第33話 久しぶりの学園

「あれ? ベネット先生じゃないですか! いつお戻りになられたんですか?」

「2日ほど前です。その節はみなさんにご迷惑をお掛けして……」

「そんな! 無事に戻られたようで何よりです。私のクラスの生徒たち、供給はまだないのかーって嘆いてましたよ」

「それは有難い限りです……!」

「っと、そろそろ朝礼ですね」


 同僚の先生はそう言って自分の席に戻って行った。

 ここに帰ってきたのがちょうど学園が休みの日で、その休みが明けた今日、仕事を再開した。理事長には事前に報告済みでもっと休んでいいと言われたが、供給を望んでいる生徒がいると聞いた今、休まなくてよかったと改めて思った。

 続々と先生が着席し、朝礼が始まる。


「まずは、供給室のベネット先生が戻られたので、今日から復帰しています。担任の先生方は生徒に周知をお願いします。それから、ベネット先生。一言挨拶を」

「へっ? えっと……先日、戦場から戻ってまいりました。不在時はご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。本日から復帰しますので、よろしくお願いします!」


 パチパチと軽く拍手の音が鳴る。

 まさか挨拶をと言われるとは思っていなくて咄嗟に考えた内容だったが、不備がなくてよかった。ドキドキする心臓をなだめるように胸を撫でる。


「それから、そろそろ恒例の学園祭が行われます。当日の役割リストを後日配布いたしますので、確認よろしくお願いします。……何か連絡事項のある先生は……いないようなので、朝礼を終わります」


 その言葉を合図に、それぞれの持ち場へと散り散りになっていく。

 学園祭……? 恒例と言っていたから毎年あるのだろうか。初めて聞く耳慣れない単語に疑問を抱きながら職員室を出ると、そこにはルカ先生がいた。彼も教室に行くところだろうか。


「あ、ルカ先生」

「おかえり、なさい……」

「! た、ただいま戻りました!」


 普段口数が少ないうえに、あまり表情筋も動かないルカ先生の口元が緩んだように見えたのは気のせいだろうか。前髪から覗く目尻もほんの少し下がったような……。ルカ先生の顔をじっと見ていたら、目が合い視線を逸らされる。

 ルカ先生とそれほど交流がないが、彼はどうやら人と関わるのがあまり得意ではないらしくて、他の先生ともあまり会話している場面を見たことがない。いつだったか、先生の誰かが言っていたが、元々は先生になどなりたくなかったが優秀な魔法士だからと国指定の魔法教官にされたとか。確かに、ルカ先生の魔法はとても綺麗で唯一無二だった。優秀で国から指名されるのもうなずける。


「あ、そういえば!」

「……はい?」

「朝礼で学園祭と言っていましたが、何をするんですか?」

「ああ、グレース先生は、初めて、でしたね……」

「はい! 祭とつくくらいですから、楽しいことなんでしょうけど……」


 ルカ先生は顎に手をおいて少し考える素振りを見せる。朝の忙しい時間に聞くことではなかったかな。申し訳なく思っていると、彼の口が再び開いた。


「学園祭は、生徒が主体で……舞台や、屋台など……それぞれで、出し物を、するんです……」

「舞台や屋台ですか……!」

「先生が、戦場にいた間に……すでに、準備も、始まってます……」

「わ、わたしも参加していいんですか?」

「はい……朝礼で言ってたように……当日、2日間あるんですが、仕事が、割り振られるので……それ以外の時間は、自由に学内を、見て回ることはできます……」

「わぁ……! 今から楽しみです!」


 そんな話をしていると、ちょうど朝のHRの開始を知らせるチャイムが鳴った。ルカ先生は「では……」と言って教室へと急いで行ってしまった。わたしも生徒が供給に来る前に備品の確認をしたかったから、早足で供給室に向かった。

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