第12話 回復魔法の使い手は小悪魔系男子 前編

「……ということで、連絡事項は以上です。他には……」

「わしからいいかの」

「理事長! 珍しいですね」

「私的な呼び出しになってすまんが……グレース先生、この後、理事長室に来てくれるかのぅ?」

「っ! わ、わたしですか……?」


 まさか自分の名前が呼ばれると思っていなくて、肩がびくりと跳ねる。


「悪いことじゃないから安心せい」

「分かりました」

「以上ですかね……では、本日もよろしくお願いします」


 恒例の朝礼が終わり、必要な書類などをまとめてから理事長室へ向かう。何の用事だろう。悪いことじゃない、とは仰っていたけど、ケイレブくんのこととかあったし少し、本当に少しだけ不安だ。


「失礼します……」

「おお! 早かったのぅ。まだ来ておらんから、座って待っといてくれ。お茶でも入れるかの」

「お茶なら、わたしが」

「近々、ここにもグレース先生愛用の茶葉を置くとするかの」

「ふふ、淹れ方の説明も一緒に渡しますね」


 そんな他愛ない会話をしていたら、室内にノック音が響く。そういえばまだ来てないって、誰が来るのだろうか。そう考えながらドアの方を見ると、そこには同僚のルカ先生がいた。


「おお! 来た来た! ……彼はどこに?」

「……その、まだ、学園に、来てなくて……。おそらく、寝坊、かと……」

「自由な子だとは思っておったが、まさか今日もそうだとは。ということで、グレース先生、もう少し待ってもらえるかの?」

「は、はい!」


 ルカ先生の分のお茶も用意して向かいに座る。理事長の反応からして、ルカ先生もこの用事に必要なようだけど、まだ人が来るようだ。自由な子……、学園の生徒かな。結構な数の生徒に供給をしてきたけど、一度も訪れていない生徒もまだ多くいる。その中のひとりだろうか。紹介されるってことは何か特別な事情でもあるのかな。いろいろと考えを巡らせながら、お茶を飲み干す。

 わたしが理事長室に来てから、およそ30分くらい経った頃、再びノックする音が聞こえた。開かれたドアの向こうには、小柄な子がいた。学園の制服を着ているから生徒だろう。瞳が大きくて一瞬見ただけなら、ボーイッシュな女の子に間違えてもおかしくないくらいかわらしい子が理事長室に入ってくる。


「寝坊しちゃった! 久しぶりの学校楽しみすぎて、夜眠れなくて……」

「構わんよ。何もなかったならそれでいいわい」

「お茶、入れますね」

「あ! ぼく、甘いのがいいなぁ!」

「甘いの、ですか。えっと……」

「……こら、イーゴン君、困らせては、だめ、ですよ……」

「……ふん!」


 頬を膨らませそっぽを向いて、イーゴンと呼ばれる人物はルカ先生の隣に座る。こんなに目立つ容姿の子なら学園で見かけてもおかしくない。たしか供給には訪れてなかったはず。


「こほん……ではそろそろいいかの? 彼はイーゴン・ワルデン君。1年でルカ先生のクラスじゃ」

「ああ、だからルカ先生も呼ばれたんですね」

「うむ。……それと彼の魔法は……回復魔法じゃ」

「回復魔法!? 世界的に見ても珍しい魔法ってヒューゴくんが言ってましたが……」

「現在、確認されておるのは全世界で3人じゃったかの」

「3人のうちのひとりが彼ですか! すごいですね!」

「ふふん! もっと褒めてくれてもいいよ!」


 イーゴンくんはそう得意気に言う。本当にすごいことだ。

 回復魔法は所謂傷を治す魔法のことである。多くの人に備わっている魔法の性質は、火・水・風・土のいずれかで、中にはふたつの性質を併せ持つ人もいる。回復魔法はそのどの性質も持たず独自の性質を持っており、なにぶん人数が少ないため詳しいことは分かっていないが、便宜上光と言われている。


「それで、ワルデン君、彼女が言っておったグレース・ベネット先生じゃ」

「……本当に魔力感じる……」

「自分でもまだまだ不思議です……」

「ま、先生よりぼくの方がすごいけどね!」

「……グレース先生は、世界で、1人だけ、ですよ」

「ルカ先生うるさい!」


 ボソッと言った言葉が気に入らなかったのか、ポカポカとルカ先生の肩を叩く。回復魔法の使い手でそこまで力を必要としないからか、ルカ先生はあまり痛そうにしていなかった。

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