第19話 魔法初見
「……まず、火属性の試験は、的当てと、火力のコントロールが、ほとんどの場合、あるでしょう……応用題としては……」
ルカ先生が彼らに教えるのを少し離れてイーゴンくんと眺める。授業、ではないけどルカ先生が教えているところを初めて見たけど、イーゴンくんが言っていたような最低限のことだけやっている、という感じではなかった。そもそも、本当にそうなら今日の勉強会を断っていただろう。渋々ではあったけど……。
「……イーゴンくんが言うほど、無関心な人じゃなさそうですけど」
「……暗い性格してるけど悪い人じゃないことは分かってるよ……。でも、ぼくを特別に見てほしいんだもん……」
頬をぷくっと膨らませる彼が微笑ましくてつい口元が緩む。
そういえば、魔法が使われているところをあまり見たことがない気がする。魔石を求めて各地で戦争が起こっていることはよく聞くが、このアルキュサス王国は世界の中でも大きな国で、その大きな国の都市部、しかも魔石採石場からずいぶん離れているともなると平和そのもので日常生活をしているだけではそうそう見る機会がない。特に女性は。
「……では、モーガイくん、的当て、してみましょうか……」
「はっ! んなの、余裕だってのっ!」
そう言った瞬間、ケイレブくんの手のひらから炎が的へ向かって放たれる。軽く放物線を描くのもあれば、ものすごいスピードで真っすぐ飛んでいくのもあって、まるでなにかのショーを見ているかのようだった。
「す、すごい! 炎が出るだけでなく、ああやって操れるものなんですね……!」
「……別に普通だろうが……、」
「繊細に操るのも魔力使いそうですね……。こんな授業が一日に何回もあると、さすがに魔力がなくなりますよね」
ケイレブくんだけでなく毎日のように供給に来てくれる生徒は結構な数いる。魔力の量が少ない子ならまだしも多い子もよく来ていて不思議だったけど、これだと消費も激しいだろう。模擬戦なんてあったらもっと減るに違いない。これからもしっかり供給していかないと。
「……えー、では、私の魔法で、ゴーレムを作るので、それを3人で、戦ってみましょうか……」
「……ゴーレム?」
「ルカ先生は、土と水のふたつの属性を持つ魔法士だからね」
「へー……!?」
ルカ先生が魔法を放つと土の巨人のようなものが出来上がる。その大きさにも驚いたが、それよりも魔法がとても綺麗だった。たしか以前に、魔力の純度を指摘される度にルカ先生の名前を並べられていた。感じる魔力は他の人とそう変わりないはずだけど、魔法になる時がノイズが一切入らずなめらかで。ケイレブくんの炎は多少のざらつきのようなものがあったのに。
魔法や魔力のことはまだまだ勉強中だから詳しいことは分からないけど、それでもこの魔法が他の人よりもいいものなことだけは分かる。
「すごいでしょ」
「っはい! なんであんなにサラサラというか、綺麗なんですか?」
「ぼくにも分かんない。魔法の性質ってほとんどは生まれつきだから、努力でどうにかなるものじゃないんだよね」
「そういえば、ヒューゴくんもそのようなことを言っていました。生まれつきですか……」
生まれつきなら、わたしの魔力はなんだろう。小さい頃は魔力があるなんて言われたこと一度もなかった。その時点で魔力があったなら、学校で指摘されていただろう。後天的に突然湧いて出てきたのか。そんなことあるわけ、と考えていたら、3人がすでに数体いたゴーレムを倒していた。
「……連携も、悪くない、ですね……試験、問題ないと、思います……」
「はっ! 当たり前だろうが!」
「君の問題は座学だけどね」
「うるせぇ!」
「先生、見てましたか!」
ケイレブくんとヒューゴくんは言い争いをしながら、レオくんは大型犬のようにこちらへ小走りで向かってきた。実技の練習が終わったのなら、供給をしなくては。
「ひとりずつどうぞ!」
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「……カナタ様、こちらが例の調査結果です」
「ありがとな。……うーん、まあだいたい予想通りやなぁ……。避けたいって家のモンは言うとったけど、無理やったかぁ」
「それで、例の女性は?」
「……できれば派遣させたくないんやけど、お気に入りやし。前線とは言えウチは負けへんやろうし、送れって主は言うやろうなぁ」
「彼女がいれば物資の量も減りますしね」
「しゃーない、理事長に相談するわ。助かった」
「いえ、」
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