緑人

短ペン小僧

緑人

今日は転校生がくるということでクラスは盛り上がっている。 

ホームルーム開始のチャイムが鳴り、いよいよかとクラスのテンションは頂点に達した。


ガラガラ、と建付けが悪いドアを開けクラスの担任が入場してくる。

後ろからついてくるのは転校生か。


一人の男子が拍手をするとクラス全員に伝播して拍手喝采、ヒューという指笛まで聴こえてきた。


しかし、転校生が教壇に上がりその顔が全員の目に入った瞬間、クラスには動揺や困惑の声が上がり始めた。

それに追い打ちをかけるように転校生はこう言い放った――


「この学校、校舎だけじゃなくて先生まで年季入ってますね。アハハ」


見知らぬ他人という点、そして彼が"緑人"であるというダブルコンボでそのボケは見事にスベり、困惑が一層極まった。

おまけに担任は老け顔を気にしていて、その地雷まで踏んでしまった。


クラスの空気は一転、転校生が教室に入る前とは比べ物にならないほどの静けさになった。


ディスられた先生までもが呆気にとらわれる中、ある男が現れる。


「ごっめ〜ん、また遅刻しちった!ガハハ」


遅刻したのにも関わらず、一切悪びれず堂々としている姿は爽快だ。

いつもならここで怒号がとぶが、今日はヒーローのようだ。


「おっせーよー!」

「元気良すぎウケる〜!」

「俺と深夜までネトゲしてたもんな〜!」


クラスの雰囲気は一旦明るくなった。


担任は咳払いをして言った。


「また遅刻か、まぁ良い座りなさい。」


「へーい。」


俺は教室の一番後ろの端が席だが、その一個前がショータの席だ。

ショータは席について話しかけてきた。


「よっ、ナオキ今日早いな。」


「お前が遅刻してんだぞ、それより前見ろ。」


「そっか、なになに」


転校生を見たショータは驚きもせず言った。


「そーいや今日転校生来るって言ってたな、どういうやつだろ。」


「驚かないのかよ、ショータ。」


「なにが。」


「緑人。」


「あー。」


「なー緑人てどうやって誕生したんだっけ。」


ショータは聞いてきた。


「生基でやっただろ。」


「ち○こ?」


「アホ、違うわ。生物基礎。確か俺ら緑黄色人種が突然変異して肌が緑色になったんだろ。」


「そんな略し方ねーよ!けどサンキュー。ガハハ」


そう言ってショータは爆笑した。

すると、隣の席のマツダが話しかけてきた。


「なぁ、緑人て日焼けしたら何色になんのかな。」


「バカ、聞こえてんぞ。」


こいつはいつも声がでかい。

気づくとクラスは少しガヤガヤしはじめていた。

担任は転校生に自己紹介するよう促すが、転校生はうつむいている。


ショータがつぶやいた。


「緑人ってだけであいつ、苦労してんのかな。」


「そりゃ緑黄人種社会のこの島で少数派の緑人は孤立しやすいだろーな。

現にこのクラスでも受け入れきれてないやついるぜ。」


マツダは、転校生をチラ見しながら小声で話している女子たちを指しながら言った。


ショータはまたつぶやいた。


「なんで肌の色で判断されんだろーな。」



「じゃお前ユメに告られて付き合えんのかよ。」


マツダはすかさず聞いた。


「俺はムリだぜ。だってブスだもん。ナオキもそう思うだろ?」


「うーん。」


「要は容姿は人の好感度に大きく関与するんだよ。対偶の大小はあったとしても一緒なもんじゃないの?顔面と肌の色もさ。」


ショータは少し考えた様子だったが、すぐにこう言った。


「サンキュー、マツダ。」


「え?」


俺とマツダは困惑した。


そして俺らに意味を考えさせる暇を与えず、ショータは立ち上がって転校生の元へ歩いていく。


転校生は相変わらず俯いたままで、クラスは賑々しい。

今の彼には俺らのことが敵に見えていそうだと思った。


ショータはズンズンと歩いていく。


次第に視線がショータに集中し、転校生の前に立ったときにはクラスが静まり返っていた。


この状況でショータが何を言うのか、固唾を飲んだ。


そしてショータは言った。




「俺と付き合って下さい!!!!!」




一拍おいて、クラスは爆笑の渦に包み込まれた。


「俺は良いと思うぞー!」

「ショータ君って両方行けるの〜?」

「転校生君、断って良いんだからねー!」

「ウケる〜!」


転校生は今日初めて笑った。


ショータが少し照れながらもドヤ顔で席に戻る様はとても爽快だった。





後で思い出したんだが、ショータも転校生だった。

転校初日に面白いこと言ってた気がするんだけど、なんだったっけな――。





「こんにちは!親の転勤で越してきた今野ショータです!

俺、見た目キモいってよく言われるけど、話してみると意外と面白いです!

てか、人間みんな話さないとわかんないと思う!

ごめん、長くて。よろしく!」


「あ、あとそれと――」


ナオキは目線を手元の参考者から転校生に向けた。


「先生をはじめて見たとき、神々しくて直視出来なかったです!プッ、ガハハ」


担任が顔を赤らめてプルプルしている。

クラス全員が不穏な空気を感じとった裏腹に、転校生の笑い声が気持ちいいほど教室に響いていた。


































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緑人 短ペン小僧 @plentyofcats

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