第17話 マリスプルーフ攻防戦 3
その男の子は今は無き小さな村で生を受けた。
父は領主。母は僕を産んですぐにいなくなったらしい。
「ねぇ、お父様。お母様は何処にいるの?」
「お出掛けに行っているのさ。お前には私がいるさ」
その言葉を額面通りに受け取った子供は母の帰りを待ち続けた。
定期的にお土産と手紙が届く。
だから信じることが出来た。
だから信じたくなった。
いつしか母の話題は出さなくなった。
⚪︎⚪︎⚪︎
その男の子には魔術の才能があった。
火魔術は齢一桁で講師に就いていた初老の魔術師を上回っていた。
更に発現者の少ない闇魔術を扱え、将来を担う天才と持て囃されていた。
「なんで俺より弱いやつから指図されなきゃいけねぇんだよ」
「貴方様に必要な事は思遣りでございます。大切な方を作ってくだされ」
領民との仲は深めず、家という限られた空間で生活していた男の子は反抗期に入り小さな事で怒る様になった。
だけど、それでも魔術は勉強して腕を磨いた。
だって頑張ったら褒めてくれるから。
だって僕を見てくれるから。
そしたら講師は辞職し、父から叱られた。
⚪︎⚪︎⚪︎
その男の子は運が無かった。
その日、会合に向かった父は帰ってこなかった。
「おい、父上はいつ帰ってくる?」
疑問に答えたのは屋敷に残っていた執事だった。彼が言うには帰路の馬車で賊に襲われたらしい。
込み上げたのは怒りではなく虚無だった。
あぁ、やっぱりか。みんな俺から離れていくんだ。
「私がいる」と言った父も「大切な方を作れ」と言った講師もみんな俺を置いていなくなる。
そうして男の子は絶望に暮れた。
だって、外が怖かったから。
だってずっとそうだったから。
⚪︎⚪︎⚪︎
「くそっ!」
ソーンと名乗る冒険者を燃え盛る槍で足止めした魔人ことインクャ・キスィは建物の間を縫うように地を駆けていた。
想定外だ。なんだあの適応力は。俺の攻撃を受けるたびに奴の動きが洗練されていく。
「あはっ!でもっ!!ここまでですよぉ!?」
走り抜けた先に見えるは海岸。先程の轟音は耳にしていた。その影響で魔獣や魔物が一網打尽にされた事も知っている。
だけど魔人には笑うだけの余力がある。
嗤えるだけの圧倒的な贈り物がある。
「さぁっ!!来なさい木偶っ!!!私が上手く使ってあげますよっ!!」
恐魔大陸で拾った生きてる死体。より正確に言うなら死に損ない。
インクャには、それに心当たりがあった。実際見たのは初めてだが、知っている特徴と一致する。
事を成した後、置いて行かれたそれに多少同情し復讐の為使ってやる事にした。
その言葉に応える様に対岸から一直線に何かが飛来する。
マリスプルーフの沿岸部に降り立った外套を被ったその者は声にならない声をあげて、目の前の少女に語りかける
ー ソーン 視点 ー
「さて、ここにいたですか」
魔人が居た場所は沿岸部に近い広場。大通りから外れており何も置かれていない。
真新しい建物が多い事から、この地もその内何かが建つのだろう。
「魔王もいない。聖女もいない。勇者もいない。今なら行けると、思ったんですけどねぇ!!......はぁ。それにお前。それからもう1人。なんなんですかお前達は人の復讐に邪魔だてしてっ!そんな価値があるとでも!?!?」
広場の中心、魔人は200,300と多様な魔術を展開しソーンを睨んでいた。
「知りませんですよ。そんな事。後、聖女様も師匠も生きてる。勝手な事言うなです」
ファルシオンを抜き、世迷言を言う魔人に切先を向ける。
大丈夫です。レガート様が何とかしてくれる。そう言ってたです。
「あはっ!!ははっ!!楽しみですねぇ!その顔が歪むところがっ!!!」
「もう黙れです」
魔人が魔術を、ソーンが剣術を。
そしてここにマリスプルーフ決戦の一つが開始された。
ー カレン 視点 ー
「人か?いや人だよな外套来てるし」
何だあれ?
まず背が高い。背格好は男だろうか。
そして右手には飾り気の無いブロードソード。昔の俺がよく使ってたな。
服と外套で露出を抑えているが見えている肌が青白い。どこの種族だよ。
魔力がずっと漏れている。突然岸に現れた事から身体強化が出来ると思うが、あれでは無駄が多すぎだ。
恐らく的。だが首魁は既にソーンが向かっており、手下だとしてもこっちのが強い。
だから奴に抱いた印象は場違いなモノ。
「......ぁあ、......ぇあ」
「こちとら戦時だ。それ以上来るなら容赦は出来ないぞ」
意思の疎通は出来なそうだが一応の警告。
「......ぁああああ!!!!」
「そうかよっ!!」
ブロードソードを片手に半狂乱の何かと鮫鞘に手を掛けたカレンがマリスプルーフ決戦の一つを開始した。
⭐︎⭐︎⭐︎
話がダレてる自覚はあるんです。
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魔王を倒した私は、お姫様と結婚します! 久瑠璃まわる @saito0915
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★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
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