第21話 魔石をめぐる争いへ 後編

「……実は、軍の上層部から打診があってな、」

「打診?」

「打診と言うにはあまりにも強制的、やけどなぁ」

「グレース先生に魔力があること、魔力を供給できることは国の機関にも伝えてあるんじゃが……」

「え、あ、そういえば検査の時に、今後のためって仰ってましたね!」


 魔力があると分かったあの日、さまざまな検査をされその結果を報告書にまとめて職員方がああでもないこうでもない、とわたしの身体の仕組みを考察していた。王立なだけあって優秀な人が多かったけど、それでも解明のしようがないからより適切な機関に検査結果を送るから、個人情報にもなるから承認を、って言われてたっけ。


「うむ。……それで、魔石を持っていくより、グレース先生ひとりを連れて行けば、物資が少なくてすむから派遣しろ、と言われておってな」

「派遣……戦場に行くってことですか?」

「非力で戦う術を持たない女性を派遣するのには反対したんじゃが、国には逆らえんでな……申し訳ない」


 そう言って理事長は頭を下げる。理事長が謝ることはなにもない。軍からの指令なのだから。それに、物資――もとい魔石が減ればそれだけ食糧や医療用品などを多く持って行けるから合理的だ。だけど、怖くないかと言われれば怖い。怖さしかない。いくらこの国が強いと言っても戦場では何が起こるか分からない。死ぬこともあるだろう。そう考えたら背筋がゾクッとした。それでも……。


「……わたしが行くことで、多くの人の役に立てるんですよね。だから、行かせてください!」

「……前線だと聞いておる」

「前線……。っ大丈夫です!」

「……先生、断ろうと思えば、おれのこと頼ってくれれば、多少無茶はせんとやけど断れますんで、」

「……本当は行かせたくないんじゃ。魔力があるとか回復するとか以前に、わしはグレース先生が大切なんじゃ……」



 理事長は立ち上がってわたしのことを抱き締めてくる。その大きくて温かな腕の中は慈愛に満ちていて涙が出そうになった。断りたくないと言えば嘘になる。けれど、わたしに魔力があると分かったあの日、初めてわたしがわたしとしている意義を感じた気がした。


「すまんすまん、つい感情が昂ってしまってな……。派遣されてる間は優秀な魔法士が常に護衛してくれることになっとる。それから……」


 理事長から今後の日程など必要事項を教えてもらった。2日後の出発となるそうだ。思っていたよりも早い出発になりそうだ。期間は決まっていなくて争いが落ち着いたら戻ってこられる、と。明日から学園の供給室は閉めておくらしい。いろいろと準備もあるだろう、と理事長が出発前から休みを設けてくれた。大荷物を持っていくわけではないが、せっかくの厚意だから有難く休ませてもらおう。

 供給が急になくなったら、魔石酔いがある生徒は困るだろう。ケイレブくんが一番困るかな。なんでいなかったんだ、と怒ってくる顔が容易に思い浮かぶ。イーゴンくんとまた一緒にお昼ごはんが食べたいし、ヒューゴくんには教えてもらっていないことがまだまだある。レオくんはわたしがいなくてもしっかりやってそうだけど、帰ってきたら満面の笑みで迎えてくれるんだろうなぁ。


「ふふ、」


 また彼らとの変わらない日常が早く戻るように、戦況が落ち着いてくれることを願うばかりだ。

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