
きっとイーゴンくんはジュリエット……じゃなくてジュリアの方を演じるのだろう。お姫様役って言っていたし。
そんなことを考えていたら、演奏が鳴り止み拍手が上がる。楽器の演奏をしていた団体の出番が終わったことを知らせるアナウンスが流れる。講堂内の電気がつき明るくなったので、時計に目を遣る。イーゴンくんの劇はおよそ10分後に開演だ。
既存作品をアレンジしたのならどんな展開になるか分からないから、楽しみだ。
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開演のブザーが鳴り幕が開く。
「とある国にあるとあるふたつの家。両家は代々対立していました」
ナレーションと思われる生徒の語りが講堂内に響く。やっぱりあの作品を元にしているようだ。
「対立の理由はさまざま。あれが気に食わないだとか、これが相手より優っているのに世間的には相手の方が上に見られているだとか。とにかく、両家は長年争ってきました」
もうアレンジが加えられているような……。独創性がある生徒が書いたのかな。
「両家にはそれぞれひとりの子どもがいました。現在の争いの火種はそんな子どもたちにあるようです」
思っていた内容と全然違うものが読み上げられ混乱しているところに、イーゴンくんが舞台に現れてくる。煌びやかなドレスを着ていて、彼にとっては少し背伸び気味だがとても似合っている。
「A家の娘の名はロミー」
ロミーの方が娘なのか。男女を逆転させているのだろうか。そんな予想はすぐに裏切られる。
しかし、それどころではなかった。190センチを超える巨体がドレスを纏って舞台に歩いてきた。ル、ルカ先生!?
「B家の娘の名はジュリア。両家はどちらの娘がかわいいかで争っていました」
突然の衝撃にナレーションが全く頭に入ってこない。というか。
「ふ、ふふ……っ」
笑いがこらえ切れない。他の観客も同じなのか、あちらこちらから笑い声が聞こえてくる。
ここで思いっきり笑ったら劇を台無しにしてしまう。で、でも、あれは……。
「んんっ! ……ふふ」
もう一度舞台に視線を向けると、どちらがかわいいかの三番勝負が行われようとしていた。負けた方は死ぬらしい。物語のラストで死ぬのは原作準拠だろう。どうしてそこだけは忠実なのか。
ドレスを着たルカ先生のインパクトと内容のはちゃめちゃさとで、悲劇を元にしたとは思えないほど講堂内は笑いに包まれていた。
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