第37話 魔法のショー 後編

「ケイレブくん、お疲れ様です!」


 ショーが終わって教室から出て行く観客とは逆の方に進み、ケイレブくんの元へと向かい声をかける。


「とてもすごかったです! 炎が飛んだり、水を自在に操ったり、この間ルカ先生がやっていたようなゴーレムまで出していて……! アクロバティックもあって……」

「……別に、普通だろ……」

「そんなことないですよ! しかも、魔法をただ出すだけでなく物語ができていましたよね。見た目の派手さと内容の精巧さとが上手く噛み合っていて……とにかく、面白かったです!」

「……あっそ」

「センセ、楽しんでくれたようでなにより」


 ケイレブくんの後ろからリーダーの生徒が現れる。熱のこもった感想を聞かれてしまった。ひとりで盛り上がっていて少し恥ずかしくなる。でも、本当にすごかった。これまでの人生で魔法を見たのは数えられるくらいだ。どれも戦闘のための魔法。こんな、人を楽しませる魔法は初めてだったから。


「……とても、楽しかったです!」

「それはよかった。んじゃ、センセから何かお返しもらおうかな」

「お返し、ですか? えっと……」

「俺ら、今日はあと3回だっけ、公演あるから、センセから魔力もらっておきたいんだけど。まあ、魔石の準備はしてあるし、なくても……」

「供給ならお安い御用です!」

「はは、助かる。おい! 順番に供給受けろ!」


 教室内にいる生徒たちが列をなして、わたしの前に来る。一般のお客さんには見えない位置なことを確認してから供給を行う。あくまで供給という行為だけど、何も知らない人から見たらキスそのものだから、余計な誤解を受けないようにしないと。

 ショーということもあって授業ほどは減っていなかったが、残り3回やるには魔力が足りない生徒もいくらかいるようだ。早めにここに来れてよかった。


「んっ……、最後はケイレブくんですか」

「……」

「ふふ、供給室では自分を一番にしろって言っていたのに、今日は最後なんですね」

「うるせぇ!」

「供給しますね……っ」

「! ……はぁ」


 ケイレブくんは恍惚とした表情を浮かべる。普段の彼とは大違いの表情に思わず頬が緩む。いつもの供給業務でも気持ちよさそうな顔になる生徒はいるが、彼ほど供給する前後のギャップがある生徒はそういない。

 わたしが見つめていることに気付いたケイレブくんは、慌てて表情を戻しこちらを睨んでくる。


「見てんじゃねぇよ!」

「今日の放課後も供給室に来ますか?」

「…………」

「ふふ、お待ちしてますね」

「……クソッ!」


 彼はやっぱりわたしの魔力がお気に入りのようだ。沈黙が肯定になっていると分かったのは最近だけど。


「センセ、供給ありがとね」

「いえ! 明日もショーがあるようでしたら、仕事次第ですが、供給しに来ますよ」

「いや、俺らは今日だけだから」

「そうですか……明日だけ来る人は見られなくて残念ですね」


 こんなにも素晴らしいショーを見ずに終わるなんてもったいない。このメンバーでのショーが見られるのは今年だけなのだから。


「俺が卒業しても、来年またやってほしいけどなぁ。なあ、ケイレブ?」

「オレはどうでもいい」

「はは、そう言うなよ」

「あ、おいっ!」


 先輩に頭をぐしゃぐしゃと撫でられるケイレブくん。供給室でもヒューゴくんたちと話している――おおよそ言い合いだが――ところを見ることはあるけど、今みたいな接し方をされているのは新鮮だ。リーダーの彼の技量なのだろう。

 微笑ましい光景の奥の時計がふと目に入る。


「あっ!」

「お、どうした、センセ」

「あ、えっと、そろそろ次のところに行かないといけなくて……」

「ああ、そっか。悪いな、長く引き留めて」

「いえ! 残りの公演も頑張ってください!」


 そう告げて実技棟を後にする。次はイーゴンくんの劇がもうすぐで始まるはず。場所は学園内で一番大きな建物である講堂だ。劇などの舞台や照明を必要とする出し物が何組か行われる。急ぎ足で向かった。

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