第13話 回復魔法の使い手は小悪魔系男子 後編
「ワルデン君は、つい先日まで軍の方に呼ばれておってな、そっちで仕事をしてたんじゃよ」
「軍、ですか。在学中にも派遣されるんですね」
「わしの方針としては、教育がしっかり終わってから預けたいんじゃが、彼は特例でな。回復魔法があれば、傷の治療に物資を必要とせんからの」
「なるほど。……それで、軍のお仕事が終わったから復学、ということですか?」
「そういうことじゃ。回復魔法はまだ分からないことが多いんじゃが、彼の特性として魔力の代謝が他の人より良くてな」
「代謝?」
「セルヴァン君から、魔法を使わなくても魔力がごくごく微量ながら流れ出ていることは聞いているかの? 普通の人ならそれが身体に影響することはほとんどない。じゃが、ワルデン君の場合は、普通の人が魔法を1回放った量くらいが1日に流れ出るんじゃ。彼の魔力の量はどちらかと言えば多い方じゃが、それでも補給の回数は他の人より多くなるんじゃ」
「ぼく、そこまで魔石酔いしないから、まだいいけどね」
「軍務中は魔石を頼るしかないが、学園におる時くらいはグレース先生に供給をしてもらった方が効率がいいのでは、と思ってな。ある種、資料としても欲しくてな」
「そういえば、ノイズがある分、魔石の方が多く必要なのでは、と以前仰ってましたね」
「うむ、ワルデン君にも悪くない話じゃと思うが……」
わたしは何も問題ない。何よりこの仕事は誰かの、人々の役に立ちたいと思って始めたものだから。でも……。イーゴンくんの方をちらりと見ると、彼もこちらを見ていたようで目が合う。
「あ……」
「……いいよ! 先生、かわいいし、理事長がそれだけ言うなら相当質がいいんだろうし。でも、記録取る時はお菓子用意してくれたら嬉しいなぁ!」
「前においしいと言っておったものを用意しよう」
「やったぁ!」
「じゃあ、グレース先生、よろしく頼む。……そろそろ次の授業か。ルカ先生、ワルデン君を教室まで送ってくれるかの」
「えー! ぼく、ひとりで行けるし!」
「……次の、授業の場所、以前と変わってますが、分かりますか……?」
「……っ! さっさと行くよ!」
イーゴンくんとルカ先生は理事長室をあとにした。ずいぶんと性格がはっきりとした子だったなぁ。それにしてもルカ先生だけに当たりが強かったのは気のせいだろうか。
「……すまんのぅ、グレース先生」
「へっ? 何がですか?」
「この学園で供給してくれとるだけで有難いのに、実験にも付き合わせることになってしもうて……」
「いえ! わたしは皆さんの役に立ちたいですし、自分でも格好の実験体なことは分かっていますし。もし、わたしの後に同じような人が現れた時には、わたしの経験を有効に使ってほしいです!」
そう言うと、理事長は眉尻を下げ「どうしてそんな……」と呟きながらわたしを抱きしめてくる。
「グレース先生が誰かの役に立ちたいことは分かっとる。魔力があること、供給できることが、その願いを叶えられることも理解しとるが、お願いじゃから自己犠牲のようには使わんでくれ……」
「自己犠牲……? そんなつもりは、」
「先生自身はそうでも、わしには自分の身は二の次と考えとるように見えるから、心配なんじゃ」
「……ふふ、心配性ですね。わたしは大丈夫ですよ! こうやってみんなのために働けてるだけで幸せですから!」
アイザックさんの腕から離れると、「分かっとらん……」とやれやれといった感じで自分の椅子に座り直していた。魔力を供給することで、なにか体調に異常をきたしているわけでもない。だから、本当に大丈夫なのに。
この学園の人はみんな優しいなぁ、優しすぎるくらい。
そう思いながらみんなが使ったカップを洗って片付けてから供給室へと戻った。
その日のお昼休み、イーゴンくんは早速供給室を訪れた。
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